第5話

「兄やんもケータイ使えへんの?」


 ひょいとお尻のポケットからスマートフォンを抜き取られて画面をポチポチとタップしているが


「と言うか、電源ついてへんやん」


「本人以外使用できないみたいだね。

 ボクのスマホも触れなかったよね。ボクは画面が見えているのに、君には見えない。おそらく、本人以外使用できないような仕組みがあるんだろうね」


「すごい技術だ」

 

 僕はうなずいてから。

 これなら、ATM等横から覗き見られることは無くなるだろうし、

 クレジットカードも同様の技術で不正利用を抑制できるかもしれない。


「なんや、オモンナイな。

 ホレ、返すわ」


 ポイと投げられて、僕はあわや落とす前にキャッチできた。

 エセ関西弁の男の好感度が低下する。

 勝手に盗って、投げるなんて、どんな教育されてきたんだ。


「君にはあまり近づかないほうがいいのかな。

 初対面から失礼すぎだよね」


「僕もそう思う」


 丁寧な口調の男は少し苛立ちを表しながら

 僕はそれに同意して、

 すると、遠くからガチャリとドアの開く音が聞こえる。


 どうやら新しい入場者のようだった。


「あらぁ、ここはどこかしらぁ」


 あれまぁと、頬に手を置いて困った様子を見せるのは、白髪の老婆。

 しかし、背筋は曲がっておらず、齢は70に届いていないくらいか。

 だが、100に近い老父も真っ直ぐたち農作業をしてハキハキ喋る人がいることを知っている。

 最近の医療技術は小手先の技術だけが発展しており、30年前くらいから平均寿命は変化していない。


 つまり、あの老婆の年齢はわからない。


「ほぉ、けったいなおばんやな」


「あれ? 彼女は--」


「ジブンの身内か?」


「いいや。でも見たことがないかい? あの顔はいくら老人のシワが多くても特徴があってね、ほら。とてもきれいな。

 おそらくアパァの」


「ああ、見たことがあると思った。アパァの」


「なんや、ワテラの言ってることがあんまりわからんわ。

 なんや、アパァって」


「アパァはアパァさ。

 それ以上でも以下でもない」


 僕が言うと、男はふんとそっぽを向くように立ち上がって

 僕と高身長の男から距離を取るように


「気分悪くなったわ。じゃーの。

 わいは勝手にやってるわ」


 と、一人で遠くの扉の前に立つ。

 おそらくそこが関西弁の男が出てきた扉なのだろう。


 ふと、思えばこの空間には僕が出てきたものも含めて全部で7つ。


 そのどれも同一のものはなく、豪華な体裁のものから安アパート感マシマシの穴が板で塞がれた扉まで、様々な種類が7つ。


「な、なんや!? 開かへん!!」


 ドアノブに手をかけてガチャガチャと回している男。

 押しても引いてもノブが回るだけで、ピクリとも開こうとしない。


「ざまぁ」


 僕は聞こえないように呟いたが、

 近くの高身長の男と目があって、ウインクされながら唇に人差し指を立てて

 「しぃ」っと注意された。


 こんな男がモテるのだろうかと、僕は思った。


 あたりを見回していた老婆は、ドアをガチャガチャしている男を見つけてから、

 僕らにも気がついたようで、こっちに歩いてくる。


「わたしのドアも開かないのですが、閉じ込められたのでしょうか?

 これから予定があるはずなのですが、スケジューラも開かず。

 困っているのですが、貴方達も同じ状況のようですね」


 スマホの画面を僕たちに見せながら「アプリが無いのです」と笑い。


 察しが良すぎて困った。

 何だこの老人は。老人の滑舌でもないし、思考が早すぎる。

 状況の飲み込みが早すぎる。

 僕でも混乱しているのにも関わらず、もう落ち着いているようだった。


 先程まで、関西弁の男が座っていた、椅子にちょうど良さげな岩に腰をおろしてから、「さて、」と話し始める。


「こんなときは、ゲームマスタァがやってきてルール説明をするものです。

 でも、いちにぃ、さんよん、まだ4人しかいませんね。

 あと3人が出てくるまで進まないと思います。何か雑談でもしていましょうか」


「え、あ、は。。。はい」


 僕は唖然として、

 察しがいいレベルではない。


「え、運営の方ですか?」


「経営学を少々嗜んでおりますが」


「え、いや。貴方が黒幕では・・・?」


「ないですね。巻き込まれた側ですが、

 そうですね。昨日、アポのない女性がわたしの元へ訪ねてきたんです。

 その時世界がどうとか。このスマホにも同じような文言がありましてね。

 あら、確認できました? スマホのアプリがーー」


「あ、それはボクたちも確認していますよ」


 好青年高身長男子の彼が返事をして、

 満足そうにうなずく老婆は


「あら、よく喋るなってお顔をしていますね。

 そうなんです。わたしはよく喋るババアですよ」


 さぞ、テレビバエするのだろうな。


 すると、ほぼ同時に2つのドアが開いてそこから出てきたのは、

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七人の王様 藤乃宮遊 @Fuji_yuu

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