第19話 初仕事を終えて

 新しい守り神としての初陣を見事に白星で飾ったフレイシア。精も根も尽き果て、ケリーの背にぐったりと乗せられて帰路についた。


「もう動けない……」


 疲労困憊の呟きに対し、ケリーが労うように「コッコッ」と答えた。

 かなりの無茶をしたが、勝利は勝利だ。生け贄などに頼らずとも、北の魔物から人里を守ったのだという自信と達成感がフレイシアの心を静かに満たしていた。


「ケリーもありがとね。頑張ったね」


 ぐったりと寄りかかったまま首元を撫でてやると、嬉しそうに身体を震わせた。ケリーの身を挺した活躍は見惚れるほどだった。この勝利は間違いなくケリーあってのものだ。


 飛んで湖を渡り、フレイシアは湖畔に降り立つ。すると待ち構えていたかのようにマイナとノイルがすぐに駆け寄ってきた。


「フレイシアさん、大丈夫ですか!」

「うわ! びしょびしょだよ!」


 全身ずぶ濡れのフレイシアを見た二人が声を上げる。


「大丈夫。無事に勝ったよ」


 フレイシアの答えを聞いてマイナの顔から緊張の色が抜けたようだった。随分心配してくれたようだ。遠く湖の沖を見ながら、マイナが言う。


「突然あれが現れて、びっくりしました。ここからじゃ何が起きてるのか全然分からなくて」


 マイナの視線の先には、遠く湖の沖に浮かんだ氷山が小さく見えた。かなりの距離があるが、こんなところから見えるほどだったとは。随分と大事を成したものだ。


「心配かけたね」

「いえ、わたしたちも信じてました。だってフレイシアさんは守り神様よりも強かったんですから、当然です」


 嬉しいことを言ってくれるものだ。それだけで二人を助けた甲斐があったと思えるし、これからも頑張ろうと活力が湧いてくる。

 隣ではノイルがケリーに近寄って顔を見上げていた。


「ケリーも大丈夫?」

「大丈夫だよ。ケリーも凄く頑張ってくれたから、褒めてあげてね」

「うん! ケリーすごい! わしゃわしゃしてあげる!」


 ノイルがケリーに抱きついて羽毛をわしゃわしゃ撫でると、ケリーもノイルに身体をすり寄せて喜びを表現していた。


「さてと……」


 微笑ましい光景を見ながら、フレイシアの頭は今後の行動について考え始めていた。守り神が活動し続けるために生贄を必要としたように、フレイシアも活動し続けるためには先立つものが必要だ。つまるところお金である。

 今朝から考えていた悩みであったが、今回の魔物退治を経て、フレイシアの頭には一つの妙案が浮かんでいた。明日は街に出て、その件について相談しなければ。

 今日のところは戦いの疲れを癒やすため、一日ゆっくり休もうと決めた。

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