第59話 お前たちのせいだ!
お前たちのせいだ!
先生は慌てた様子で馬車を降りると、ノイルの方へと走ってきた。
「二人とも、なんでここに……!」
その驚愕は当然のことだろう。生け贄に出していたはずの子供たちが目の前にいるのだから。馬車の中からこちらを見るカリーナも同じ気持ちのはずだ。
「えっと……」
「守り神様はどうしたんだ。湖に行かなかったのか?」
痛いほどに肩を掴んで問いかけてくる先生に、ノイルは圧倒されて言葉が上手く出なかった。子供たちに対しては守り神のことは隠していたはずなのに、それすら忘れているのだろうか。とても慌てた様子だった。
フレイシアのことを言ってもいいのだろうか。守り神が倒されたことを言ってもいいのだろうか。そもそも守り神の正体が良くないものだったと言ってもいいのだろうか。急なことに、ノイルもマイナも何を言えばいいのか分からず困惑するばかりだった。
「おい、どういうことだ?」
対応に困って止まっていたノイルたちに話しかけてきたのは、馬車を取り巻いていた野次馬の一人だった。四十代ほどと見られる男性がノイルたちに歩み寄ってくる。
「今のはどういうことだ?」
「あっ、いや……」
男性に詰め寄られた先生が言葉に詰まって俯く。男性はノイルたちに視線を向けた後、再び先生に強く問いかけた。
「この子たちは守り神のところに行っていたはずなのか? どうしてここにいる」
男性が責め立てるように言うと、周囲の人たちが俄に囁き合い始めた。ざわめきは大きくなってノイルとマイナの不安を煽った。向けられる視線や言葉の数々が少しずつ刺々しくなってゆくのを肌で感じるほどだ。
先生は男性の問いに何も答えられなかったが、それを男性は肯定と受け取ったようだった。引きつった顔で言う。
「まさか、前回の生け贄は捧げられてないのか……?」
直接的かつ決定的な言葉だった。
野次馬たちのざわめきは一気に強まった。集まる声や視線は非難か憐れみか、その両方か。混ざり合った声は断片的にノイルとマイナへ届いてきた。
「え、どういうこと?」
「じゃあ、流行ってる病気って生け贄を出してないせいなのか?」
「生け贄が足りないって話、本当なんじゃないか?」
「どうしてあの子たちはここにいるんだ?」
「おい、あいつらもこれに乗せろ!」
ノイルたちを指さして叫ぶ者まで出てきた。遠巻きに見ていた者の中には、怒りを顔に滲ませながら詰め寄ってくる者もいた。今回の病騒動で被害を受けている娘の親族なのかも知れない。
「おい、早く乗せろ!」
「連れて行けよ!」
ノイルたちに哀れむ視線を向けるものもいた。しかし、得てして声が大きいのは非難の方だ。怒りの力は何よりも強い。
「二人とも、とりあえず来い」
包囲に押し込まれるかのように、先生はノイルとマイナの手を引いて馬車の中へと入った。逃げ込んだと言ってもいい。
馬車の扉が閉まると分厚い木の板に遮られて罵声は小さくなったが、車体を外から叩いたり蹴ったりしていると思われる硬い音と振動が伝わってきた。
「出してください」
先生が御者に言うと馬車は動き始めた。罵声の群れは後ろに消え、馬車の中は暗く静まりかえった。
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