第58話 懐かしい顔
フレイシアたちが出て行った後、ノイルとマイナは店舗の奥に隠れて時間を過ごしていた。
「守り神様は何で復活したんだろう」
「わかんないね」
二人にはデリックが行ってきた調査の内容や、死霊術知識があるわけではない。今の自分たちがどうなっているのか、ホーンランドがどういう状況に置かれているのかという詳しい理解はない。それでも細かい理屈を抜きにして二人が安心できたのは、確かな実績をその目で見たからだ。
「でも、きっとすぐに終わるよ。前だってそうだったもん」
ノイルがあっけらかんと言う。どんな回りくどい説明よりも明らかな言葉だった。
二人が生け贄に捧げられた日、颯爽と現れた魔術師のフレイシアは自分よりも何十倍も大きな守り神を瞬く間に倒してしまった。具体的に何をしたのか分からないが、その強烈な印象は今も二人の中にしっかり残っている。
今回もすぐに仕事を終わらせて、迎えに来るはずだと少しも疑うことはなかった。二人に出来ることはそれまで大人しく待っていることだけだ。
*
買ったばかりの本を読みながら時間を潰していると、外が騒がしくなってきた。こっそり店の入り口に目をやると、何か大きな物が通りを進んでゆくのがガラス越しに見えた。
「馬車だ」
マイナが言った。
大きな物の正体は馬車だった。市場のある通りには日々様々な物資が運び込まれるため、馬の引く荷車が行き交っている。しかし、今店の前を進んでいるのは大人数を乗せる旅客馬車だ。こんなものが街中まで入ってくるのは珍しい。
「何だろう」
「あっ、ノイル待って!」
珍しい馬車に気をとられたノイルは、様子を詳しく見ようと店の奥から出て行った。マイナもそれを追う。
馬車の周りには大人たちが集まって、ヒソヒソと話しながら遠巻きに様子を見ていた。何か特別な馬車なのだろうか。
店を通り過ぎて離れてゆく馬車を見送っていると、唐突にノイルが声を上げた。
「ねえ見て! カリーナだよ!」
ノイルの口から出てきたのは、ベリーダルの孤児院で一緒に暮らしていた少女の名前だった。歳は十二で、マイナとノイルとは仲の良い友人だった。
馬車の後方に設えられた窓から、陰鬱そうな顔で外を眺めるカリーナの顔が見えていたのだ。何故ここにカリーナがいるのだろうか。
ノイルは馬車をもっとよく見ようと思わず店を飛び出してしまった。あまりに急なことで、マイナが止める間もなかった。
窓から後ろの景色を見ていたカリーナは、ノイルの姿にすぐ気がついたようだ。その表情が一瞬で驚きに塗り替わり、目が見開かれた。
ノイルは通りに出て馬車へ手を振る。さすがに目立ったのだろう、カリーナ以外の人たちもノイルへと目を向けた。
異常は馬車の中にも伝わったのだろう。馬車の窓から、何事かと外を覗く大人の男が見えた。その顔を見て、今度はノイルが驚く番だった。
馬車からこちらを見た大人は、ノイルとマイナを生け贄として湖まで送り出した孤児院の先生だったのだ。
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