〖承-15〗竜の扉(241208投稿)

【荒野】

・真っ暗な荒野(ムア)の中を、ローバーが走行する。ヘッドライトとセンサーが、ギョロギョロと目玉のように地面を照らす。象の足のように大きな6輪のタイヤが地面を踏みしめる。武骨なラダー・フレームが剥き出しになった車体の上に、透明で泡のようなドーム型のキャビンが載っている。キャビンの中にはソフトシェル(船内宇宙服)を着た5人が乗車している。


・ローバーがバウンドして、前輪が地面を離れる。フロントフェンダーの上の姿勢制御用クラスターの光が強くなり、タイやが地面に押しつけられるように接地する。


・ローバーのキャビンの中、ソフトシェル(船内宇宙服)を着たジェイク・サンディ、ケンノビ・ドリー・ゲンさんが搭乗している。


・ドリーがキャビンの透明な屋根越しに宇宙を見上げる。キャビンの外は真っ暗だが、瞬かない星がバケツをぶちまけたように広がっている。


ドリー:「いつ見ても、吸い込まれそう・・・」


ケンノビ:「ん」


・ケンノビが、手をドリーに差し出す。ドリーが嬉しそうにその手を握る。


・ドリーが、ケンノビに無邪気な表情で言う。


ドリー:「何処へ行くのでも、着くまでって長く感じるよね」


ケンノビ:「行きは知らない道を行くから長く感じるんだ。。帰り道だとあっという間に着くもんな」


ドリー:「本当にそう。凄い不思議」


・ドリーが、ケンノビの手を握ったまま、両手を上に挙げて背伸びをする。


・ローバーが、クレーターの縁のすぐ脇を走行している。ローバーの左側が崖のように、50mくらい大きく切り落とされて落ち込んでいる。


・クレーターの崖上から崖下に向かって、大きく回り込むようにカーブする下り道がある。ローバーが車体を揺らしながら降りていく。


・先ほどまでローバーが走っていた崖の側面に、幅30m高さ20m程のシャッターが設置されている。シャッターの左脇に、人出入り用のエアロックがある。


・ローバーが、崖上からカーブした下り坂を降りてくる。人出入り用のエアロック前に停車する。ローバーが、ブレーキを掛けて、ガクンと慣性で揺れてから停車する。


・ローバーの室内、サンディ・ゲンさん・ケンノビ側の透明なキャビン横の壁が、静かに少し外側に押し出て、そのまま上にずれて、開口する。


・ローバーから、5人が降りてくる。


・人用エアロックの前にジェイクが立つ。遅れて4人がジェイクの後ろに立って、エアロックを覗き込む。


・ジェイクの前には、エアロックの電子キーコンソールがある。4つの小さなLEDランプが消灯している。


ジェイク:「ここが在庫表に書いてあった[竜の扉]だ。ルナシティからエウレカに辿り着いた植民船が初めて接舷した場所でもある。入植時に作られらた臨時倉庫で、最初の2~3年はここを拠点として活動していた」


サンディ:「ここが最初のベース基地みたいなものだったんですね」


ジェイク:「そうだ。この岩盤をくりぬいて車両基地や臨時休憩所を作り、エウレカの1次探索を行った」


ケンノビ:「ここを使わなくなった理由は…、太陽からの宇宙線か」


ジェイク:「そうだ。まぁ、5mも岩壁があれば、それほど気にする必要は無いんだが、それでもな。居住拠点は、念を取ってガンシティ側になった。そうなると、ここは使い勝手が悪くて使われなくなった」


ジェイク:「次に使われたのが、この太陽光パネル工事の時だな。これも建材や車両などの仮置き場として使われた。ちょうと、レイラとマヌエルが産廃置き場で出会ったのもその頃だ」


ケンノビ:「ウチの在庫が入っていたのは?」


ジェイク:「ここを誰も使わなくなってから、初代が安く買い受けた。嵩張って、頻繁に商売が動かない在庫を置くのに使っていたらしい」


・ドリーが、ジェイクとコンソールの間に身体を差し込んで、操作盤を覗き込む。


ドリー:「ねぇ、倉庫の中見たいから、入ろう? 中入ってから話そうよ・・・」


・ジェイクが、ドリーの華奢な背中を見ながら肩をすくめる。


ジェイク:「こっちのセキュリティは死んでんだ」


ドリー:「え?、マジで?。ここまで来たのに?」


・ドリーが周りを見回して、車両用出入り口側のセキュリティ・センサーを見つける。


ドリー:「あっちにもあった!」


・ドリーが、車両用出入り口シャッターの中央にあるセキュリティセンサーの前に行く。ケンノビの方を見て、ブンブンと両手を振る。


ドリー:「こっちのセキュリティは生きてるよ~」


ゲンさん:「車両用のセキュリティセンサーなら、車両側から操作しますか?」


・ジェイクが、フードの中で鼻を鳴らす。


ジェイク:「セキュリティの規格が古すぎてな。ケンノビのぺリル号が動けば、船が環から開けただろうが」


ゲンさん:「ぺリル号を動かすために来ているのに、ぐるぐる回っちまいますね」


サンディ:「なるほど・・・」


ジェイク:「ゲン、操作してみてくれ」


ゲン:「了解っす」


・ゲンさんが、車両用出入り口のセキュリティ・センサーに近づく。覗き込むように、セキュリティ・センサーをパチパチと操作する。


ゲン:「オヤジ、こりゃあきませんぜ。セキュリティ・コードをテンキー入力で押す仕様になっています。キートップ1つ1つが小さなディスプレイになっていて、数字が表示される奴ですわ。そのディスプレイが故障して死んでます。このテンキー上の4つのランプは点灯している・・・、キーを押すと点滅するからシステムは生きているのか・・・」


ドリー「え~」


・ジェイクが、髭のところに手を持って行って、フードに邪魔されて、仕方なく胸の前で腕を組む。


ジェイク:「初代が死んで店継いで、あの在庫リストを見つけて、ここに来たときには、その状態だったんだ」


ジェイク:「リストの内容見ても、オールドタイプの規格品ばかりで欲しいというモノもなくてな。それきり忘れていた」


・サンディ:「折角ここまで来たんで、俺がやっても?」


ジェイク:「良いさ。やってみな」


・サンディが、ブラックアウトしたテンキーを、デタラメに押す。サンディが押した後、テンキーの上に設置されてた4つのLEDライトが、左から右に流れるように順番に点滅するが、消えてしまう。


ジェイク:「こんなんだから忘れてたんだ。ケンノビが、リスト片手に尋ねてくるまで」


ケンノビ:「え?」


ジェイク:「俺に取っちゃ、あのリスト通りなら、入っているものは古すぎて、無理して開かなくて良いんだ。けど、ケンノビに取っては絶対開けたい扉だ」


ケンノビ:「…そうだね。ぺリル号と同じ規格の部材ばかりだ…」


ジェイク:「そして、お前のギフトが何であるかを考えれば・・・勝ち目が出てくる」


ドリー:「…そうだよ。ケンノビ! ケンノビってば機械と話せるじゃん! そうだよ! そうだよ!」


・ドリーが興奮して、その場でぴょんぴょん跳ねる。


・ケンノビが、コンソールの前に立つ。


ケンノビ:「う~ん、キーが38個もあるのかぁ・・・」


・ケンノビが試しに、左手の人差し指をキートップに当てて、強く押し込んでみる。キートップが、指の力に応じて軽く押し込まれる。


ケンノビ:「良かった。プッシュして確定するタイプだ」


・サンディが、ゲンを見て首を傾げる。ゲンがそれを見て答える。


ゲン:「坊の力は、尋ねる力だ。機械を直接操作したり、修理したりは出来ない。言ってみれば、トラブルシューティング用の支援ツールだ」


・ケンノビが、左手の人差し指をキートップに軽く触れたままにして、コンソールに向かって話しかける。


ケンノビ:「俺が今から話す数字記号と、このキートップに表示されている数字が合っているかどうか教えてくれ。・・・1」


・ケンノビの左手から青い光が出て、赤に変わる。

・ケンノビの後ろで、ドリーが息をのんで見ている。


ケンノビ:「2」


・ケンノビの左手から出ている光は、赤のまま。


ケンノビ:「3」


・ケンノビの右手から出ている光は、緑に変わる。ケンノビが、後ろでガッツポーズを決めているドリーに話しかける。


ケンノビ:「ドリー、メモしてくれ」


ドリー:「うん!」


サンディ:「地味だが凄いな…」


ゲン:「戦闘には使えないが、俺らメカニックにしてみたら夢のようなギフトだ」


サンディ:「そうですよね…」


・サンディが、宙を見上げる。エウレカを囲むように数キロの小惑星が浮かんでいる。その奥に火星が見える。ダイモスがちょうど見える位置に浮かんでいる。


サンディ:「マヌエルとレイラが作った小さな世界・・・、今生きていたら何て思うんだろう・・・」


ジェイク:「そうだな。少なくとも大人しくはしていないな」


サンディ:「え?」


ジェイク:「俺は、今この扉から2人が出てきても驚かねぇよ。それぐらい常識が当てはまらない・・・、騒々しい2人だった」


サンディ:「そうですか」


ジェイク:「そうだ。もう少し大人しくして欲しいもんだよ」


・5人が立つ姿をなめて、後ろに火星が浮かんでいる。


ケンノビ:「・・・出来た。キートップの文字は、0から9までの数字と、アルファベット26文字だ。そして、エンターとデリートキー。で、解除キーを教えて?」


ジェイク:「とりあえず、初期キーっぽいの入れてみろ」


ケンノビ:「え? 解除キー判らないの?」


ジェイク:「あぁ、何処にも記録が無かった」


ケンノビ:「わぁ・・・、曾爺ちゃん、引き継ぐつもり全然ないじゃん」


ジェイク:「そうだな…、初代がここの存在をまるきり忘れていたか…」


サンディ:「…か?」


ジェイク:「ここを開けられる奴のためにわざわざ残したかだな…」


ケンノビ:「まずは、0000・・・、駄目だな。キートップの文字がリセットされてないよね・・・」


・ケンノビが、ランダムキートップに左人差し指を付けて呟く。


ケンノビ:「このキーに表示されているのは、Rで合っているか」


・ケンノビの左手から青い光が出て緑の光に変わる。


ケンノビ:「よし、変わってない」


ケンノビ:「1111・・・、駄目だ。1234・・・駄目だ。そもそもアルファベットのキーがあるのに、数字4桁はないか・・・」


・ケンノビが、ジェイクを振り返り尋ねる。


ケンノビ:「誕生日とか、電話番号とか、暗号っぽいの知らない?」


サンディ:「あ・・・」


ケンノビ:「うん?」


サンディ:「あの、ちょっと心当たりの記号があるんだけど、今から言うから打ってみても良いか?」


・ケンノビが、ジェイクを振り返る。ジェイクが頷く。


ケンノビ:「ウェルカムだよ、どうぞ」


・サンディが、人文字ずつ区切るように言葉を発する。


サンディ:「M・Y・C・R・O・F・T・X・X・X」


ケンノビが、キーに入力して、エンターキーを押す。何も変わらない。


サンディ:「駄目かぁ・・・」


ケンノビ:「これって、何て読むの? マイクロフト・エックス・エックス・エックス・・・?」


・キートップが全灯する。キートップの上の4つのLEDランプが、左から右へ繰り返し流れるように光る。


ケンノビ:「え?」


・シャッターが重々しくゆっくりと上に上がっていく。


ケンノビ・ドリー:「開いたぁ・・・」


・ドリーが、まだ開いている途中のシャッターの下をくぐり抜けて、中に飛び込んでいく。


ドリー:「わぁ、なんか一杯置いてあるよお! ケンノビ、早く早く!」


ケンノビ:「ドリー、落ち着けって」


・ケンノビが、そわそわしながら、ドリーの後に続く。ジェイクととゲンさんが顔を見合わせて肩を竦める。


・シャッターが開き切る。ジェイクがしばらく上がった状態のシャッターを見て、再び閉まることが無いことを確認する。サンディと、ゲンさんの顔を見て、もう一つ肩を竦める。


・ジェイク:「何で開いたのかイマイチ判らねぇ。また閉まって、中に閉じ込められたらコトだ。俺がここで見ているから、中に入れ」


・ゲンさんが頷き、サンディを引き連れて中に入る。


【竜の扉の内部】

・雑多な装置・設備が平置きされている・


・ゲンさんが、装置の一つ、一つを見てまわる。


ゲン:「こりゃぁ、俺たちにとっちゃジャンク置き場だが、ケンノビには宝箱だな・・・」


サンディ:「どういう事ですか?」


ゲン:「装置の規格が古いんだ。オールドタイプって言って、それこそ60年前に標準だった規格だ。動くは動くのかも知れないが、繋げる船がもう残っていない」


サンディ:「ケンノビにとってお宝ってのは・・・」


ゲン:「お察しのとおりだ。ケンノビのペリル号は、このオールドタイプの規格の船なんだよ」


・ケンノビがトボトボ歩いてくる。ゲンさんに声を掛ける。


ケンノビ:「ゲンさん、ジェネレーターは無かった」


ゲンさん:「そうか・・・、他の部品や装備は何となくありそうだけどな。おっ、あれなんかストライク・ブースターじゃねぇか」


ケンノビ:「うん。けど、肝心のジェネレーターがなきゃ・・・」


ゲンさん:「そうさなぁ・・・、ジェネレーター・・・、核融合炉・・・の長期保管・・・、休止するって言ってもやっかいだよな。発電機・・・」


・ゲンさんがハッと何かに気づく。


ゲンさん:「おい、ケンノビ。この照明の電気は何処から来ている? 機械室があるはずだ。行くぞ」


・ケンノビがちょっと考えて頷き、倉庫の壁沿いを走るように、扉を確認していく。


ケンノビ:「ゲンさん、動力室あった!」


ゲンさん:「おう、今行く!」


【動力室の中】

・真っ暗な室内。


・外に繋がる両開き扉が開かれる。開いた扉から光が差し込み、人型の影法師が浮かび上がる。


ケンノビ:「何か動いてる・・・」


ゲンさん:「まぁ、倉庫の照明が生きているからな。当たり前と言えば当たり前なんだが・・・、よッコイツが照明のスイッチか」


・パチリと闇と光が入れ替わるように室内に灯りが付く。室内にゲンさんとケンノビが立っている。その前に・・・。


ゲンさん:「ケンノビ・・・」


ケンノビ:「ゲンさん・・・」


ゲンさんとケンノビ:「ジェネレーターだ!」


・ゲンさんとケンノビの前に、エンジン然とした形態のジェネレーターがある。大きさ幅2m奥行き2m高さ1.5mの鉄の塊。配管がいたるところに張り巡らされて、ブロックのような凸凹がいたるところに突き出している。補強だか廃熱だか良くわからない模様が表面を覆っている。ジェネレーターの上のヘッド部分が赤く塗られている。

・ヘルメットの中、ゲンさんの眉毛がピクリと上振れする。


ケンノビ:「伝説の赤ヘッドじゃねぇか・・・」



241208投稿


[記号凡例]

 ①〖〗 エピソード番号 起承転結に分けて採番する。〖資〗は資料編。

 ②【】 主に、場所を記載する。

 ③〈〉 氏名・固有名詞・用語。本文中に説明があることがある。

 ④《》 氏名・固有名詞・用語の説明。

     本文中と資料編「登場人物・用語集」に説明がある。

 ⑤ ・ 主に、登場人物の動きや表情を記載する。

 ⑥ ・ アニメで言う背景・ドラマで言うセットの内容を説明する。

 ⑦ 名前:セリフを記載する。例)ドリー:「こんにちは!」

 ⑧ 説明:状況を説明する。

 ⑨[] :神沢メモ他を記載する。

 ⑩ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ :シーンとしての区切り。






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アステロイド・オペレーション【シナリオ】 神沢 篤毅 @kaminami

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