第4話:日出組

 「ここか」

 治療を受けてから二週間、俺の傷は完治した。傷の治りが早すぎると深月みつきから軽く引かれたが。

 「日出組ひのでぐみ参の屋敷ってのは」

 どでかい門の前に立ち尽くす黎。門の両脇からは大きな壁が伸びており巨大な屋敷全体を囲んでいる。

 先日、あの小鳥の形をした紙が飛んできてこの場所に来いと呼び出しを食らっていた。

 「来いって言われたから来てやったのに門が開かねえっててのは、どういう事だ?」

 門は、固く閉ざされたまま押しても引いてもビクともしない。

 開かねえなら叫んでみるか。

 「頼もう!俺の名は、柊黎ひいらぎれい!先日、ここへ呼ばれたので来てやったぞ!門を開けてくれ!」

 …シーン。応答なし。

 おいおい。呼び出しといて門前払いかこの野郎。

 「もういい。門がダメなら壁を超えるまで」

 軽やかに飛び壁の上へと着地する。

 「おお。広い庭だなぁ」

 あまりの広さに関心していたその時。

 「…っ!」

 どこからともなく飛来した弓矢を居合で弾いたのだった。

 「これが警備のつもりか?」

 あまりにも弱い。こんなもの、多少武芸の心得があれば簡単に…

 「…は?」

 思わず目を見開く。またしても飛来した弓矢。

 その数、百本。

 「あぶねぇ!」

 流石に捌ききれないと判断し、堪らず壁から屋敷外へと飛び降りる。至る所に刺さった弓矢は、煙の様に姿を消したのだった。

 「…帰るか」

 呼び出し食らったから来てみれば完全に門前払い。時間の無駄だ。

 「な、何者だ!」

 突如、震える声が静かな屋敷に響いた。

 声のした方へ向くと刀を構えブルブルと震える黒色の隊服を着た男の姿があった。

 「あんたここの屋敷の者か?」

 「だ、だったらなんだ!?」

 若い男。年は、同じくらいか。黒色の短髪であどけなさの残る中性的な顔立ち。かっこいいより可愛いと表現する方が似合う男だ。

 「ここに呼ばれた柊黎ってもんだ。なんか聞いてないか?」

 「そ、そんな事、加賀かが様からは、聞いていない!」

 「加賀様?そいつが俺を呼んだのか?」

 「聞いていないと言ってるだろ!怪しい奴め!早くこの場を去らなければ、お、俺が…き、斬る!」

 明らかに無理しているのが分かる。恐らく実戦経験は、殆ど無い。日出組の新人か?

 「止めとけ。お前じゃ俺は、斬れない」

 「な、なんだと!」

 「今は、無理して戦う時でも無いだろ。現に俺は、屋敷に入れず帰ろうとしていた。退き際を見極めろ」

 「ひ、日出組を侮辱するな!」

 何かが爆発したかの様に、こちらに突っ込んでくる男。構えは、完全に崩れ隙だらけ。おまけに走る速度も遅い。

 「うあああぁぁああ!」

 振り下ろされた刀は、あまりにも遅く男の手首を容易に掴み刀を止めた。

 「くっ…!」

 「お前を侮辱した訳じゃない。命を無駄にしない為の忠告だ。ホントは、俺に勝てないってことも分かっていたんだろ?だから手首を掴んだ時もお前は、驚かなかった」

 「うるさい!それでも俺は、戦わなくちゃいけないんだ!加賀様を護らなければいけないんだ!」

 「今度こそ?お前は、一体何を…」

 すると突如、大きな音を立てながら門が開いたのだった。

 「え?なんで?」

 訳が分からん。なんで今開くの?

 「門が開いた…じゃあ貴方は、本当に呼ばれて…」

 「だから言っただろ。呼ばれて来たって」

 男が鞘へと刀を納める。

 「も、申し訳ありません!そうとも知らず突然斬りかかってしまって!」

 深々と頭を下げる男。

 「大丈夫だよ。あんたのお陰で帰らずに済んだしな」

 頭を上げた男は、申し訳なさそうな顔をしていた。

 「僕、倉城くらき綾斗あやとって言います。加賀様の側近をしています」

 「側近?それにしては、あまり強くないように思えるが?」

 「あはは…それは、柊様の仰る通りでして…」

 困ったような顔を見せる綾斗。

 そこまで日出組は、人手不足なのか?

 「ただ加賀様に仕える人は、弱くても問題無いんですよ」

 「問題無い?どういう事だ?日出組は、亜獣を討伐する組織だろ?」

 「あれ?もしかして何も聞いてないですか?」

 「ん?」

 こちらの反応に綾斗は、苦笑を浮かべた。

 「加賀様は、亜獣を専門に研究する研究者です。通称、の賢者。御加土みかづちの中でもずば抜けた頭脳を持つお方です」

 「めっちゃ凄い人じゃん…」

 「そうなんです!日々屋敷に籠って研究をしておられる為、殆ど前線に赴く事がないんですよ」

 「成程な。仕える奴は、戦闘面より頭の良さで選ばれてるって感じか」

 「理解が早くて助かります」

 すると綾斗が開いた門に向かって歩いていく。

 「お待たせして申し訳御座いません。加賀様の元へとご案内します」


 ある広い部屋に通され待つこと数分。

 静かに襖が開かれた。

 「いやー。お待たせしたっす。私が日出組ひのでぐみ森羅会しんらかい会長の加賀かが覗示しじっす」

 ヘラヘラと笑いながら入ってきた男は、黎の向かいに座った。

 白色の長髪。眼鏡をかけており一重の瞳は、隈が目立つ。白い肌に華奢な体つき。まともな栄養と摂取しているのか心配になる。

 白と緑色の隊服を着ている。

 「先日小鳥の紙を見てここに来たひいらぎれいです」

 「小鳥の紙…伝紙鳥でんしどりの事っすね」

 どうやらあの紙は、伝紙鳥でんしどりと呼ぶらしい。

 「万花ばんか様から柊さんに日出組の説明をするよう頼まれたっす。だから呼んだっす」

 「それは、ありがたい」

 現状、日出組について何も知らないので基本的な事だけでも知れるのは、有難い。

 「まず日出組は、三つの組織から構成されてるっす」

 覗示が人差し指を立てながら説明を始める。

 「隠密行動を行い諜報や計略を仕掛け情報を集める鴉連合からすれんごう。亜獣の研究を行い弱点や生態を探る森羅会しんらかい。亜獣を討伐し人々を護る十花じっか隊。この三つっす」

 徐に覗示が胸ポケットから三枚の銀貨のような物を取り出して机の上に並べた。一枚は、鴉が。二枚目には、瞳が。三枚目には、馬酔木あせびの花が彫られていた。

 「これは、それぞれの紋章でこの銀貨の様な物は、銀証ぎんしょうっていうっす。鴉は、鴉連合。瞳は、森羅会。馬酔木は、十花隊の紋章っす」

 覗示が十花隊の銀証をこちらに押し出す。

 「柊さんの銀証っす。十花隊の一員である事を証明する為の物になるっす。だから大切に肌身離さず持っておくっす」

 「分かった」

 覗示から銀証を受け取る。

 するとここで覗示が一息吐いた。

 「ここからが本題っす。柊さんの所属する十花隊の説明っす」

 再度、人差し指を立てる覗示。

 「十花隊は、十個の隊で構成されているっす。それぞれの隊には、花の名前が付きその花が隊紋たいもんになってるっす。隊紋を隊服に縫う事が許されれば晴れてその人は、その隊の一員になるっす」

 すると今度は、内ポケットから十枚の紙を取り出し机に並べて見せた覗示。それぞれ違う花が描かれてある。

 「左から順番に言っていくっす。覚えなくても良いっすが頭の片隅に入れといてほしいっす」

 「りょーかい」

 

 「さくら隊。椿つばき隊。桔梗ききょう隊。きく隊。水仙すいせん隊。紫陽花あじさい隊。黒百合くろゆり隊。皐月さつき隊。捩花ねじばな隊。鬼灯ほおずき隊。計十個っす」


 「ふむ。ナルホド」

 これは、覚えられませんわ。ガハハ。

 「最後に柊さんへ最初の任務を伝えるっす」

 そういい覗示がこちらを見据える。

 任務と聞いて自然と背筋が伸びるのを感じる。

 「先ほど言った十花隊全てを回りそれぞれの任務を遂行してくるっす」

 「…へぇ」

 少々面食らったがそれぞれの隊への顔合わせも兼ねているのだろう。まだ所属する隊が決まってない俺からしたら相応しい任務かもしれない。

 「最初にお世話になる隊は、皐月さつき隊っす。皐月隊隊長の節國さだぐにあらたの元へと向かうっす」

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黎き剣士の殲滅譚 神崎晒 @kurari616

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