第69話 形勢逆転
竜の全身から雷が迸り、ガージルの全身を焼いた。しかし、ガージルは傷ついたそばから癒えてゆく。一方で、ガージルの攻撃は竜の硬い鱗に阻まれて中々通らない。
泥沼の戦いだが、いずれはガージルが削り勝つのだろう。二千年もの間、北からの魔物を阻み続けてきたのは事実である。恐らく今回も負けないはずだ。
フレイシアは戦う巨獣共から目を離し、コリンダと対峙する。今倒すべきはこっちだ。
「やっと直接戦えるよ」
「横槍が入った途端に自信満々になっちゃって、みっともないわね」
相変わらずの減らず口だが、口調からも表情からも余裕が減っている。やはり戦闘の主力はガージルなのだろう。
「二千年もコソコソ逃げ隠れてたお前のほうが、よっぽどみっともないと思うがな」
デリックが銃を構えたまま挑発するように言った。コリンダが鋭い目つきでデリックを睨む。
「そろそろ生き飽きただろう。ここで片付けてやるよ」
「私の命は永遠よ。老いぼれ」
「どっちが老いぼれだ、二千歳のクソババアが」
それが契機だった。
急激に高まった殺気の圧に、フレイシアは総毛立つ。コリンダの身体から、視認できるほどの暗いオーラが湯気のように立ち上りはじめた。死霊術が来る。
黒いオーラは波のように地を這って押し寄せてきた。オーラの通った場所の植物が軒並み枯れ果ててゆく。
フレイシアは魔術で地面を隆起させて壁を立てる。黒い波は壁に当たって霧散した。
「ケリー!」
上空から飛来したケリーが、爪を鋭く立ててコリンダに襲いかかる。しかし、オーラの中から悪意に満ちた黒い腕が伸び出してきて、ケリーを払いのけた。
コリンダの注意がケリーに逸れた瞬間、デリックが間髪入れずに発砲。これもオーラによって形作られた膜に阻止されるが、今度はフレイシアが猛火の波を浴びせかける。やはり火は届かない。
波状攻撃だ。一見すると容易に攻撃をさばいているように見えるが、コリンダの顔は険しい。いつまでも守り切れるほど余裕は無いはずだ。とにかく削りきるしかない。
防御の合間に、コリンダからも攻撃が飛んでくる。不定形のオーラによる攻撃、使役された霊体の腕による攻撃、種類は様々だ。しかし、こちらは二人と一羽。誰かの攻撃中に、別の誰かが守りカバーできる。実力差は人数で挽回する。
「うっとうしいわね……!」
コリンダの顔がますます険しく、疲れも見えてきた。自分の体で戦うなどしてこなかっただろう、二千年のブランクがあるにしてはよく耐えているのかもしれないが、このままいけば押し勝てそうだ。
視界の端では、ガージルが竜を組み伏せて頭部に拳を叩き込んでいた。抵抗する竜からは雷が迸って空気を引き裂く。
それぞれが放つ一発一発の攻撃が地を揺るがし、衝撃が全身に響いてくるようだ。
向こうの戦いが終わる前に、勝負をつけなければならない。
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