第46話 見え始めた元凶
「それにしても、死霊術とはねえ……。早いところそいつをとっちめないと、面倒なことになるかもしれんぞ」
「どういうことだ?」
溜息をつくリージョアにデリックは尋ねる。
「病が出始めたのは守り神に捧げる生け贄が足らないからじゃないか、なんて話が出始めてるようだ」
「何だと? どうしてそこで守り神が出てきやがる」
実際の所、デリック自身は守り神と今回の死霊術師には関連があると考えていた。
ノイルを襲った人物の情報を追いかけてメルジェンシア家に辿り着いたこと。
実際にメルジェンシア家で死霊術の痕跡を発見したこと。
メルジェンシア家で二千年前に起こった養子による一族乗っ取り。
同じく二千年前頃に突如収まった魔物被害。
これらの事実を薄く関連付けてのことだ。今のところ根拠は無い。しかし、どちらの件にもメルジェンシアの影がちらついている。
「お前、守り神に生け贄を捧げる習わしがどうして始まったか調べたことはあるか?」
「いや、無いな……」
「あたしは戯れに調べたことがある。そしたら一つ、この辺りに細々と伝わっていた昔話を見つけたんだよ。それが今の病騒動とそっくりでね」
「詳しく聞かせろ」
話を聞くべく、デリックは手近な椅子を引き寄せて腰掛けた。ノイルを襲った死霊術師と忌まわしい守り神をつなげるためのピースになり得る話だ。
「昔、この辺りで奇妙な病が流行ったそうだ。その病に罹ると立つことも歩くことも出来なくなり、やがて身体がみるみる干涸らびて死んでしまうのだそうだ。そして、不思議なことに病に罹るのはいつも年若い娘ばかりだったという」
「今の症状そのまんまだな」
「ああ。だが、同時期にもう一つ不思議なことが起こっている。病が流行り始めてから、どういうわけか北からの魔物が来なくなったんだよ」
「それはホーンランドから帝国が引き上げてすぐのことじゃないか?」
「その通りだ。何故分かるんだい?」
デリックが最近に調査した事柄と重なる部分がある。人里を守っていた帝国軍がいなくなったのに、何故か鳴りを潜めた魔物被害の謎。
「俺が調べたメルジェンシア家の来歴でも、その謎が出てくる。俺はその時期から守り神が現れたんだと思っているが……」
帝国の撤退。
病の流行。
魔物被害の終息。
メルジェンシア家の乗っ取り。
過去にこの全てが同時期に起きているとするならば、どのように考えることができるだろうか。
「そいつは面白いね。あたしの話にもメルジェンシアが出てくるよ。病の流行に困り果てた住人たちは、当時の地主に相談を持ちかけたんだ」
「メルジェンシア家か……」
「そうさ。帝国が撤退した後、土地の管理を移譲されたのはあの家だからね」
「それで、どうなったんだ?」
ここからが話の核心だ。しかし、リージョアから告げられた答えは虚しいものだった。
「残念ながらここまでしか分からん」
「はあ?」
「ここまでしか記録が残っておらんかった。メルジェンシアがどんな解決策を用意したのかは知らんが、この後から病の流行は収まっているんだ。そして代わりに始まったのが……」
「生け贄か」
リージョアは頷いた。
「まるで生け贄によって病を鎮めたかのように聞こえるだろう? 実際のところはさておき、この話を知っている者は今回の流行り病でも同じように考えるはずだ。そいつが広まっているんだ」
「さっきも言ったが、病の原因は死霊術だ。さらに言えば守り神も死霊術だ。生け贄を捧げて病が収まったってことは」
「ああ、病を引き起こしている死霊術師と守り神は関連があるだろうね」
理由までは分からない。どういう関連かも分からない。だが、今回ノイルを襲った死霊術師は、娘の仇である可能性が濃厚になってきた。
「ようやく恨みを返してやれそうだな……」
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