第18話 グリリヴィル(3)
空をとって有利だと侮ったから痛い目を見た。水の魔術を操り、水中を自在に泳ぎ回る魔物を相手に、水上で戦ったのが愚かだったのだ。だからフレイシアは戦場を変えることにした。
「ケリー、もう一度だけ下がれる? あいつを誘い出したい」
酷な要求であったが、ケリーは応じてくれた。
思わぬ反撃で片目を潰されたグリリヴィルは、降りてくる忌々しい鶏肉から目を離せないようだ。次こそは翼ではなく、頭を食い千切ってやろうという執念が感じられた。
フレイシアたちがグリリヴィルの跳躍範囲であろうギリギリの高さまで降下した時、待っていましたとばかりに敵は飛び出した。水面を離れ、半狐半蛇の魔物が襲い来る。だが、用心深さを捨てたのは悪手だ。
「今っ!」
今回は不意打ちではない。身構えていたならば、この程度の回避などケリーには容易かった。
ケリーは身を翻し、敵の牙は虚しく空を噛んだ。そして、フレイシアは意を決するとケリーから飛び降りた。ここで勝負を決める。
フレイシアは全身全霊で魔術を行使した。ここしばらく出していなかった全力だ。
強い集中が精霊に意志を伝え、精霊は応えた。
フレイシアが水面に触れた瞬間、辺りの湖が一気に凍りついた。守り神から少女二人を守ったあの日と同じ、氷の精霊術。だが、規模はあの時の比ではなかった。水面に氷が張ったなどという表現では到底足りない。もはや氷山が現出したと言っても過言ではないだろう。あまりにも急激な冷却に、空気すら凍って煌めき、吐息は白くなった。
恐るべき魔術を前に、迂闊にも水面から飛び出していたグリリヴィルはただでは済まなかった。
自慢の蛇の尾も、その長大さが仇となる。胴体が飛び出してもなお、完全に水から出きっていなかった蛇の尾は、いきなり現れた氷山に埋まって固定されていた。半身を氷漬けにされた哀れな魔物は力任せに暴れるが、頑丈な氷はびくともしなかった。もはや戻るも進むも叶わない。
氷の上に降り立ったフレイシアは、グリリヴィルの前に歩み出る。獲物を前にした敵は怒り、水の魔術を発動した。しかし、フレイシアのほうが一枚上手だった。フレイシアを襲うべく操られた水は、フレイシアによって片っ端から凍りつき、役に立たない。動けない敵が打ってくる手など知れている。手の内が分かっていればこんなものだ。
「悪く思わないでね」
もはや万策尽きた魔物目掛け、フレイシアはとどめの一撃を放った。魔術によって作り出された巨大な氷柱が、魔物の心臓を鋭く射抜いた。
敵の断末魔と共に、勝負が決した瞬間だった。
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