第11話 異端の司祭は蜂蜜パンの香り

 プタハ大神殿はメンフィスの中央に位置する、鍛冶や職人の神プタハを祀った神殿である。エジプトでは3本の指に入る規模を誇った。

 四方を分厚い壁に囲まれたこの神殿は、西・東・南に巨大なモニュメントを誇る塔門が存在する。


 カエムワセト達は、ラムセス二世の立像が並ぶ西側の門から入場した。

 門番の一人が、カエムワセトの姿を見つけるなり駆け寄り礼をした。カエムワセトも礼を返し、遅れてライラと少年二人が来るので自分達の元に通すよう頼む。

 次に、プタハ神殿の最高位であるフイ最高司祭との面会の可否を訊ねた。

 その質問に門番は口ごもると、「フイ最高司祭殿は、数日前からお籠りだとか」と、申し訳なさそうに不可を告げた。

 それを聞いたアーデスは、「またかよ」と首を掻いた。続いて、「そのうち死んじまうんじゃねえか?」と言う。面白がる口ぶりではないので、本当に心配しているらしい。


 神官の役割は宗教家のように神がかったものではなく、その多くはファラオに代わって神殿の神事を執り行う職員である。拝謁の間に来た庶民に神のお告げとして預言する事もあるが、大抵は神の像を清め供物をささげたり、供物の管理をしたり、神殿の建物の維持または備品を作成したり、葬式をするなど、業務的な内容が殆どだった。

 しかし、フイ最高司祭は希に見る“神がかった神官”であり、時々「神の声が聞こえる」と言ってはトランス状態に陥り、数日間飲まず食わすで中央礼拝堂に籠るのだった。

 今回は運悪く、そのタイミングに来てしまったらしい。


「ジジイが礼拝堂なら俺らは入れねえぞ」


 基本的に庶民が自由に入れるのは前庭までである。内部は神官以上のものしか入場を許されていなかった。しかも、今も彼が瞑想中であるなら、会話すら不可能である。


「大丈夫。もう出てるよ」


 不意に、リラが言った。何かの匂いを嗅ぎ分けているように顎を上げ、目を細めている。

 門番は『え、そうなの?』という顔をしたが、カエムワセトもアーデスも、リラが言うならそうなのだろう、と疑わなかった。


「ところでハワラ、神殿は大丈夫かい?」


 自分のすぐ後ろにいるハワラを、カエムワセトは顧みた。魔物に無理やり蘇生された身体では、神殿の空気は辛いのではないかと心配したが、ハワラは意外にも「うん。少し体が重いけど、入れそうだ」と、にこりと笑って返した。


「プタハ神は世界の創造主で闇を好む神様だから。ハワラを受け入れやすいのかもしれないね」


 リラの言葉に、ハワラが「だったらいいな」と嬉しそうに笑った。

 神々の世界にとっても、罪に等しい行いをしている自分の存在を受けて入れてくれる神様がいるなら、有難いことである。

 カエムワセトに全て打ち明け気持ちが楽になった事で、ハワラの表情はずっと明るくなっていた。


「早く行こうぜ。ジジイは礼拝堂から出たら毎回、暴飲暴食と沐浴してから籠ってた日数分爆睡するだろ」


 フイ最高司祭の習慣を知っているアーデスは、全員を急かした。沐浴に付き合うのも、爆睡から起こしてどつかれるのも御免である。狙うは最初の食事時しかない。

 カエムワセトが「あ」と足を止めて頭を触った。頭巾越しに触れた掌の下には、5㎝ほどに伸びた毛髪がある。


「しまった。髪を剃らずに来てしまった」


 神官は、体毛を剃って神殿に入るのが決まりだった。それは、非常勤のカエムワセトも例外ではない。神官の中には眉やまつ毛まで剃り落とす者もいる。いつもは就業の前夜に頭髪を剃っておくのだが、急な事で忘れていた。


「非常事態だ仕方ねえだろ。頭巾取らなきゃ分らんねえ」


 戻って剃っている時間は無い。入場に二の足を踏むカエムワセトの手首を掴んだアーデスは、強引に神殿内部に引きずって行った。目指すはフイの執務室である。

 

―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・


「おや、こんな時期に珍しい」


 フイの執務室の前で、カエムワセト達はワイン壺を持った若い神官と出会った。のびやかな長身に軸が一本通ったような美しい立位姿勢の彼は、人の良さそうな笑顔で同僚の王子とその近臣を迎えた。


「イエンウィア。会えてよかった。フイ最高司祭はいらっしゃるだろうか」


 常勤の神官であり、フイの補佐役であるイエンウィアは、「勿論おられるよ」と頷いて、「丁度、ワインを頼まれたところだ」と、子供の頭ほどの大きさのワイン壺を少し持ち上げて見せた。


「断食明けにワインとは、相変わらず腹の丈夫なジジ・・・(ゴホン)お方だな」


 流石に補佐役の前でジジイ呼ばわりするわけにもいかず、アーデスは咳払いして訂正した。


 何とか沐浴前に間に合ったようである。カエムワセト一行はホッとして、フイとの面会をイエンウィアに申し出た。

 イエンウィアは快諾し、「食事中だが、どうぞ」と、フイの執務室に入る。カエムワセト達も後ろに続いた。


 部屋に入った途端、小麦と蜂蜜を焦がしたような香ばしい香りに包まれた。

 室内は柔らかな光に満ちていた。明り取りの窓から差し込む太陽光に室内を漂う埃が反射して、キラキラとした光を放っている。

 その中に、一人の老人がいた。崩れかかった書物の山に囲まれて、テーブルに突っ伏す格好で、むしゃぶりつくようにパンを頬張っている。彼の前にはパンのほかにも、皿に盛られたイチジクやナツメヤシの実、焼いた鶏肉などがあった。


 彼の身なりは高位の神官が身につけるものだったが、豹の毛皮で作られたショールはヨレヨレで、上質な亜麻布で織られた衣服も裾が擦れていた。そして、彼の纏う衣服以上に、彼自身が劣悪な身体をしていた。骨と皮だけの極限までやせ細った身体に、眼光だけが異様に力強く鋭い。そして、何やらブツブツと独り言を呟きながらパンを頬張るその口からは、パンのカスがポロポロと落ちて床やテーブルを汚していた。


 補佐役のイエンウィアは、その異様な場景を前にしても眉ひとつ動かさなかった。これが彼にとっての日常だからである。


「フイ最高司祭、カエムワセト殿下が――」


 イエンウィアがカエムワセトの来訪を知らせる前に、パンを頬張っている老人、つまりフイ最高司祭その人が片手を上げて、それを制した。


「ちと黙っとれ。久方ぶりの食事を邪魔するでないわ。・・・・パンはエジプト人の糧であるがしかし砂が混じっておるのはいかんイチジクは命の雫じゃ喉を潤す今年の供物は麦が多いカエムワセトの出勤は一月後の予定である・・・」


 最初の二言以降は独り言なのか、声が小さく早口で聞き取りづらかった。

 突如、フイが咽始めた。パンを詰まらせたのだと気付いたイエンウィアが、急いでカップにワインを注ぎ、フイに手渡す。フイは口角から赤い液体を零しながら、一気に飲み干した。


「また痩せたんじゃねえか?」


 アーデスがカエムワセトに耳打ちした。あいも変わらず瞑想明けの老齢司祭は盛大な暴飲暴食ぶりだが、以前に会った時よりも骸骨感が増している気がする。


「今度は何日お籠りに?」


 カエムワセトが心配そうに訊ねた。


「三日じゃ」

「四日です」


 フイ直々の回答を、間髪置かずイエンウィアが訂正する。

 アーデスが「なんで生きてんだよ」と愕然とした。

 冬以外は酷く乾燥し、日中は40℃を超すこともあるエジプトの過酷な気象状況で、いくら屋内にいるからとはいえ飲まず食わずでいるなど、自殺にも等しい行為だ。しかもフイはガリガリに痩せた老人である。今生きている事は、奇跡を通り越してもはや奇怪だった。


「今回は流石に私もフイ最高司祭の身を案じました。もしかすると高齢の方が時折そうなるように、解放された本能で超人的な行動力と生体活動を発揮されているのかもしれませんが――」

「ワシはまだボケとらんわ、たわけ!」


 ふざけた事を至極真面目に回りくどく喋り出した補佐役を、フイはパンの欠片を飛ばしながら叱りつけた。イエンウィアは身体を軽く反らせ、歯の残り少ない口から飛んでくる飛沫を避けた。


「フイ最高司祭。お食事の最中に誠に申し訳ないのですが、急ぎの用があり参りました。まずはこの子を紹介させて頂けないでしょうか」


 これ以上待っていても埒が明かないと判断したカエムワセトは、多少の叱責を覚悟してハワラを前に出した。

 フイはギョロリとした目でハワラを見ると、更に大きく開眼して「・・・蛇がおる」と呟いた。

 その言葉に、ハワラが身を強張らせる。


「黒い大蛇じゃナイルの底の災いに仕えし影じゃ・・・」


 また小声でまくしたてながら、その細い両腕で身体を支え立ち上がると、フイは丸まった背骨とがに股で、突進するようにハワラに近寄った。両手でハワラの顔を乱暴に掴むと、自分の顔にぐいと引き寄せる。

 ハワラが「ひっ」と小さな悲鳴を上げた。フイは構わず、冷や汗をだらだら流す少年の瞳の奥を、じっと見つめた。見つめている間、フイの独り言は止んでいた。

 やがてフイは眉の薄れた目を伏せ、「魔物の戯れとは残酷よの」と呟き、またテーブルに戻った。


「・・・死んだ子供の魂を食らう魔物に犯されし哀れな魂は助けを求めるものを間違えなかったが救いは成し遂げられるのかあまりにも酷であるオシリスの救いもアヌビスの導きも期待できんアペピが動き出すもうすぐ聖牛の葬儀が・・・・」


 ブツブツ呟きながら新しいパンを掴み、再びガツガツと食べ始める。


「自己紹介は要らないみたいだね」


 リラが緊張と恐怖で青ざめているハワラに言った。


「状況説明も不要のようだ」


「毎度のことながら恐ろしい爺さんだぜ」


 カエムワセトとアーデスも、リラの言葉に各々の見解を付け加えた。


ー――――――――――――――――――――――――――――――

 外の賑わいに気付いたカエムワセトが、入口から顔を覗かせて確認した。

 門番に案内されながら、ライラとジェトとカカルがこちらにやって来るのが見える。三人は何やら喧嘩腰で言い合っていた。


「どこにいても煩せえな、あいつらは」


 アーデスがぼやいた。

 出会った時から喧しかったジェトとカカルだが、ライラも加わった今は、より一層騒々しくなっている。

 ジェトのいう魔法書とやらをアジトに取りに行っていた三人だったが、城でのやり取りから考えるに、道中ずっとこんな調子だったのかもしれない。


「殿下!」


 カエムワセトにいち早く気付いたライラが駆け寄った。


「遅くなり申し訳ございません」


 そう言ったライラの額は少し汗ばんでいた。

 イエンウィアが「ライラ」と名を呼び、軽く頭を下げて礼をした。ライラも顔馴染みの神官に対し、同じように礼を返す。

 続けて、ジェトとカカルがやって来た。

 部屋に入るなり、カカルが悲鳴を上げてジェトに飛びつく。


「アニキィ!ミイラっす!ミイラがパン食べてるっす!」


 その瞬間、「ぶっ」と三つの破裂音が起こった。吹き出し笑いである。

 カエムワセトは辛うじて口に手を当てていたが、アーデスとイエンウィアは間に合わず盛大に吹き出していた。

 必死に押し殺される三人の笑い声の中で、「まだ死んどらん!」とフイがカカルを睨んだ。

 カカルは「あれ?ホントだ生きてるっすね」と目をパチクリさせると、ジェトの首根っこから離れた。続いて、部屋に漂うパンや鶏肉の香りに鼻をひくひくさせると、ぐうううう、と盛大に腹を鳴らす。


「腹、減ったっす・・・・」


 カカルは腹を抑え、肩を落とした。


「そういえば俺も・・・」


 ジェトも腹をさする。

 二人は昨日の昼に何も入っていないパンを半分こして食べたきりである。しかもカチカチだったものを水で流しこんだ。


「・・・・腹をすかせた痩せた子供粉をイースト塩バターに乳をよく捏ねる根気よくねらねばやわらかなパンは猛禽類は蛇を食うイチジクが喉を潤す供物はメルレカは明日訪れる・・・・」


 パンを飲み込んだフイが、残りのパンが入った皿とイチジクの皿を掴むと、ジェトとカカルに歩み寄り、「ホレ喰え」と推しつけるように寄こした。


「いいんすか?」


 渡すだけ渡してさっさと背中をむけたフイに、ジェトが確認する。

 フイは背中を向けたまま、手を払う仕草で『さっさと喰え』と示した。


「それはもう祈祷を終えた供物だから、食べていいんだよ」


 手をつけるべきか迷っているジェトとカカルに、カエムワセトが助け船を出した。イエンウィアも頷いて、二人に食べるよう勧める。

 ジェトとカカルはパンを手にとって遠慮がちに一口噛ったが、その柔らかさと甘さに驚いて見張ると、そこから先は二人とも無我夢中で頬張った。


「私もひとつ食べたいな。――ハワラにもあげる」


 リラも横から手を伸ばしてイチジクを二つ取り、一つをハワラに渡すと、もう一つに口をつける。

 その微笑ましい様子に頬を緩めたイエンウィアが「もうすぐ昼だ。皆も食べて行くといい」と昼食に誘った。


「・・・それよりもアペピじゃアペピ蛇の魔物・・・」


 フイはテーブルには戻らず、室内に幾つも山を作っている書物を漁っていた。


「食事はもうよろしいので?」


「邪魔するでない!・・・アペピ・・・蛇の魔物・・・蛇の王者の配下・・・ナイル川の底の・・・パンはかびると臭いいっそミイラの如くナトロンにつけてくれようかデーツは乾燥に限る乾燥は砂漠の力太陽の恵み・・・蛇の敵は鷲であるから・・・」


 補佐役を一喝した後、フイはすぐにまたブツブツ言いながら、書物の山から引き抜いた紙や巻物を、投げるように部屋の中央にどんどん溜めていく。

 イエンウィアは、やれやれ、とため息をついて、テーブルの上の余った鶏肉とナツメヤシを下げて部屋を出て行った。調理場に戻すのだろう。


「この人、考えが全部口からダダ漏れてません?」


 パンの最後の一欠片を口に放り込んだジェトが、部屋の真ん中にまた新しい書物の山を作ろうとしているフイを指差して、カエムワセトに訊ねた。咀嚼しながらなのでモゴモゴとくぐもってはいるが、フイのようにパンくずをこぼしたりはしていない。


 フイは食べ物を飲み込む時以外、ずっとブツブツモゴモゴ喋っている。会話の際は喝舌が良くなり声も張るのでコミュニケーションをとる分には困らないが、彼の様子は見ていて妙である。


「全部ではないよ。『煮えたぎる鍋の中の泡のように湧き出てくる思考の中で、収まりきらない部分だけがこぼれ出ているのだ』と、以前仰っていた」


「わけがわかりません」


 ジェトの顔は、未知のものに触れた人のそれだった。カエムワセトは笑い、「そのうち尊敬できる人だと分るよ」と言った。

 そして、フイの書物探しがもうしばらくかかりそうだと予想したカエムワセトは、「そういえば、ジェトの言っていた魔法書というのは?」と、別班で動いていた三人に訊ねる。

 主人の問いかけに、ライラが躊躇いがちに手に持っていた麻袋を手渡した。

 カエムワセトは、ライラの様子がおかしい理由が分らないまま、麻袋の中身を取り出した。姿を現した中身に、目を見開く。


「トトの書じゃねえか!」


 カエムワセトより先に、アーデスが声を上げた。

 リラとハワラも駆け寄り、カエムワセトの手の中にある巻物を覗きこんだ。


「これがトトの書・・・」


 ハワラが呟く。

 黒曜石を削って造られた2本の軸棒で構成された巻物には、神殿でよく見る神々の姿を描いたレリーフのような絵と、神官文字が記されていた。

 トトの書を知らないジェトは眉を寄せる。


「だから、なんすかそれ」


「そんな凄いお宝なんすか?」


 カカルもイチジクを口にくわえながら、トトの書を覗きに来た。

 ライラはアジトでこれを見た瞬間、腰を抜かさんばかりに驚いていた。しかも、すぐさまこれを近くにあった麻袋に入れると、ジェトとカカルを置いていく勢いで神殿へ疾走したのである。ジェトとカカルはライラを見失うまいと、必死で追いかけた。


「別名“知恵の書”。トト神が記したとされる、万物の存在とその構成や流れを解き明かした強力な魔術書だ。手にした者はその気になれば、一夜で国を滅ぼすほどの魔力を手に入れることができる」


 カエムワセトの説明を聞いて、ただでさえ丸いカカルの目が、更にまんまるになる。


「ひえー。おっそろしいっ」


「でも、俺には何も起こらなかったぜ」


 不満げなジェトに、アーデスが「読めなきゃ意味がねえ」と答えた。


「これは私が地中深く封印したはずだ。何故君が?」


 珍しく慌てている様子のカエムワセトに、ジェトは「ふふん」と得意げに腕を組んで笑った。


「あれで封印?おいおい。盗賊の嗅覚を甘くみられちゃ困るぜゴフッ!」


 言い終わるや否や、著しく礼を欠いたジェトの態度に鉄槌が下った。


「あんたも私の忠義心を甘くみんじゃないわよ」


 右肘をジェトの脳天にめり込ませたライラが、低い声で忠告した。


「この暴力ヒス女・・・!」


 ジェトは頭を抑えて悔しそうにライラを睨む。


「ほお。トトの書が戻ったか」


 突然、気配もなくカカルの真後ろにフイが現れた。驚いたカカルが「きゃあ」と甲高い悲鳴を上げる。


「フイ最高司祭。しかしこれは――」


 言いかけたカエムワセトに、フイは左手を上げて続きを制した。続けて、カクっと頭を後ろに倒す。そしてそのまま暫く、瞬きもせずに天井を仰いだ。


「なにやって――」「シッ!」


 静まり返った部屋の中、開きかけたジェトの口をライラがすかさず手で塞いだ。

 やがてフイは頭を戻すと、干からびたようなその腕で、トントンと肩を叩いた。ずっと上を向いていたので肩が凝ったらしい。


「今度は神々からの計らいじゃ。罰があたることは無かろう」


 そう言ったフイは、何事もなかったかのような顔で、カエムワセト達の間を抜けて入口に歩いてゆく。


「ではワシは沐浴の後に寝る。役に立ちそうな資料はここにある。後はイエンウィアに任せる。書物でも兵士でも神官でも何でも好きに持って行け・・・」


 執務室の中央にできた書物の小山を指差しながら早口で言い残し、フイはまたブツブツ呟きながら部屋の外に消えていった。

 まさか、何でも持っていけと言われるとは思わなかった。

 想像以上だった上司の温情に感動がこみ上げたカエムワセトは、一言礼を述べようと一歩踏み出す。だが、オマケのように降って来た「次はちゃんと剃ってまいれ!!!」という大きな叱責に、頭巾を抑えて身をすくめた。



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