第57話 決戦の地へ

 今、湖で何かが起きている。

 魔物探知機の反応を見たフレイシアとデリックは急いでメルジェンシア邸を飛び出し、町へと戻る。通りを駆けてデリックの店へたどり着いた。


「フレイシアだ!」

「フレイシアさん。よかった!」


 隠れていたマイナとノイルが元気な顔を見せて迎えてくれた。


「二人ともよく聞いて。私は今から急いで家に戻らなきゃいけない。でも二人は、もう少しここに隠れていたほうがいいと思う」

「えっ、なんで?」


 ノイルが不思議そうに言う。

 魔物探知機が見せた禍々しい反応。敵の死霊術師が何かしたに違いない。恐らく、守り神絡みだ。

 守り神を一度は止めたフレイシアだからこそ分かる。あの場に術者がいれば、守り神を蘇らせることなど容易いはずだ。すでに作業は終わっていると想定しておくべきだろう。すぐに向かって対処する必要がある。しかし、一番に狙われそうな二人を敵の目の前に連れて行くべきではない。

 どう答えたものかとフレイシアが悩んでいると、背後でデリックが言った。


「守り神が復活した。お前たちが行くと危険だ。だから隠れていろ」


 断言だった。デリックのシンプルかつストレートな説明は、二人に突き刺さるほど明確に届いたようだ。ノイルは驚きに目を見開き、マイナは顔を青ざめさせた。


「そんな、フレイシアさん……」


 先程までの笑顔はどこへやら。悲壮に塗り変わったマイナの表情に、フレイシアまで辛くなる。だからこそ、今すぐに動かなければならない。

 フレイシアはマイナの両肩に手を置いて諭すように言う。


「心配しないで、また戻ってくるから」

「そうだよ、マイナ!」


 ノイルが普段と少しも変わらない明るい声で言った。


「だってフレイシアは強いもんね。またやっつけてくるんでしょ?」

「もちろん! 私を誰だと思ってんの!」

「世界で二番目に強い魔術師!」


 ノイルの強い激励はフレイシアだけでなく、マイナのことも元気づけたようだ。不安を振り払うように首を振った後、フレイシアの目を見て力強く頷いてくれた。

 この二人がいるからフレイシアは頑張れる。誰とも知らないホーンランドの人々のために戦えと言われたら出来たか分からない。帰る場所のない者同士、一緒に暮らすと決めた仲だ。絶対に守り抜いてみせる。


 ノイルとマイナを後に残し、デリックと共に再び店を出る。


「ケリー!」


 フレイシアはいつものように血を滴らせ、ケリーに分け与える。変身して巨大化したケリーにまたがる。


「デリックさんも!」

「お、おう……!」


 さすがに亡者のソラチャボに乗るのは初めてだろう。デリックの表情には若干戸惑いの色が見えたが、選択の余地はない。これが一番速いのだ。


「ケリー、全速力でお願い! 私たちの力を見せてやろう!」

「ココッー!」


 ケリーは気合いの入った返事と共に大きく羽ばたいた。黒い羽根が舞い、風を巻き起こす。ふわりと浮き上がったフレイシアたちは北へ進路をとる。今度こそ本当に、生け贄制度を終わらせるために。

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