アングラフラワー

kitchenKZ

アングラに咲いた花


貞操観念逆転世界。そこの住人



私達の毎日は決まって退屈。その一言だった。


朝決まった時間に起きて学校に行く。会社へ行くママ。男性が少ないこの世界でお天道様に顔を向けて生きて行くには幼すぎたし思春期特有の女の欲だって有った。この世界は男性がとても少ない、私は今日も男を探して歩く。


学校から帰宅すると私は買ってもらったばかりのパソコンを開きネットで検索する。男、男、男は居ないか?


男はいねが〜と血眼になってごゥーちゃんねるを探すとこんなスレが


「助けて」貞操観念逆転世界から来た「男死」


なんじゃこれ?と思いつつもスレを覗く。男の文字を見付けたら取り敢えずクリックだ


そこには夢の様な世界が広がっていた


異世界、違う世界から来たと主張するスレ主


Ageる画像は間違いなく男で有る証明写真と整った顔立ちの男性が貼ってあった。


アングラの世界へようこそ


そんな台詞をここの住人の先輩達に貰った記憶はここ最近のものだ。


この男性はアングラに咲いた花。


私達の花だ。


額から流れ出る汗を拭くのも忘れて私はキーボードを叩いた。この人に私のことを知ってほしいと思った。彼は悩み事を話すも周りの女性達は男だ、男が来たぞ祭りだなんて騒いでいる。



224・お名前はなんて言うんですか?私は叶紀子って言います。あなたの悩みも出来れば解消したいです。


そんなレスはすぐに埋もれる。他の面子達が好き勝手言う中私は本名を出してアピールした。

はぁ駄目かぁと思いつつもレスがつく


266 《男》・>>224さん ナナシって呼んでください。ありがとうございます。


ナナシ!?さん?名前が無いナナシなの?なんて突っ込まない。ナナシと呼んでくださいなんて男性に言われたら呼ぶしかないのだ。


289・>>266ナナシさんですねっ!ありがとうございますっ!私の事も気軽にノリちゃんって呼んでくださいっ!


外野からノリちゃん氏ネとか紀子ってなんか臭くないとか言われるが知ったものか


359・>>289ノリちゃんだねっ!ありがとう個人でやり取りしても大丈夫?


私は高速で捨てアドを教えた。


捨てアドには5万件を超えるメールボム、メボムと共にナナシさんからのメールが入った。


それから彼とのやり取りが始まった。


それは夢の様な日々だった。


男性とやり取り出来るなんて、たまに一緒に送られてくる写メールなんかは高速で保存した。彼から貰ったプレゼント、写メに彼の優しい言葉達が私の心を溶かしてくれた。


毎日が嬉しくて、楽しくて、君独り占め、見詰める。学校で私がそんなナナシさんの顔写真を見ながらニヤけて居ると隣の席の友人の良美がからかって来る。


「ノリコ〜マジでナナシさんと連絡取り合ってるの?私にも紹介してよ~」


なんて言う友人。ナナシさんはツイ呟いたー、略してツイッたーでも人気者になって居た。

そんなナナシさんには秘密が有るのだ。

私だけが知ってる秘密、が


「ナナシさんはウブだから駄目だよーごめんねっ!」


「しねえ〜」


なんつって首を絞めてくる友人。

ちょ、本当に飛んじゃう、やめたげて。



そんな毎日が続いた。ナナシさんとやり取りをして友人にからかわれる。おはようと言ってお休みの挨拶をする。日々が輝いていた。


電話でも話をした。

彼は内気な少年だった。

自分の感情を持て余している様にも見えた。

彼の居た世界では男性が道を歩いてても誰も見向きもしないらしい、なんつー世界だと私は思った。私もイキたい、そんな気持ちを隠しつつ笑って話をした。今だけ、今だけでもいいから。この瞬間が私の大事な宝物。 

未来の事は見ないように蓋をした







そんなある日ナナシさんは消えた。


最初から存在しなかった様に、突然と。


朝起きると胡蝶の夢の様に皆の記憶からナナシさんに関しての記憶だけがスッポリと抜けていた。ツイッたーにもごゥーちゃんねるにもナナシさんの記録が無いのだ。


学校の友人にもナナシさん見ないね?なんて言ったらナナシ?なにそれなんて言われた。



あなたの秘密。


それは私だけが知っていた。


地底に沈みそうになっていた私の顔を前向きにしてくれたナナシさん。ナナシさんは私の花だ


地底に咲いた花。それはあなた


私の花を開いてくれたナナシさん



私はお腹をそっと撫でた。ありがとう。

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