第62話 二千年生きた娘

 フレイシアの宣言を聞いた少女は目を瞑った。そして答えを吟味するかのように数秒間黙した後、小さく笑った。


「ふふっ。ふふふふっ……! あははっ」


 フレイシアはその様子を、ただ睨みつけて待つ。


「どういうことだ? コリンダは二千年も前に帝国から来た養子だろう」

「それがこいつですよ。デリックさん」

「まさか、こいつ自身も亡者か?」


 デリックの言葉を聞いた途端、少女エリン・メルジェンシア改めコリンダ・グラスフィンはピタリと笑うのを止めた。そして怒りの滲んだ顔でデリックを睨み、冷たく言い放つ。


「あんな歩く死体と一緒にするな。老いぼれ」


 あまりの迫力にデリックが後ずさる。

 コリンダは再びフレイシアに向き直ると、また顔に笑みを浮かべながら問いを重ねてきた。


「どうしてそう思ったのかしら」

「半分は勘」

「いいわ。魔術師は直感を大切にしなきゃいけないものね。では、もう半分は?」

「……なんで守り神は女の子ばかりを食べるのか。それを考えたの。単に守り神の養分にしたいなら、何も女の子である必要はない。北から栄養満点の魔物が勝手にいくらでもやって来るんだから、わざわざ難しい方法を採る意味が分からなかった。そうすると、女の子を食べる理由は別にあると思った」


 フレイシアの推測を聞く間も、コリンダは楽しそうに笑みを浮かべたままだった。まるで自分が出したクイズに対する解答を聞いているような雰囲気だ。


「続けて?」

「……守り神を止めたら、今度は町で病が流行り始めた。命を吸い上げる死霊術、しかも被害者は女の子ばかり。守り神の術者と関係無いとは到底思えなかった」

「そうね」

「守り神が動いていなくても欲しがるということは、守り神の養分ではないということ。そして、若い女の子ばかりを狙うのは、そこからしか得られない何かがあるから。恐らくあなたは――」


 こちらを値踏みするかのような視線に対し、挑むように睨みながら言う。


「生け贄から若さを奪って、生き続けている」


 これがフレイシアが仮定に仮定を重ねて導き出した結論である。

 多くの死霊術を志す者が求めるものの一つに不老不死がある。自らを亡者にすることでその実現を目指す方法が主流のようだが、コリンダは違うと感じていた。亡者ならば食べ物を選ぶ必要が無いからだ。

 死霊術を使って若さや寿命を奪うようなことができるのか。それはフレイシアにも分からないことだったが、もっとも基本的な欲求を突き詰めた者ならば、その方法に辿り着いていてもおかしくないと思った。分野は違えど魔術を探求する者だから通じた勘といってもいいだろう。


「ふふっ。ふふふふっ」

「まさか本当なのか……」


 不敵に笑うコリンダをデリックが信じられないという目で見ながら言った。フレイシア自身もこの答えには戦慄している。二千年間も正体を隠し、少女から命を吸い上げながら歳もとらずに生き続けた死霊術師。もはや伝説の土地となった死霊都市から逃れてきた生き残りが、目の前にいる。


「ご名答。改めて自己紹介しましょう。私はコリンダ・グラスフィン。帝国北部軍陸戦魔術兵器開発室の特務研究員。貴女たちが呼ぶところの『守り神』を開発した死霊術師は、この私よ」

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