第10話 ナイルの底に潜むもの

「僕、もうミイラ処置までされちゃったのに、母さんてば毎日泣いて、なにも食べないんだもん。心配で、審判どころじゃないよ。だから、冥界には行かずに家の周りをぐるぐる回ってたんです。そしたらいきなり闇ん中に落っこちて。気がついたら目の前に、大きな蛇がいたんです。そいつは僕に、アペピって名乗りました。

アペピは僕を一時的に生き返らせてくれるって。その間にカエムワセト殿下の弟君を殺せば、その命と引き換えに僕を再生してくれるって言いました。僕、やりますって約束しちゃった・・・」


 王宮に戻った一同は、ハワラの部屋で彼の告白を聞いていた。

 踏み台代わりの小さな椅子に座ったハワラは、うな垂れて涙をこぼしながら、カエムワセトを頼ってぺル・ラムセスに赴いた経緯を語った。


 カエムワセト、アーデス、ライラ、リラの面々は各々椅子や寝台、衣装箱などに座ってそれを聞き、壁際にはジェトとカカルまでが落ち着かない様子で立っている。

 番兵は、頭の冷えたライラが戻ってきて早々に解放されたが、何故か盗賊の二人は両腕を縛られたまま、ここまで連れてこられた。

 深刻な話が繰り広げられる中、部外者の二人は居心地が悪くて仕方がない。


 寝台にリラと座っているライラは、そのすらりとした脚を組んで、頬杖をついた。目を三角にすると、ハワラに「馬鹿ね」と言う。


「一時でも生き返らせてくれたんなら、さっさと母親のとこに行って、喝を入れるなり励ますなりしてやりゃよかったのに」


「できないよ!アペピが、生前親しかった者には絶対に近づくなって。もしその条件を破ったら、僕の魂を喰ってしまうって」


 それを聞いたライラは、腕を組んで「ちっ」と大きく舌打ちした。


「化け物のクセにケチケチしてるわね。しみったれ!」


 主人の御前であるにも関わらず、いつも以上に口が悪くなっている。しかも、言っている内容までメチャクチャである。

 明らかに恐いのを我慢して虚勢を張っているライラに、アーデスが顔をしかめた。


「ちょっとお前黙ってろ。怖いんなら隅で座ってていいから」


 そう言って、ジェトとカカル近くの壁の端を指差す。

 しかし、ライラはそれに応じず、その豊満な胸を張って鼻息を荒くした。


「別に怖くないわよ。爬虫類の化け物に、死人でしょ。受けてたってやろうじゃないの!」


 ここまでくるとむしろ痛々しい。

 カエムワセトはどうしてよいか分らず苦笑い、アーデスは苦虫をつぶしたような顔で頭を描いた。リラだけが、いつもの捕え所のない笑顔で発狂寸前のライラを眺めている。

 牢屋でライラに半殺しにされかけたカカルは、両目に涙を溜めてジェトの袖を掴んで身を寄せた。


「アニキぃ。この姉ちゃん、やっぱどっかイカれちゃってるんじゃないんですかぁ?」

「目、合わせるな。今度こそ殺されるぞ」


 カカルの失言を聞き逃さなかったライラが物凄い形相で睨んできたので、ジェトは必死で視線を逸らせた。


「すまない。どうぞ続きを」


 話が中断してしまい、ぽかんと口を開けていたハワラに、カエムワセトが先を促した。

 ハワラは「ええと・・・」と話の流れを思い出しながら釈明を再開する。


「でも途中で怖くなって・・・宮には入りこんだけど何もできなかったんです。そうこうしてるうちに、あいつが言っていた話を思い出したんです。メルエンプタハ王子は、トトの書を掘り出したカエムワセト王子の弟だって。トトの書をお持ちの殿下なら、助けてくれるかもしれないって思いました」


 「それで、ぺル・ラムセスに・・・」と、最後は消え入るような声で説明を終え、上目づかいでカエムワセトの反応を待つ。


 カエムワセトは肘掛椅子の左側に体を預け、口元に手を添えて暫く考え込んでいたが、やがてぽつりと言った。


「怖くなったのは、人を殺める事に対してか?それとも、君の魂が食べられてしまうことに対して?」


 カエムワセトの問いかけは、まるで独り言だった。だがその声色に明らかな憤りを感じ取ったハワラは、慌てて椅子を降りて土下座した。


「ごめんなさい!どうしても生き返りたかったんです!家族のとこに戻りたかったんだ!」


 そしてハワラは、メンフィスに到着したら全て白状するつもりだったが、なかなか言い出せなかった事を詫びた。

 メンフィスに到着してからハワラの様子がおかしかったのは、ジレンマに陥っていが故だった。いつ再びアペピが現れるかもしれないという恐怖心もあったに違いない。

 カエムワセトは目を閉じると一度息を大きく吐いて、再びゆっくり開眼した。そして、自分を見上げるハワラの様子を確かめる。

 ハワラは両手を床につけて、まっすぐにカエムワセトを見ていた。ぺル・ラムセスの時のように、落ち着きがなく無駄に体を触ったりはしていない。何より、正体が露呈した今、これ以上の虚言は無意味だった。

 今度こそ真実を言っている確信を持ったカエムワセトは、硬い態度を崩して柔らかく微笑んだ。


「意地悪を言って悪かった。正直に話してくれて感謝する」


 その言葉を聞いた途端、ハワラの全身から余分な力が抜けた。カエムワセトが例え形だけでもハワラの謝罪を受けて入れてくれた事と、自分の肩の荷が一部降ろせた事に安堵する。

 一方、カエムワセトは難しい顔で再び考え込む。


「何かひっかかるのか?」


 アーデスが訊ねた。

 カエムワセトは腿の上で指を組むと、「うん・・・」と返す。


「アペピは確かに死者の魂を喰らう事はできるけれど、復活は不可能なはずなんだ。再生の神は、また別にいる」 


 カエムワセトの証言に、ライラとアーデス、そしてハワラの表情が変わり、空気がざわつく。

 カエムワセトは神殿の書物から得た知識を思い出しながら続けた。


「アペピはナイル川の奥底に潜み、嵐、夜、死等の負の存在を司っている蛇の魔物なんだ。確か、コブラ以外のあらゆる蛇の支配者ともいわれているんだけれど・・・」


 そこまで説明すると、カエムワセトはリラの名を呼んだ。

 神の眷属であるペストコスとコミュニケーションを取れるリラなら、自分以上に神・魔に詳しいはずだと踏んだカエムワセトは、「リラ。アペピのような魔物が、こんな姑息な嘘をついたりするものだろうか?」と意見を求めた。

 その質問に、リラは考えるそぶりも見せず即答する。


「古くてラーとも戦える大物だからね。気位が高いはずだし、分別だって心得てるはずだよ。子供を騙して王子を殺させるような、馬鹿な真似はしないと思うな。むしろ怪しいのは、アペピの配下か、もしくはまったく別の魔物だね」


「なんだそりゃ。とんだ詐欺師じゃねえか」


 殆ど断言したも同然であるリラの回答に、アーデスが目を剥いた。

 ライラに至っては驚くどころか、神・魔談議についていけなくなっていた。脳が拒絶しているのもあって、辛うじて真面目な表情は保っているが、彼女は目の焦点が合っていなかった。


「それじゃあ、僕は・・・」


 ハワラの手は震えていた。そこから二の句が継げないハワラに代わって、カエムワセトが結論と己の見解を述べる。


「君が復活できるというのは、虚言だ。今の君の状態も、本来なら許されるものじゃない。蛇の姿をしていたのなら、アペピの配下なのかもしれないが・・・おそらく、最後には君もメルエンプタハも、両方喰らうつもりなんだろう」


 ハワラが下唇をぎゅっと噛んで黙りこむ。他の者も、彼にかける言葉が見つからなかった。

 憤りと混乱が渦巻く室内で、完全に外野のポジションを決めているカカルだけが、比較的和やかな雰囲気を保っていた。


「子供の魂が好物なんですかね?」


「さあ。どうでもいいけどなんで俺らまで参加してんだよ・・・。ていうかあいつ、王子なんて冗談だろ」


 こっそり耳打ちしてきたカカルを適当にあしらったジェトは、一刻も早くこの場を立ち去りたい衝動と闘っていた。王族にしてはありえないほどの腰の低さをみせる目の前の青年に、自分が昨晩しでかした数々の不敬を思い出すと、冷や汗を流さずにはいれらない。


「・・・アペピは闇と悪を司る魔物だから人には嫌われているけれどね。でも太陽と月のように、光と善に相反する要素として、この世には不可欠で、神ではないけど気高い存在なんだよ」


 静まり返った室内で、リラが誰に言うでもなく語った。それは、人にも動物にも神々や魔物にでさえも、万物に対し常にニュートラルに接する事が出来る、実に魔術師らしいものだった。

 平和な時に魔術師と出会い、今の様な講釈を聞いたなら、感銘を受けていたかもしれない。だが、目の前に迫る現実は、喰われるか否かの崖っぷちである。頭では理解できても、敬意を払う余裕は、ハワラを含めそこにいる面々にはなかった。

 不安に押しつぶされそうなハワラに、カエムワセトは「大丈夫。君は助けるよ」と言明した。


「退治とまではいかなくとも、退ける程度なら可能だと思う。使い魔クラスの魔物なのであれば何とかなるんじゃないかな」


 そこまで言ってから、どうだろう、アーデス。と、カエムワセトは戦歴豊富な近臣に可否を伺った。

 アーデスは腕を組むと、難しい顔で唸る。


「なんともな。何しろ俺らは生身の人間だし、対魔戦は初めてだ。こいつはあてになんねーだろうし」


 そう言って、床の一点を凝視してピクともしない重要戦力を親指で指し示した。

 名指しされたわけではなかったが、誹謗の気配を感じ取ったライラは、眠りから覚めたようにハッと顔を上げ、ふんぞり返った。


「失礼ね。気持ちを強く持ってれば平気よ!――多分!」


 放心状態だと思っていたが、一応話を聞いてはいたようだ。最後に添えた一言に、なけなしの本心が伺えた。

 肩をすくめたアーデスは続いて、壁際の花になっている元盗賊二名に目をやった。


「お前らはどうだ?やれそうか?」


「は?」

「オイラ達っすか?」


 藪から棒に話をふられ、ジェトとカカルは面食らった。

 質問の意図が全く理解できない二人に、カエムワセトが「あっ」と声を上げた。続けて申し訳なさそうに、「すまない。説明がまだだった」と謝罪する。

 そして彼は、ジェトとカカルには頼みがあってここに加わってもらったのだと話した。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・


「頼みって、なんすか」


 王族なら命令さえすればいいものを、わざわざ依頼という形を取るのは何故か。

 カエムワセトの人となりをまだ理解しきれていないジェトは、大いに警戒した。そして、先程の話の流れに続くアーデスからの質問で、厄介な仕事には違いなかろうと、心づもりをする。

 だが、実際に告げられたカエムワセトからの依頼内容は実に曖昧なものだった。


「話を聞いて理解してくれたと思うが、私も経験した事のない事態なんだ。危険に巻き込んで申し訳ないが、手を貸してほしい」


 ジェトは眉を寄せた。


 助けるとは、具体的に何をしろというのか。

 そもそも、多くの従者に侍られ、顎で簡単に人を使える王族が、両手を縛らている罪人相手にどんな助力を求めたいというのか。


 物心ついた時から縦社会の色が強い盗賊団に属し、仕事の際には細かく役割をふられていたジェトは戸惑った。

 だがそこは、思考の柔軟なカカルがいち早くカエムワセトの言葉を解釈する。


「オイラ達に、蛇のオバケと闘えってのぉ?」


 いくら死刑確定の囚人だからって、そりゃ酷いんじゃありません?


 泣き声を出して物申すカカルに、カエムワセトは「そうじゃない」と首を横に振った。先陣切って闘えと言っている訳ではなく、あくまで手助けを求めているのだと言明する。

 更にカエムワセトは、仕事が無事に終わった暁には、自由の身を約束した。


 しかし、自分の身の上に少なからずの劣等感を抱いているジェトは、自分達にカエムワセトが助力を願うだけの価値があるとは信じられなかった。


「だからって、なんで俺らなんすか。犯罪者すよ。さっきの番人に頼んだ方がまだマシなんじゃないすか?」


 何か裏があるのではないかと疑いを隠さないジェトに、カエムワセトが言う。


「言ったはずだよ。君は信用できる目をしている」


 そういえば、昨晩この男はそんな事を言っていた、とジェトは思い出した。だがジェトにしてみれば、カエムワセトの見たては甚だ疑問だった。


「そうスか?しょっちゅう目つきが気に入らねえって難癖つけられますけど?」


 大体、目を見ただけで人の性格が分るというのが疑わしい。嘘が苦手だという指摘は的中していたが、ジェトは、あれは口から出まかせだと思っていた。


「あなたの目、素敵だよ。浮いてもないし暴れてもいない。落ちるべきところにきちんと落ちていて、奥底が強いんだよ」


 突然、リラが奇奇怪怪な言い回しでジェトの目を褒めてきた。理解不能な詳細は置いておいて、これまで女の子に褒められた経験が無かったジェトは、顔を赤くして俯く。


 初めて可愛げのある反応を見せたジェトに、アーデスが「若いってのはいいねぇ」と、からかった。ライラまでが、ニヤニヤと癪に触る笑みを浮かべている。

 ジェトは照れ隠しと苦し紛れに、隣に立っていたカカルの腹を肘で殴った。ジェトの肘が腹にめり込んだ瞬間、カカルの口から「ぐほっ」と鈍い音が出た。完全にとばっちりである。

 カカルはその場にうずくまると「なにするんすか・・・!」と呻いた。だが、ジェトはそれを完全に無視して、不思議なまでに自分に高い評価を与える王子に顔を向けた。


「んな事言ったってね、俺は盗賊っすよ」


「望んでなったわけもないだろう?仲間からは浮いていたし、ずっと足を洗う機会を伺っていたはずだ」


 カエムワセトはずばり言い当てた。


 ジェトは口をあんぐり開けて数秒間静止した後、ぶるっと大きく身震いした。身を縮込ませ、「・・・・あんた何者?」と恐れを帯びた眼差しでカエムワセトを見る。


「自分で言うのもなんだけれど、人を見る目には自信があるんだ」


 予想以上の反応を見せたジェトに、カエムワセトは照れ臭そうに笑った。そして、交渉に戻る。


「勿論、強制はしない。私の保護下に入って手伝う他にも、牢に戻る選択枝がある」


「釈放して逃がしてくれるってのは?」


 カカルが甘えた声で言う。腹の痛みは回復したようだった。

 カエムワセトは微笑んで、「悪いけれど、私はそこまで甘くない」と却下した。条件を満たさず釈放するのは、ただ軽薄なだけである。

 優しそうな人格を思わせる微笑に対し、言いきった言葉が容赦なく恐かった。


「オイラ達、殺すには惜しい逸材っすよ!」


 ふっきれた顔で、カカルがカエムワセトに従う意志を表明した。


「・・・盗んでこいって命令なら、何なりと。鍵も開けれますよ。魔術はさっぱりなんで、魔法がかりのヤツは無理ですが、普通のやつなら全種類オッケーです」


 ジェトも諦め、遅ればせながらアーデスの質問に対する回答を述べる形で仲間入りを宣言した。

 カエムワセトがほっとした様子で、「ありがとう」と礼を述べた。緊張が解けたからか、いくらか雰囲気が若くなる。

 そしてカエムワセトは椅子から立ち上がり、ジェトとカカルに歩み寄ると、腰の短剣を抜いて二人の縄を切った。


「窮屈な思いをさせてすまなかった。これからよろしく頼む」


 まさか今生で王族から礼を言われると思っていなかったジェトは、続けざまに謝罪までされて「ああいえべつに」と、まごついた。やはりこの王子は、育ちの良さは余るほど感じさせる割に、王族としてはあり得ないほど腰が低い。


「と、なると、頼りはこのお嬢ちゃんだけか・・・」


 さっそく、戦力に元盗賊二名を加えて考えたアーデスだったが、やはり対魔戦には直接使えなさそうだと判断する。

 好奇以上に心配する眼差しが、寝台に腰かけている小柄な少女に集中した。仲間達から注目されたリラは、全く動じない様子でにこりと笑う。


「使い魔なら性質は同じ。昼間は襲ってこないよ。勝負は夜になりそうだね」


 ピクニックの予定を確かめるような調子で決戦日時を予想した。

 ハワラが何度も頷きながら、リラの予想を裏付ける証言をする。


「奴が話しかけてくるのは、いつも夜でした。しかも、皆が寝静まって真っ暗闇になる深夜です」


 昨夜は何となく気配は感じたものの、接触はしてこなかったらしい。

 警戒しているのかもしれないし、ただ、機会を伺っているだけなのかもしれない。だが何にしても、相手の力量が分らない限りは、魔術師の少女一人に頼るのは危険すぎると判断したカエムワセト達は、神殿の魔法書を調べて、魔術に疎い者でも可能な応戦方法を模索する事にした。

 メルエンプタハは念のため、イシスネフェルトや乳母と一緒に、より安全な場所に逃がす事にする。

 どこに逃がすのか聞いてきたアーデスに、カエムワセトは「多分、この国で最も安全な場所」だと意味深に笑った。


 メルエンプタハの避難は後に回し、ひとまずはプタハ神殿に行こうとカエムワセトが言うと、アーデスがうな垂れた。


「やっぱ行く事になるのか。あのジジイ、俺はちと苦手なんだがな」


 主人の上司であるプタハ神殿の大御所をジジイ呼ばわりして嫌がるアーデスに、カエムワセトは苦笑って控えめに窘める。


「フイ最高司祭は厳しいけれど話の分らない人ではないよ。きっと力になってくれるはずだ」


「そういば、俺が以前盗掘したお宝に魔法書っぽいパピルスがあったんすけど。何か役に立つかも。アジトに隠してあんすけど、持って来ましょうか」


 不意に思いだしたジェトが申し出た。


「なにそのお宝って。信用できるの?」


 疑い深いライラに、ジェトはムッとする。


「知るかよ。神官文字で俺には意味不明なんだから。でも王子なら読めるっしょ?」


 話の流れから、カエムワセトが神殿と親しく魔術にも詳しいと踏んだジェトは、神官文字も当然読めると判断していた。だが、カエムワセトの「神官だから、おそらくは」という返事を聞いた途端、青ざめる。


「あの、王子。昨日はその・・・」


 神官であるカエムワセトの前で神官を散々コケ下ろした事を思い出し、ジェトはしどろもどろになった。

 察したカエムワセトは「気にしなくていい。君の言う事ももっともだと思うよ」と弁護した。そして、これから頼るプタハ神殿のフイ最高司祭は、ジェトの嫌う神官とは少しタイプが異なるから安心するようにも伝える。


「ただまあなんていうか、怒りっぽいだけなんだ」


 最後にそう付け加えたカエムワセトの顔は、少し楽しそうだった。


「言ってやれよ、『老害』だって」


 『老害』にあたるフイ最高司祭との苦いエピソードを思い出したのか、遠くを見るアーデスの目は、カエムワセトとは対照的に、沈んでいた。

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