デートの誘いは織田信長と
あばら🦴
デートの誘いは織田信長と
憧れの人に恋焦がれている男子高校生、
「どうしたんだよ。顔暗いぜ?」
「あ、いや……」
遠慮がちに話す村田に友人はニカッと微笑んだ。
「話してみろって! 水臭いな、友達だろ?」
「じゃあ……ちょっと相談があるんだけど」
恥ずかしがりながらも村田は好きな先輩がいること、一度告白を試みたが事故で失敗したこと、二度目の告白にどうしても踏ん切りがつかないことを話した。
するとその友人はある提案を思いついた。
「ひとついい考えがある。今夜その先輩に電話をかけてみて───」
その日の夜、自宅の自分の部屋にいた
「村田くん。どうしたの? 珍しいね」
「あ、あの、先輩。勉強を教えてほしいんですけど、大丈夫ですか?」
「あら、もっと珍しい……。いいよ! 後輩の頼みだもの、私に任せて!」
第一関門は突破、と村田は思った。友人から言われた提案を思い出す。
『デートに誘うんだ! え、無理だって? 何もいきなり誘うわけじゃないよ。勉強を教えてもらってそのお礼としてショッピングに行きましょうってやり方でいい。その後は映画なんか見に行ったりしてさ。お前映画詳しいだろ? まあ勉強断られたら終わりだけど』
勉強開始から三十分。西原は去年使っていた教科書を引っ張り出して電話越しに歴史の範囲を教えていた。
「───ということで家督を継いだ十三年後、ようやく織田信長は尾張を統一できたんだ」
「なるほど……」
とその瞬間村田は(そろそろ切り出す時だ!)と意を決する。
それと同じタイミングで西原の部屋に母親が入ってきた。西原はスマホを机に置いて、座っていた椅子から離れて母親に近寄った。
「どうしたのママ?」
「これ、友達から貰ったのよぉ〜! おいしいチョコ。希子にもあげるわ」
「わぁ、ありがとう!」とチョコを三粒受け取った。
その間にも村田は西原が聞いていないことに気づかずデートに誘っていた。
「あの、お、お礼がしたいので今度、ふ、二人で出かけませんか? 決してやましいことではなく! あくまでお礼でなにかプレゼントし、先輩に感謝を伝えたくて、その……」
母親と話が終わった西原が机に戻り、スマホから村田が喋っていることに気づく。
「ん? 何?」
「そ、それで欲しいものとかありますか……?」
(信長のこと?)と考えた西原は言った。
「やっぱり天下よね」
「天下!?」
驚きの返答に村田は困った表情を浮かべて言う。
「ぼ、僕に天下なんて用意できるかなぁ……」
「できるわけないでしょ。何言ってるのよ」
「ですよね……。えっ、本当に天下が欲しいんですか?」
「もちろんよ。そのために頑張ったんだから。有名な話だと思うけど」
先輩の意外な一面を知った村田は(そんな野望が……)と思いつつ恐る恐る尋ねる。
「ど、どんなことしたんですか?」
「各地にいるのよ。同じように天下が欲しいって人が。だから戦って勝っていくみたいな感じね。ていうか知らなかったの?」
「いや、全く知らなくて……。言わばヤンキーみたいな感じですか?」
「そう呼ぶのは良くないわよ。真剣に命かけて戦ったんだから」
「す、すみません! 気をつけます! バカにして申し訳ありません! 許してください!」
「いやそこまで謝ることないんだけど……。本当に知らないの? 戦国時代のこと」
「戦国時代……。そう呼ばれてるんですね。全く知りませんでした」
西原は思った。村田くんの学力、だいぶやばい!と。何とかしなければと意気込む。
「こうなったら沢山教えてあげる!」
「えっ? そ、それは……」
「だって知っておかないと学校で生きていけないからね」
「本当ですか?! 学校もそんな世界に……」
先輩は知らないところで戦っていて、知っておかないと自分の命も危うくなってしまうらしい。村田は怯えながらも覚悟を決めて聞いた。
「分かりました、教えてください。有名ってことはやはりすごいことしたんですか?」
「そうね。例えば敵が大勢いて絶対勝てない戦いになった時、機転を効かせて勝っちゃったことがあるの。それから一気に有名になったのよね。敵の後ろの崖から飛び降りて奇襲を仕掛けて」
「崖から!?」
「あと戦国時代で初めて銃を使ったりしたわ」
「銃!?」
「敵は銃なんて使ってくると思ってないから向かってくるのをバンバン撃ちまくりで───」
「も、もういいですごめんなさい! なんかすごく治安悪いんですね。ゲンナリしてしまいました」
「あ、そう?」
このままじゃマズいから話題を変えよう。デートの話に戻れなくなる。そう思った村田は映画の話に持っていった。
「あの、ところで映画って興味ありますか?」
「栄華の興味? まぁあるんじゃないかしら。栄華にこだわっていて生活空間も華やかなものにしたと言われているわ」
「なんで聞いてきた話みたいに言うんですか。知らないんですか?」
「昔のことだからね。よく分かってないの」
「そうですか……。あの、じゃあどういうジャンルの映画が好きとかありますか?」
「ジャンル!? 栄華に? そこ気になる?」
「はい!」
信長の栄華を気にするなんて変わった子だなぁ、と思いながらも西原は答える。
「そりゃあやっぱりド派手なヤツじゃないかしらね」
「そうなんですね、僕も好きです!」
「いや君が好きかは聞いてないんだけど……。てか何、栄華好きなの?」
「はい! 僕も派手でハラハラして、このまま死んでしまうんじゃないかってくらいスリルあるのが好きなんですよ!」
「死んだらダメじゃないの! 栄華が台無しじゃない!」
「ま、まあそうですけど、映画にそんなこと言うのは野暮ですよ」
「なにそれ、マニアみたいな言い方するわね」
「あ、まあ、よくマニアって言われることあるんです。へへへ……」
困惑する西原だがどうしても気になってしまい、勉強中ということを忘れて聞いてみる。
「栄華のマニアってなんなの? お金すごくかかりそうだけど、趣味として大丈夫じゃなくない?」
「そんなことないですよ。最近では映画のサブスクも流行っていたりして手頃ですし」
「栄華のサブスク!?」
「友達にオススメの映画を教えて感謝されることもありますし」
「オススメの栄華!?」
「映画業界も活気があって毎年色々な映画が出るから飽きないですし」
「栄華業界!? ……ってそれ、もしかして見る方の映画の話?」
「え、あ、そ、そうですけど……?」
困惑する村田を差し置いて西原は勘違いに気づいた。
「あー、ごめん! 全然違う話しちゃってた! 悪いね!」
「えっ、いや、どういう……」
「なんか話が変だと思ってたらそういうことか〜! それで、元々なんの話だったの?」
「あ、その……」
村田は今更改めて、お礼をしたいから出かけようというのは気が引けてしまった。勉強を教えてもらうという流れの助けあってようやく勇気を出せたので、こうしてなんの話だったか聞かれると言う勇気が出なくなってしまったのだ。
だがそんな状況を知らない西原はお構い無しに言った。
「そうだ! ねぇねぇ、映画マニアなんでしょ? 今度私にオススメのもの教えてよ!」
「えっ?」
「ね、いいでしょ? 今度村田くんの家行くからさ、勉強教えたお礼ってことで映画観してよ! サブスクなら見放題だし」
「は、はい、喜んで……」
結果オーライという見方ができるが、デートよりさらに緊張する事態に村田の心臓は高鳴った。
デートの誘いは織田信長と あばら🦴 @boroborou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます