第14話 何でもない朝

 フレイシア邸の朝はケリーの景気が良い鳴き声から始まる。

 未だ重いまぶたをしばたかせてフレイシアは身を起こした。ケリーがここにいる限り、寝坊はあり得ないだろう。

 三人と一羽で一緒の生活を始めてから一週間ほどが過ぎていた。街まで買い出しに行ったマットの力により、寝起きの身体は快調だ。木箱を並べてマットを敷いただけの即席ベッドだが、充分に力を発揮してくれている。敢えてベッドを買わずとも、ずっとこのままで良いかもしれない。


「おはようございます」


 座ったまま伸びをしていると、横から声がかかった。


「おはよう。マイナ」


 フレイシアの隣には真新しい寝間着に身を包んだマイナとノイルが陣取っていた。同じ即席ベッドはマイナとノイルも使っているのだ。単に木箱をたくさん並べてマットを敷き詰めるだけだったので大した手間ではないが、フレイシアには聞きたいことがあった。


「ねえ、ずっと思ってたけど二人とも自分の部屋欲しくないの? 部屋は他にもいっぱい空いてるよ」


 育ち盛りの子供たちだ、一人部屋に憧れはないのだろうか。幸いこの塔には多くの部屋があり、物置も含めて三人では使い切れないほどの空き部屋がある。ちなみに今の寝室は最上階の南向きだ。


「ノイルはみんな一緒がいいなあ」


 ノイルがケリーを抱いたまま言うと、賛同するように「コッコッ」とケリーが頷いた。ケリーはノイルに良く懐いていて、眠る時も大人しく抱かれたままだった。良い友達を得たようで、フレイシアも嬉しい。


「わたしたちずっと大人数の部屋だったので、人と一緒は慣れてます。このベッドは広いくらいですね」


 マイナはそう言った後、何かに気づいたように顔をハッとさせてから、慌てて付け加えた。


「あっ……! すみません! もしかして、フレイシアさんのほうが個室にしたいって意味でしたか? そうですよね、急にこんなわたしたちが押しかけていて、気づかなくてごめんなさい。言ってくれれば違う部屋に移りますので!」

「いやいや、別にそんなことないから良いよ。私も帝国で学生寮にいた時はルームメイトと一緒だったし、こういうの慣れてるから」

「一緒で良いって! ケリーもよかったね。今日も一緒に寝ようね!」

「コッコッ!」


 結局、部屋は潤沢にあるのに三人と一羽を押し込んで一つの部屋を寝室にすることとなった。


 朝食も三人で摂る。

 塔の一階には立派な竈があり、現役で活躍中だ。とはいえ、料理は主にマイナの役目だった。フレイシアの学院在籍時代はほとんど食堂で済んでいたし、たまに炊事の機会があってもルームメイト任せだったので、マイナには頭が上がらない。

 今日は天気が良いので、外に机を出して朝日に煌めく湖を見ながらの朝食だ。


「ケリーが鶏肉食べるのはびっくりしちゃった」


 焼いてほぐした鶏の胸肉を啄むケリーを見ながらノイルが言う。ケリーは全く意に介さず、美味しそうに肉を食べていた。


 微笑ましい食卓を見ながら、フレイシアはちらりと左腕のブレスレットを確認する。魔物探知機の親機だ。これを仕掛けてから今日まで、魔物の気配は探知されていない。何事もない平和な朝は、今日も続いている。

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