〖承-14〗誘拐の動機 (240922 投稿)

【純喫茶モノアール】

・50m平方程度の古風な喫茶店。毛足の長い絨毯、木壁としっくいの壁。天井から下がるペンダントライト。客席は1人用ソファが4つとローテーブル1つがワンセットになった4席で、室内にざっと20セット程度配置されている。約半分位の席が客で埋まっている。ソファは座ると沈み込む感じの柔らかなタイプ。

イメージは、純喫茶ルノアール。店内には、BGMでジャズの名盤が流れている。


・壁沿い4人席に、猿滑税務官と、マリー税務官が横並びに座っている。

 マリーが、物珍しそうに店内を見回している。


マリー:「先輩、この店良く来るんですか?」


・猿渡が、手に持っていたタブレットから目線を上げて、チラリとマリーを見る。


猿渡:「なんで横に座る? 正面で良いだろう」


・マリーが、ニヤリと笑う。ほほに笑窪が浮かぶ。


マリー:「う~ん。なんとなくですかね? 落ち着いた良い店ですね」


猿渡:「あぁ、落ち着きたいときや、考え事をしたいときに来る」


マリー:「あ~、確かに。この店、落ち着いているし、渋いし、ちょっとオジサンっぽいですけど」


・猿滑は、マリーを横目で睨むと、一拍おいて深くため息をついて、タブレットを左手持ったまま右手伸ばし、テーブルに置いたコーヒーを取って一口飲む。タブレットのディスプレイにはニュース記事が表示されている。


・マリーが、横の席から上半身を猿渡の方に傾けて、猿渡のタブレットを覗き込む。


マリー「先輩、何見てるンですか? ロクデモナイものですか?」


・猿渡が、マリーを横目で睨む。


猿渡:「仕事じゃない。プライベートだ」


マリー:「妹さんの関係ですか? 手伝いますよ。ほら、ことわざで、忙しいときには猫の手でも借りた方が良いって、言うじゃないですか」


・猿渡が、ふぅ、と大きく息をついて天井を見上げる。そして、マリーを探るようにじっと見つめる。


猿渡:「・・・猫の手・・・か」


・猿渡が、身体の力を抜いてソファの背もたれに身体をあずける。


猿渡:「伝えるのが遅れたが、1ヶ月ほど休暇を取る」


マリー:「え? 聞いてませんけど。私たちバディですよね」



猿渡:「プライベートだと言っているだろう。ちょっと気になることがあるんだ」


マリー:「教えてください。手伝えることがあったら手伝いますよ」


・猿渡は、マリーの梃子でも引かない表情を見て、諦めてため息をつきながら話し始める。


猿渡:「・・・この20年で未解決の誘拐事件が32件ある。被害者は全て9才から16才の子供だ」


・マリーが、じっと猿渡の顔を見て頷き、言葉を待つ。


猿渡:「攫われた場所はハヤブサ北ポートの近く。誘拐された後、身代金の請求は一切無い。共通しているのは、攫われた子供達が全員、強力なギフトを持っていた点だ」


マリー:「知っています。ルナシティ工作員による誘拐の可能性が高いと言われていますよね」


猿渡:「英雄レイラが活躍していた頃なら、ギフト持ちの数が少なくて、かつそのほとんどがハヤブサの人間だったから、ルーニーは誘拐したかも知れない。だが今は、火星の反対側のラグランジュ点に、地球連邦とルナシティが運営するホワイトベースが浮かんでいる。そこでは、ここと同様にギフト持ちの子供が生まれている。わざわざ、リスクを冒して誘拐する必要なんて無いんだ」


マリー:「そうですね。それに、ギフト持ちを月や地球に連れ帰っても、しばらくするとギフトは失われてしまうから、地球や月に連れ帰っても仕方が無い」


マリー:「あとは・・・、ハヤブサへの潜入調査のためとも言いますね」


猿渡:「これも、英雄レイラが続々とオーバーテクノロジーを生み出していた頃ならともかく、今更だな」


マリー:「ハヤブサ生まれの戸籍が必要だったのでは?」


猿渡:「工作員の潜入方法の一種ではある。ただ熟練の工作員が成り代わるのに、わざわざ子供の戸籍を狙うか? 親の目をごまかすのは不可能だ。それに、今の戸籍は1人1人の遺伝子情報とリンクして認証を行う。リスクが高すぎる」


マリー:「う~ん。じゃぁ、先輩はどう考えているんです?」


猿渡:「動機を考えている」


マリー:「動機ですか?」


猿渡:「これが個人の犯行なら、金銭トラブル、うらみ、性犯罪、いろいろ可能性がある。しかし、これはどう見ても組織犯罪だ。これだけの人数が誘拐されて、同じ手口の犯行で、目撃者が1人もいない」


マリー:「まぁ、複数人による犯行でしょうね」


猿渡:「犯罪が組織による犯行なら、目的がある。やりようがある」


マリー:「というと?」


猿渡:「組織による犯行なら、損得が絡む目的がある。この事件で誰が得をするのかを考える。そして、金の流れを追う」


マリー:「うん?」


猿渡:「目的があるから打つ手が決まる。打つ手には金がかかる。その金がどこから出ているかだ」


マリー:「先輩は、それをやりすぎたから、税務官になったんですか?」


・猿渡が、マリーの踏み込んだ質問に少し身体を引く。


猿渡:「・・・まぁ、そうだな。そして、俺を警察から外して誰が得をするのか。そして、その命令は誰が出せるのか。その金を出している人間は誰か?」


マリー:「今回は、その関係で?」


・猿渡が、苦笑いを浮かべて、コーヒーを一口飲む。


猿渡:「プライベートだ。俺は、猫を見に行く」


マリー:「地球の? 実物を見たことあるんですか?」


猿渡:「俺は無い。ハヤブサにも火星にも猫は居ないからな」


・猿渡が、タブレットを操作し、1枚の画像を表示する。それは、小学生高学年の少女が歩いている映像。


マリー:「先輩、シスコン持ちだと知ってましたが、ロリコンも持っているダブルホルダーなんですか?」


猿渡:「どうしてそうなる?」


マリー:「だって、こんな小さい女の子の写真見せられても・・・」


・猿渡が、もう1度手元のタブレットに表示されている写真をマリーに見せる。そこには、11~13才程度の少女が歩く姿。その写真をピンチして、少女の足元を拡大表示する。


マリー:「脚フェチですか・・・、どこまで業が深いんです・・・」


・マリーが、写真を凝視している。写真の少女の足元の陰に、隠れて見える黒い小動物の姿。


マリー:「・・・黒猫ですか?」


猿渡:「目撃情報がある。強いギフトを持つ子供の元に現れている。めったに写真には写り込まない。まるで、街中に仕掛けられている防犯カメラの位置を把握しているかのように」


マリー:「ルナシティからの移民団は、猫を持ち込まなかったですよね」


猿渡:「古来、黒猫は魔女のシモベと言われてきた。また、異世界の危機に、小動物の姿をした妖精が、この世界に勇者を探し来るという伝承が繰り返し伝えられている」


マリー:「それって、アニメの見過ぎでは?」


・猿渡が、ニヤリと笑う・


猿渡:「そうだな。本当にそうだ。自分でもそう思う。だが、レイラのシモベの1つが黒豹なのは有名な話だ」


マリー:「この写真の猫って子猫程の大きさですよね・・・」


・マリーが、あざとく人差し指を顎に当てて考え込む仕草をする。


マリー:「それで、なんで休暇を取るんですか?」


猿渡:「直近で、黒猫の目撃情報がある。それを確認しに行く」


マリー:「え?」


猿渡:「ジェシカ・ナイトウェイだ」


マリー:「あ~、レイラ・ザカートの生まれかわりって言う・・・。彼女って、採掘プラットフォームの生まれで・・・」


猿渡:「そうだ。彼女と黒猫が一緒に居たという目撃情報がある。そして、秋からザカート総合高校に転入する。現在定期輸送船で移動中だ」


マリー:「レイラが設立した英雄学校・・・」


猿渡:「元々は当時迫害を受け教育を受けられなかったギフト持ちの子供達を救うための学校だった。それが英雄学校になったとは皮肉だな」


マリー:「私も行きます! …って言うか、ほっといても秋までにはハヤブサに来るじゃ無いですか!」


猿渡:「そうだな。だが、あれだけの有名人をハヤブサの中では掠えないだろう。掠うなら、途中寄港するプラットフォームジェミニを出た後だろう」


マリー:「宇宙空間で? 誰が? 相手が誰か判っているんですか?」


猿渡:「明日残務整理して引き継ぐぞ。ジェミニ行きの定期輸送船が明明後日出港で2週間で到着。現地で2泊して、ジェシカの乗る定期輸送船に乗り換えて帰ってくるだけだ」


マリー:「む~」


猿渡:「駄目だ。他人事だろう。キチンと自分の仕事をしろ」


マリー:「む~。自分だって、職場放棄するくせに・・・」


猿渡:「いや、俺は計画有休だから。まぁ、何事もなく帰ってくるさ。土産を楽しみに待っていろ」


マリー:「む~」


猿渡:「いや、本当にさ? お前は優秀なんだし、先もあるんだから、ちゃんと仕事しよ? な?」



240922 投稿


[記号凡例]

 ①〖〗 エピソード番号 起承転結に分けて採番する。〖資〗は資料編。

 ②【】 主に、場所を記載する。

 ③〈〉 氏名・固有名詞・用語。本文中に説明があることがある。

 ④《》 氏名・固有名詞・用語の説明。

     本文中と資料編「登場人物・用語集」に説明がある。

 ⑤ ・ 主に、登場人物の動きや表情を記載する。

 ⑥ ・ アニメで言う背景・ドラマで言うセットの内容を説明する。

 ⑦ 名前:セリフを記載する。例)ドリー:「こんにちは!」

 ⑧ 説明:状況を説明する。

 ⑨[] :神沢メモ他を記載する。

 ⑩ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ :シーンとしての区切り。




猿渡:「消去法で消していくとそうなる」

マリー:「まぁ・・・、そうですね」

猿渡




マリー:「魔王から離れてしまうから」

猿渡:「ルーニーや地球虫はそう呼ぶ。木星音階の発生源、ジュピターゴーストと離れるから使えなくなるのは事実だろう」

・猿渡は、ふぅとため息をつく。

猿渡:「今となっては、ハヤブサでリスクを冒して誘拐なんてリスク高いことをする必要がない。月と地球の勢力圏の〇〇がある。休戦区域となった火星にだってあるんだ」

マリー:「」々推測されている。ルーニーは、てギフト持ちは、地球と月では生まれないからな。」


・税務官

・何やってるんですか?

・ちょっと休暇をだな?

・何処かいくんですか?

・野暮用でな

・先輩、それなら私も行きます

・一蓮托生? ツーと言えばカー?

・先輩は判ってますよね? 私がお目付役

・うむ。子供が誘拐されるタイミングがある 海で遊んでいるときだ・


奥行き50

幅49

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アステロイド・オペレーション【シナリオ】 神沢 篤毅 @kaminami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ