第43話 経過報告
燃え盛るワームを倒して数日後、すっかり静けさを取り戻した湖を前に、フレイシアは大きく伸びをした。今日はカナリーネストへ買い出しに行く予定だ。
「もうすっかり元気だね」
いつでも飛び立てるように準備を終えたケリーを撫でてやると、元気よくバサバサと羽ばたいて答えてくれた。
「今日はデリックさんのお店にも寄るんですよね」
「うん。これを売らなきゃいけないからね」
マイナの質問に答えつつ、フレイシアはケリーの首に掛かった大きな鞄を叩いた。
鞄にはワームから採った諸々の素材が詰まっている。約束通り、少々割安にしてあげなければならないだろう。
「湯沸かしも買うんだよね」
「そうだね」
ノイルに答えながら、皆でケリーにまたがる。
そして、今回は買い物以上に大事な用件が一つある。メルジェンシア家の更なる調査結果も聞かなくてはならない。
*
街を訪れて一番にデリックの店を訪れたフレイシアたち。カウンターの向こうにはいつも通りのしかめ面で新聞を読むデリックがいた。
「いらっしゃい」
「どうも、こないだの素材売りに来ましたよ。かなりデカかったので、持ちきれなかった分はまたいずれということで」
「おう、見ようか」
新聞を畳んだデリックの前に、ワームの魔物から採れた素材を並べてゆく。あまり値打ちに無さそうなブヨブヨの肉や、鋭く硬い牙、よく燃える粘液を貯めた容器等々。何らかの魔術道具に使えるだろうか。
デリックが素材を見ている間、マイナとノイルは店内の商品を自由に見ている。手空きになったフレイシアはもう一つの用事を一緒に済ませることにした。
「その後どうですか?」
「メルジェンシアの件か」
ワームの牙を撫でながらデリックが言った。
「怪しい点がてんこ盛りだな。今は屋敷の人の出入りを調べているところだ。何日か見ているが、出入りしてるのはいつも同じ使用人がたった一人だけ、屋敷の庭も何となく荒れ始めてるようだった」
「何があったんでしょう、人手が足りないんでしょうか」
「分からんな。もう少し様子は見てみるつもりだ」
デリックはそこまで言うと、検分途中の素材をカウンターに置いてフレイシアの方を見た。そして、声を落として続ける。
「それよりも一つ気になることを小耳に挟んだ。あの子がかけられた死霊術の症状が街の若い娘の間で出始めているようだ。身体が弱って動けなくなり、食わせても飲ませてもどんどん痩せていくらしい」
「えっ、大丈夫なんですか?」
「今のところ死者が出たという話は聞いていないが、時間の問題だろうな。早く解決しないと問題が大きくなるかもしれん」
「もう私たちだけの問題じゃないってことですね」
事態は深刻な方向へ動いているようだ。辛い目に遭っていたノイルの様子を思い出すと、今も伏せっている少女たちのことが案じられてならない。
「守り神をぶっ殺して国中巻き込んだヤツが心配することか?」
「まあ、それを言われると……」
「そのために調査は続けてるから待ってろ。ほら、今日の分だ。持ってけ」
デリックは硬貨の入った袋をカウンターに置いた。
「フレイシア、これ買おうー!」
ちょうど話の途切れたタイミングでノイルが持ってきたのは湯沸かし用の魔術道具だった。元々ノイルが欲しがっている物だ。火の精霊術が込められており、風呂の湯をちょうど良く温め保温してくれる優れものだ。なかなか高い。
「毎度あり。まあこっちのことは任せて、こいつで風呂でも入っとけ」
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