第37話 守り神は誰の仕事?
「フレイシアさん!」
「フレイシア!」
這々の体で湖から上がると、塔から飛び出してきたマイナとノイルが抱きついてきた。二人とも目に涙が滲んでいるようだった。かなり心配をかけてしまったようだ。
「ごめんね。もう大丈夫だから。心配かけたね」
「ケリーも大変だったね」
「コッココ……」
マイナがボロボロになったケリーを撫でると、いつもほど元気を感じられない声で応えた。まだ傷が治りきっていないが、こちらすぐに回復するだろう。
「よう、酷い有様だな」
「デリックさん」
遅れて塔から出てきたデリックは、紐をかけた猟銃を背負って悠々と歩み寄ってきた。
「ありがとうございます。今回は本当に危ないところでした」
「構いやしねえよ。あいつをここまで追い詰めたのはあんただし、あんたが負けたらこの先の村も町も全部火の海だからな。まあ、トドメは貰っちまったから、今回の素材はちょっとだけ安めに買い取らせてくれたら助かるが」
「ええ、そうしてください」
フレイシアは湖の方を見ながら答えた。
炎の粘液をばらまかれた湖は未だに燃え続けているが、やがて元に戻るだろう。素材はそれから回収しに行くことにする。よく燃える燃料でもとれそうな魔物だった。
「そもそも守り神なんて人間一人に務まるもんじゃねえよ。例えあんたが本当に世界で二番目に強くてもな。頼れるところは頼ることだ。あまり気負わないでいけよ」
「自分で言い出したことなのに、情けない限りです」
「馬鹿言うな。子供を生け贄に出さないと続かなかった国の方が情けねえよ。こういうのは大勢で背負うもんなのに」
その言葉を聞いて、フレイシアは塔で見つけた手記を思い出した。大人たち皆で街を守るべきだと説いて砦の建設を手がけた遙か昔の町長。同じ志を持つ人は現代にも居るのだ。
マイナとノイルも笑いかけてくれている。直接魔物と戦っているのはフレイシアだが、この二人はいつも心の支えになっている。そのお陰で一人孤独に守り神をやっているという感覚は無かった。
「俺の娘に何もかも背負わせて生き延びたあいつらも、俺自身も許せねえ。死霊術のバケモンをぶっ殺して、自分たちで国を守る。こいつはそのために身につけた力だ」
デリックは猟銃を手にしながら言った。復讐のために死ぬ気で勉強したという死霊術。さっきの技を見るに、この猟銃は死霊術がこめられた魔術道具なのだろう。
「だからもう謝るな。今日はそんな話をしに来たんじゃねえからな」
言われてから思い至る。カナリーネストからここまで馬車でほぼ一日かかる道のりだ。デリックがわざわざここまでやってくるということは、それなりの用事があると言うことだ。
「大事な知らせだ。この子に死霊術をかけていやがったヤツの居場所が分かったかもしれん。説明するから、まずはちょっと休んでこい」
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