第15話 最初に訪れたもの
朝食を終えた後は三人とも気ままに過ごしていた。
マイナは芝生に座って、街へ行った時に買ってきた本を読んでいる。一昔前に帝都で流行っていた貴族階級を舞台とした恋愛小説だった。そういうものに疎いフレイシアでも題名くらいは知っていた。いつの間にか海を越えてホーンランドにもやってきていたらしい。こちらでも流行るだろうか。
ノイルはケリーと遊んでいる。互いに追いかけあってみたり、ボールで遊んだりしていた。ノイルが投げたボールを、ケリーは嘴で突いて器用に返している。マイナは身体を使って遊ぶタイプではなさそうなので、ケリーが相手してくれるのは楽しいだろう。もちろん、ケリーの方も遊び相手が出来て幸せそうだ。
フレイシアはというと、そんなノイルとケリーがはしゃぐ声を聞きながら所持金を数えていた。成績優秀故に学費を免除されていたフレイシアは、学業の片手間に稼いでいたお金を全て自分の自由にすることが出来ていた。亡命の旅費も現在の生活費も、この時の貯蓄から出している。
「さすがにずっとこのままは厳しいよねえ……」
巾着の中にある硬貨をジャラジャラと振りながら、フレイシアは独りごちる。ここへ来てからは一切働いていないので、貯蓄は減る一方だ。まだ余裕はあるが、早いところ何らか稼ぎの手段を考えなくてはいけない。
おぼろげに見え始めた将来の不安についてフレイシアが考えていると、遊んでいたノイルたちが急に静かになったことに気づいた。見れば、湖の方へ向けて険しい視線を送るケリーがいた。
「ケリーどうしたの?」
ノイルは急に様子が変わったケリーに問いかけるも、ケリーは固まったまま湖の方を睨みつけるばかりだ。
フレイシアはある可能性に思い至り、すぐに左腕へと目を向けた。果たして、そこにある魔物探知機は強烈な青い光を放っていた。今まさに、湖に仕掛けた探知機に近づいている魔物がいる。それも、かなりの強さだ。
フレイシアはすぐに立ち上がった。
「マイナ、ノイル。二人とも家の中に戻って」
「えっ、急にどうしたんですか?」
「たぶん魔物が来る」
マイナが息を呑むのが分かった。しかし、その後の対応は早かった。読んでいた本を閉じると、すぐにノイルに駆け寄って避難を促してくれた。的確な行動が出来てくれて助かる。やはり年上の子だ。
「ケリー!」
フレイシアが呼ぶと、ケリーはすぐに飛んで駆けつけた。頼もしい翼に感謝しつつ、フレイシアはナイフで自分の指の腹を指した。ケリーに血を与え、その力を解放する。
ケリーはみるみる大きくなり、四本の脚を折り曲げてフレイシアが乗るのを待った。
「行こう。新任守り神の初陣だよ」
フレイシアが背に乗ると、ケリーは大きく息を吸って、沖にいる魔物を威嚇するかのようにけたたましく鳴いた。
北部地域からやってきたと思われる魔物。これまでは忌まわしい守り神に排除されていたであろう脅威。この戦いは生け贄制度に頼らずホーンランドがやっていけるかの分水嶺だ。制度を潰した責任にかけて、助け出したマイナとノイルの信頼にかけて、そしてフレイシア自身のプライドにかけて、どうあっても負けるわけにはいかない。
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