第49話 だって心配だし
朝食の後、ノイルが尋ねてきた。
「フレイシア、今日はお買い物だよね」
「うん」
自分の返事に思いのほか元気が乗っていなくて、フレイシアは我ながら驚いた。
今日はカナリーネストまで買い出しに行く日だ。諸々の日用品を揃えつつ、デリックに近況を聞きに行く日でもある。
デリックによれば、今のカナリーネストでは謎の衰弱を起こす病が流行っているらしい。聞いた限りではノイルが罹った症状そのままであり、患者は若い娘ばかり。ノイルを襲った死霊術師によるものだと思われる。
正直なところ、フレイシアはマイナとノイルを街へ連れて行くのが怖くなってきていた。敵の動きは大胆さを増し、異常が表面に出始めている。わざわざ危険地帯に子供たちを連れていくのは気乗りがしない。かといって、二人だけ置いていくのはもっと怖い。死霊術師の件もあるが、湖には魔物が来る可能性もあるからだ。
「また本屋さん行きたいな。次の本買いたい」
「あ、わたしも出来れば行きたいです」
たまの外出は二人にとって貴重な気晴らしでもある。敵を恐れるあまり、その楽しみを無くしてしまうのは忍びない。
「そうだね。また寄ろうか」
ただ、二人からは目を離さないようにしようと、フレイシアは心に決めた。
*
ケリーに乗ってカナリーネストに到着したフレイシアたちは、一番にデリックの魔術道具店を訪れた。しかし、店の扉には臨時休業を知らせる看板がかけられていた。静まりかえった店舗の前で三人は顔を見合わせる。
「いつもこの時間ならやってるはずなんだけどな……。居ないなら仕方ないし、先に買い物行こう。後で来たら帰ってるかも知れないし」
「そうですね」
「うん!」
食料や日用品を買うのならば大通りだ。
昼の盛り、よく賑わう通りを人混みの合間を縫って歩きながら買い物を進めてゆく中で、ノイルが唐突に言った。
「ねえ、フレイシア」
「ん?」
「なんでずっとノイルの手握ってるの?」
ノイルがフレイシアの顔を見上げながら言った。大通りに入ったところからフレイシアの右手はずっとノイルの左手を握ったままだ。
「だって、心配だし……」
「マイナも?」
「う、うん……」
見れば、ノイルの右手はマイナの左手に繋がれていた。どうやら考えることは同じだったらしい。フレイシアもマイナも、二人揃ってノイルを挟む位置をガッチリとキープしたまま手を繋いで歩き続けていたのだ。
「だってほら、また同じことあったら嫌だしさ。犯人だって見つかってないからね」
ノイルを襲った死霊術師は鋭意調査中だ。人混みにはぐれたノイルがまた狙われない保障はない。倒れているノイルなんて見つけてしまった日には後悔で眠れなくなること間違いなしだ。
「マイナだって子供なのにー!」
もちろんマイナのことも心配だが、ノイルの方が手を焼きたくなってしまうのは何故だろう。少々ノイルの機嫌を損ねてしまったようだが、我慢してもらうほかない。
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