第21話 守り神稼業

 面食らっている店主に、フレイシアは身を乗り出してダメ押しする。


「どうですか?」

「あ、ああ……。確かに伝手はあるが、しかし……」

「大金でなくてもいいんです。いきなり現れて無茶を言っている自覚はあるので」


 しばらく魔物の素材を眺めて唸っていた店主であったが、最終的に頷いてくれた。


「わかった。これは俺の方で買い取ろう」

「ありがとうございます!」


 勢いが大事だ。店主の気が変わらないうちに、というよりも戸惑いが抜けないうちに押せ押せで査定を依頼し、フレイシアが持参した魔物の素材はあっという間に金貨と銀貨へ変貌していた。しばらくは三人で食っていける額だ。


「今日は持ちきれなかった分がまだ家にあるんですけど」

「これがさばけたら考えよう」

「ぜひ、よろしくお願いしますね!」


 この店にはこれからも世話になるだろう。末永く懇意でありたいフレイシアだ。自分が出せる最高の笑顔で挨拶を済ませ、店を出ようとした。


「待て」

「はい?」

「フレイシアと言ったか。あんた、どうやってあの化け物を……いや、あんたは死霊術が使えたんだったな」


 店主はケリーの正体を見抜いた人物だ。前回来た時にその話もしたし、フレイシアが死霊術を使えることも当然知っているだろう。しかし、フレイシアが気になったのはそこではなかった。


「あれの正体が死霊術だと知っていたんですか?」

「まあな……」


 何か事情がありそうな様子だ。しかも守り神のことを化け物と呼んだ。

 無愛想ながらも力強かった雰囲気は一転していた。覇気が抜けて、突然見た目通りの老けに覆われてしまったようだ。

 フレイシアは重ねて尋ねようとしたが、店主はそれよりも先に目を反らしてしまった。


「すまんが、今日は店じまいだ」


 話はここまでだと、ハッキリ言われたのが分かった。


          *


 金銀硬貨でずっしりと重くなった巾着袋を下げ、フレイシアたちは魔術道具店を出た。今日の目的は達成したが、なんとも煮え切らない退店であった。

 気になる点は残ったものの、とにかく目的は達成した。北部地域からやってくる魔物を倒し、その素材を売ってお金に出来るならば防衛と生活を両立することが出来そうだ。守り神稼業である。


「新しい守り神様は生け贄の代わりにお金で動くからね」

「言い方ががめつーい」

「その分きちんと働いてますー」


 ノイルの指摘に軽い口調で返すフレイシアだったが、戦いは実際に命懸けだったし人命を捧げ続けるよりも遙かに安くて健全なはずだ。暮らしていけるくらいの稼ぎは許されても良いだろう。


「かなり余裕出来たし、今日は何か高い物食べて帰ろっか」

「ほんと? やったー!」

「いつもありがとうございます」

「いいってことよ!」


 三人と一羽は新たな未来が開けたお祝いをした。偶然から始まった共同生活は、いよいよ軌道に乗り始めたと言えるはずだ。

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