シュトーレン
る。
サンタ・クロースと切り分けて
サクリ・キリキリ。
ナイフはそれ以上沈まない。
ふうと吐いた息はほんのり白くてすぐ消えた。
そう言えば未だ暖房を入れていない。
シュトーレン。
クリスマスの四週間前から少しずつ切り落として食べていく、ドイツの伝統菓子。
ナッツやドライフルーツたっぷりの生地にラム酒が馴染んでいき、進む日ごとに味の変化を楽しめる。
前夜祭はふわふわのケーキよりこのカチカチの一切れが楽しみ。だけど
――やっぱり今年も、ひとりなのね。
かじかんだ手を重ねて息を吹き込むとほんのり温まる。
出かける前に火を止めた、鍋にシチューがあるけれど一人分には多すぎて温め直す気になれない。
……別に家で食べる約束をしてた訳じゃないのに。浮かれていたみたいで恥ずかしい。
クリスマス・イブに会って夜更ける前にそれぞれの家に帰る。
恋人なのにそれが普通なの?
――なんて哀れっぽく嘆くのはお門違い。彼と私とは「仮」のお付き合いなのだから。
私は彼に気持ちなんてないし、こんな私じゃ彼だっていつ変わってもおかしくない。
私はそう、「恋人ごっこ」の為に用意していただけ。
もう寝よう。シュトーレンにまぶされた粉砂糖が溶けないように冷えたまま。
ひんやりしたシーツと掛け布団の間に滑り込む。
サンタ・クロースっていつまで信じてた?
自分のところに来てくれるって。
大人になったら自分がサンタクロース……欲しいものを手に入れるのは自分自身・て誰かが言っていた。いい子なだけじゃ何も手に入らない。
眠りを覚ます真夜中のチャイム。普段なら絶対に開けないだろうドアに手を伸ばすのは、御伽噺に縋るこどもみたい。
肩に粉雪を乗せた彼が、手袋を差し出した。
ああ、気づいていたのね。デートの何処かで落としてしまったのを。
もう何時間経つのだろう。別に思い入れなんてないんだから、途中でそっと買ってプレゼントでもしてくれればお礼に家に誘えたのに。そういうスマートな人が好きなのに。
思い入れなんていらなかったのに。
「……シュトーレンがあるの」
シュトーレン る。 @RU-K
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