第5話 この世のことは大体この世で解決できる

 曽田家―飴村が山を下って三十分後。

 ダイニングには曽田家在住の全員が集まっていた。茉希はそこで居心地が悪く座っている。

 各々が自由に過ごしており、もう自分の部屋に留まる者はいない。ダイニングを歩き回る者、雑談を交わす者、黙って紅茶を啜る者、それぞれだった。しかし、その都度、視線が茉希に向けられる。茉希が居心地悪く感じる原因だった。

 飴村がバイクで飛び出して行ってから三十分経過した。

 警察に連絡を入れると言った飴村は戻ってこなかった。

 片桐や石田は、やはり飴村が犯人だったのだと息巻いていたが、今は落ち着いているようだった。犯人の片割れとして茉希が留まっていることで溜飲を下げたのかもしれない。

「警察は遅いですね。どこにも連絡してないんじゃないかな?自分が捕まるから」

 石田の最後の台詞は嘲笑と共に発せられた。

「そうね…。諸角、お願いできる?」

 アリアの言葉に諸角は頭を下げて沈黙の了解を示す。

 目前の手つかずのカップに視線を落とす。誰の顔も見ていられなかった。

 じっとカップに注がれた紅茶の液面を見つめていると、緩やかに揺れているのがわかる。茉希の身体に揺れは感じない。つまり、テーブルが揺れているのである。

 横に視線を移すと震源が分かった。東野である。

 その足元は小刻みに震えている。つまり貧乏ゆすりである。

 こちらを見てはいないが、心情が体に出ているということだろう。普段、彼が貧乏ゆすりをしているところを見たことはなかった。

 普段の茉希であれば、それすら見過ごすこともなく、気にかけていただろうが、今はそこに気が回っていない。頭の中は、飴村の話がリフレインされていた。

 飴村に仕事を依頼した自分が、その相手からお願いをされた形になった。まさかこんなことになるとは思わなかった。

 塗師は入り口に近い所に陣取り、腕を組んで目を閉じていたが、ふと思い立ったように席を立つとダイニングから出て行った。

 アリアといくつか言葉を交わした諸角が部屋を出ようとしたところで外からサイレンが聞こえてきた。

「いらっしゃいましたね」

 諸角が庭園の方を見て言った。

 警察車両は律儀に壊れた門の外で停車していた。

 応対に出た諸角は、スーツ姿の刑事と制服警官を引きつれて戻ってきた。

 諸角は来客が来た時と同じような対応をしたが、困惑した顔だった。

 ダイニングにはスーツ姿の刑事五人と、制服警官が四人入ってきて、急に人口密度が上がった。

 ダイニングの外が騒がしいことから、これ以上の人数がいるのだろう。

 恐らく責任者だろうと思われる白髪交じりの刑事が指示を出すと、制服警官は二名を残して外に出て行った。そしてスーツ姿の刑事三人もそれに続いて出て行った。

 ダイニングに残ったのは、責任者らしき年配の刑事と天然パーマの刑事二人だった。

 笹倉と寿と名乗った二人の刑事は、全員から事情聴取をすると伝えた。

 塗師がいなかったが誰もその事を指摘しなかった。

 まるでそんな人物がいなかったかのように。

 しかしそんなこと茉希にはどうでも良いことだった。それよりも全員が飴村と茉希が犯人であるという話を語っていたからである。

 二人の刑事がそれを真に受けてしまったらどうしようかと考えたが、二人共その点については何も言及しなかった。

 寿という刑事は、適切な捜査をして犯人を捕まえる、とだけ言って淡々と話を聞いていた。

 最後に茉希の順番が回ってきた。

「えっと…最後はあなたですね。お名前からお願いします」

 責任者の刑事、笹倉がゆっくりとした口調で尋ねる。人当たりの良い顔はこの仕事をする上で有利だろう。

「はい。曽田茉希と言います」

「曽田アリアさんの娘さん、ということでしょうか?」

 天然パーマの刑事、寿が尋ねる。笹倉よりも若いからか、やる気のようなものが前面に出ている。

「そうです」

 寿は手帳にメモをしている。他の住人の時も同じようにメモを取っていた。

「他の皆さんはあなたのことを疑っているようですが」

 笹倉は目で周囲を見渡した。むしろ、牽制しているかのようだった。

「気にしないでくださいね。疑わしいのは全員同じですし、まだ外部犯の可能性もありますから」

 この人達であれば、自分の話を聞いてくれるかもしれない、茉希は二人の刑事を信用することにした。

「あの…話を聞いてもらえますか?」

 自分でも声に力が入っていた。アリアを含めて全員が自分に注目しているのが分かった。

 しかし、話始めると不思議に緊張しなくなった。

 茉希の頭の中で飴村の声が再生される。



「お雨が乗っている電動自転車ってやつは楽するためにあるんだろう?」

 K&Tコンサルタント事務所、日曜の夕方である。飴村は自席に着席して上月に演説している。

 話題は、上月が日常的に使っている、つまり通勤に使っている電動自転車についてだった。

「電動自転車っていいますけれど、電動アシスト付き自転車ですからね。あくまでアシスト。バイクみたいに座っているだけで勝手に動いてくれるわけじゃないんです。ちゃんと漕ぎますから疲れます」

 上月は入り口の脇にある給湯室でコーヒーを淹れている。飴村は外から帰ってきたばかりだった。

「だから、所謂、電動自転車っていう乗り物は、不必要な力を使わなくても良くなる自転車なんです」

 口調は厳しかったが、飴村の前にコーヒーが入ったカップを置く仕草は丁寧だった。

 曽田家から脱出した飴村は、そのまま上月の自宅に上がり込んだ。昼まで二人で過ごした後、警察から飴村に連絡が入ったのが昼過ぎである。そのまま身支度を済ませて飴村はC県警に出向いた。

 終わったら事務所に行くことを伝えていたので、上月も日曜ではあるが事務所に出てきていた。特に仕事もないため、ネットなどをして待っていたようだった。

 昨日も休日出勤だから手当を出すように、という上月の主張を疲労感を貼りつけた顔で頷くと、飴村は自分の席でため息を吐く。

 何か上月に言い返してやろうと、どうでも良い会話を持ち上げて、突っかかった結果が電動自転車の話だった。それも惨敗に終わる。刺々しくなってしまった心の回復には時間が掛かるのかもしれない。

 警察からの連絡は想像通りのものだった。つまり曽田家で起こった殺人事件の話である。担当の刑事は天然パーマの若い刑事で、名前を寿と言った。珍しい名前ですね、と言ったら、無表情で言われ慣れていますよ、と言った。

 その反動かは分からないが、まずこっぴどく叱られた。

 それから、曽田家で起こったことを、飴村の知る限り正確に答えた。

 いくつかの質疑応答で内容を確認して、寿刑事から帰宅を許された。いつでも連絡のつくところにいて欲しいと言われたので事務所にいるわけである。

 なにより驚いたのは、飴村の車も引き取られていたということである。現在は修理に出されていて、修理が終わった段階で飴村の携帯に連絡がくるようになっており費用もこちら持ちである、とのことだった。もちろん調べられたのだろうが、至れり尽くせりな対応だなと思った。

「腹減ったなぁ…」

 上月の家で簡単に食べたが、昼食はまだだった。

「昼食じゃなくて夜ご飯になりますけど、出前取りますか?何か食べたいものありますか?」

「優しいね。珍しい」

 上月は無視するようにマウスをクリックする。

「ハンバーガで良いよ」

「で?」

「ハンバーガ、が、良いかな」

 上月は一瞥すると、キーボードを叩く。最近はネットからでもファストフードを注文できる。上月がそれ以上何も言わないのは、飴村が何を頼むのか、把握しているからである。

 クリック音と、キーボードを叩く音が交互した後、上月はカップを持って立ち上がった。

 中央にある来客用のソファとテーブルに近づいてカップをテーブルに置いた。

 直ちに入り口の方に向かうと、窓際にある真っ白なホワイトボードをテーブルの脇に引っ張ってきた。

「何してるの?」

 上月は答えずに位置を調整すると、脇の金具を外してホワイトボードを回転させた。

 そこには、曽田家の居候まで含めた関係者の名前が書き連ねてあった。

「さあ、話してもらいますよ」

「え?」

「ベッドの中では何も教えてくれなかったですよね?それどころじゃなかったっていうのは良く判りますけれど」

「あ…まあ、うん」

「さあ」

「お前ってこういうの好きなの?」

「中途半端が嫌いなだけです」

 上月は事件の話をしろと言っていた。

 これは飴村自身のせいでもある。

 昨夜、上月の家についてから気が付いたが、肌が露出している部分には切り傷があった。上月に手当をしてもらいながら、自然に曽田家での話になった。

 あそこで何が起こっていたのか、殺人があったことだけは上月も知っていたが、それ以外の事は何も知らないのである。

 だから飴村も一通り説明を始めた。しかし、安堵感からか、説明の途中で飴村は寝てしまった。

 上月にとってみればお預けの状態が続いているのだろう。起きてから話を聞こうと思ったら警察に呼ばれてこの時間まで我慢していたのである。

「ニュースとかでやるんじゃない?」

「待ってられっか!」

 飴村は両掌を上月に差し出して宥めるように、分かった分かった、と言った。

「それにしても、いつの間にそんなもの用意したんだ…」

「所長が警察署に行っていたので時間はたっぷりありましたから」

 そもそも日曜日に、仕事もないのに出勤しているのだから、こちらは何も言えない。

「わざわざ裏返しておいたところに、上月の遊び心を感じる…」

「私の心理状況の分析にまだ時間かけますか?」

 今から話すよ、と飴村は言うと、カップを持ってソファの方に移動する。

 革が軋む音を聴きながらホワイトボードに目を移す。

 曽田家のメンバーの名前がカタカナで記載されている。曽田だけ漢字表記だったことから、音だけを聞いていた上月には使用される漢字がわからなかったのだろう。曽田家のメンバーの名前を、しかも姓名を、恐らく一度しか説明していなかったのに記憶していることに驚いていた。

 ホワイトボードの名前は長倉、小峰、根来川の上に赤いバツ印が書かれていた。殺害された、という意味である。

「さて、じゃあ説明してください」

「いや、そう言われてもな…」

「誰が三人を殺害したのですか?」

 飴村を追い立てるように上月が詰め寄る。

「えっと…落ち着いて。順番にしよう。そうしよう。ね」

 テーブルの上に乗ってしまっている上月をソファに戻す。

「その前に、ちょっと直して良いか」

 飴村はホワイトボードの前に立つと、書かれている曽田家のメンバーの名前を漢字表記に直した。

「それ必要でしたか?」

「雰囲気の問題だよ」

 飴村がソファに座ると、交代で上月が立った。

「では、長倉さんの殺害からですね」

 上月がホワイトボードの前に立つとまるで教師のように見える。

「長倉さんは、曽田家所有の水力発電施設、通称発電室、でしたっけ?そこで身体をバラバラにされて発見されました。さらに切断された部位を鋼線で繋がれていた」

 上月は長倉の名前の下にバラバラ殺人、と書いた。

「繋がれた部位は星型だったんですよね?」

「ああ。そうだよ。胴体を中心に五芒星の各頂点に切断された部位があるイメージかな」

 上月は頷くと、バラバラ殺人の下に五芒星のマークを描いた。

「長倉さんが殺されたとみられる時間は…午後〇時半分から遺体発見の午後十四時半。それで所長は午前十一時から午後十三時まで発電室にいた」

 上月は飴村を振り返る。

「そりゃ、俺が疑われるっていうのも分かるよな」

「まあ…一番わかりやすいですよね。やっぱり殺っちゃいました?」

「もうやめて」

 上月は悪戯な笑顔を見せる。本心から思っているわけではないということである。

「では。まず、どうやって長倉さんの身体を切断したのか、ですね。刃物は見当たらなかったのですよね?」

「そうだね」

「じゃあ、どうやって切断したのだと考えているんですか?」

「ん?ピアノ線だよ」

「ピアノ線?板尾さんが言っているような?」

「そう。だってそれ以外に簡単な方法は無いからね」

「え…でも…」

「別にあの人が言ったことが全て間違いではないよ。俺はピアノ線を使った方法が適切だと思う」

「どうしてです?」

「犯人は女性だからだよ。女性の力で人体を切断しようとするのは重労働だ。自分以外の力を利用しようと考えるのは自然だと思うけれどね」

 上月と目が合う。目線をホワイトボードに戻した上月は食い入るように名前を見つめている。

「じゃあ…アリアさん?いや、茉希さんっていう線もあるか…」

 どっちですか、と尋ねる上月に飴村は首を振った。

「え?でも他に女性は…え?嘘…」

 再び上月と目が合う。

「うん。長倉を殺害したのは、小峰さんだよ」

 何も言わず、分かりやすく狼狽える上月に飴村は続ける。

「長倉さんは、小峰さんに呼び出されて発電室まで来た。後から来たか、どこかに隠れていたかは分からないけれど、ちょうど俺は発電室内を調査していたんだ。調査は外観から始めたからね」

「所長が発電室内で調査している最中に、外で殺害したと?」

「そう言うことだね。身体をバラバラにしてから、発電室内でつなぎ合わせようとしていたところで中に俺がいるのに気が付いた。窓から中を覗いたんだろうな」

 カップを持ち上げてコーヒーを一口飲む。

「諸角さんが持ってきた昼食の皿を俺が下げに行く時に、発電室に入り込んで遺体に細工した。それが長倉さん殺害の真相だよ」

「どうして、そう考えたのですか?」

「単純に消去法だな。生きている人間の中で長倉さんを殺害できた人物がいなかったっていうだけ。だとしたら死んでしまった人間も候補に入れる必要がある」

 上月は頷いている。

「死体発見の時、つまり俺や板尾が二回目に発電室に向かった時に工房の方から小峰さんが出てきたのは、着替えやシャワーのためだろうね」

「殺害してから工房に戻るまでに誰にも会わなかったのは小峰さんにとってはラッキーでしたね」

「発電室には茉希以外近づくような人間もいなかったんだろうな。気を付けるのは林道の入り口ぐらいだろうし。あ、そうか、レインコートくらい用意しておけばいいんだな。後は川に捨ててしまえば良かった」

「ちょっと…まだ分かってないんですが…小峰さんはなぜ長倉さんを殺害しなければいけないのでしょうか?」

「どちらとも死んでいるからね。何とも言えない」

「例えば…小峰さんが男性恐怖症、というか暴力を受けていた男性が実は長倉さんだったとか…どうですか?たまたま仕事で訪れた屋敷で、過去の女と出会う。その女からの呼び出しに応じてみれば…って話になりますよ」

 上月は嬉々としている。こういう話が好きなのだろうかと飴村は考える。

「極めて都合のよい解釈だけれど、それで上月が納得するのならば、それで良いんじゃないかな」

「なんか突き放されてる…」

 気にするな、と言うと頬を膨らませる。

 上月はホワイトボードの小峰から矢印を伸ばして長倉に矢の先端を向けた。その上に殺害と書いた。

 ホワイトボード用のマーカで腰を叩きながらじっと関係者の名前を眺める。

「…まさか…」

 振り返った上月の目は、そんなことないですよね、という表情だった。

「そう。小峰さんを殺害したのは根来川さんだ」

「はあ…。連続じゃなくて…何殺人?」

「ただの殺人事件だよ」

 上月は憮然とした表情をしたが、感情よりも疑問の方が勝ったようだった。

「ちょっと待ってください。小峰さんの場合はちょっと不可能に近いんじゃないですか?」

 上月はソファに座って前のめりになる。

「というと?」

「曽田家の邸宅の方は正面玄関に執事さん…えっと諸角さんがいて、裏手の工房に行くためのドアには茉希さんが立っていたんでしょう?」

「その通りだ」

「しかも、茉希さんは工房の入り口を見ていた。小峰さんから話を聞こうとしていたからすれ違いになってしまったら困るから。でしたよね?」

 飴村は頷く。

「同じ目的で諸角さんも正面玄関付近に立っていた。ほら。どうやって小峰さんのいる工房に行けるんですか?」

「上月、俺が話したこの時の状況、覚えているか?」

 上月はホワイトボードを見ながら思い出すように呟く。

「えっと…板尾さんと…片桐さんの所に話をしに行ったんでしたっけ?」

「そう。そこらへんのタイミングだけれど、茉希と俺で小峰さんのいる工房に行こうとしたんだよ。一階に降りたところで、根来川さんの部屋に向かっていた板尾と出会ったんだ」

「そうでしたよね。それで茉希さんが怒って…嫉妬にしておきますか。嫉妬してダイニングに行っちゃった」

「いや、茉希の感情はどちらでも良いし、この際問題ない」

 まあまあ、と口に手を当ててニヤニヤする上月は飴村を無視して続ける。

「で、所長と板尾さんが片桐さんの部屋から出てきたところで大階段を挟んで茉希さんと諸角さんが立っているのを発見した…ってことですよね?」

「その通り。分かってるじゃん」

「それで…どうしたんですか?」

「つまりな。俺と板尾が片桐さんの部屋に入ってしばらくは、茉希と諸角さんはダイニングにいたっていうことだ。茉希がお茶している時には諸角さんも給仕する必要があるから一緒に入っていただろうからね」

「つまり、大階段のある空間が誰もいない時間帯があったっていうことですね」

「正確には、茉希と諸角、俺と板尾の四人がいなかった時間帯があったっていうことだよ。その時間帯であれば工房へ自由に行くことができたっていうこと」

 はあ、と上月は溜息のような返事をした。

「その間に工房に向かった根来川さんは、小峰さんを殺害した。遺体は良く調べていなかったからわからないけれど、多分突き飛ばしたか何かで気を失っている間に両手を切断したんだね」

「切断はどうやったんですか?」

「工房には工具が置いてあるし、庭師の片桐さんの仕事道具もある。手首くらいは切断できそうなもんだよ」

「…ということは、手首を切断したのは出血多量で殺害するため?」

「そうだろうな。他に何かあるか?」

「いや、手首を切断したのは他に意味があるんじゃないかなって」

「お前、そういう推理小説好きだろう?」

「好き…まあ、好きではありますけど…」

「そんな小説を読んでいるから、そういった方向で物事考えてしまうんだよ。そんなこと現実に起こるわけじゃないから。でも、今回の状況は小説みたいだよな」

「え?じゃあどうやって根来川さんは工房から出たんですか?」

「俺が工房に向かう時の話を覚えているか?」

 上月は頷く。

「邸宅から工房を見た時に右手の部分、小峰さんの発見されたシャワー室がある方だな。そちらは電気が消えていて真っ暗だった」

 上月は思い出すように頷く。

「根来川さんはそこの窓から邸宅の裏口を見ていたんだよ」

「へ?」

 飴村はカップのコーヒーを一口飲む。

「邸宅は電気が点いていた。工房の方は電気が点いていなかった。つまり邸宅から工房の中を覗くことは難しいが逆は良く見えるってことだ。根来川さんは工房の中から邸宅の方を見て、ドア越しに人がいることに気が付いた。茉希だと分かったかもしれないな。しばらく見ていたら、茉希がドアの傍を離れたことを確認して、すぐに工房から出た」

「茉希さんもずっと見ていたわけじゃないって言っていましたね…」

「ああ。だから根来川さんは工房を出ることができた。その時も、電気の点いていない方の東側から回って邸宅に戻ったんだな」

「でも邸宅の正面には諸角さんはどうするんですか?根来川さんにはそこに諸角さんがいるとはわからないはずですよね?」

「根来川さんの計画としては東側一階の窓から南東の廊下に入ろうとしていたんだと思う。その計画の通りに東側の壁まで来た時にその窓から廊下の先に諸角さんがいるのが見えたんだ」

 上月は板尾と飴村が片桐の部屋から出た後に諸角を見かけていることを思い出した。

「つまり、そこで待っていて所長たちが工房に入って行ったのを見かけて、それで諸角さんも正面玄関を離れたから堂々と正面から入った、と?」

「そうだと思う」

「うーん…。根来川さんはなぜ所長たちが工房に行くってことを知っていたんですかね?」

「板尾だろうな。あいつも小峰さんのところに行こうとしていたのだと思う。あいつ一人で根来川さんのところに話を聞きに行った時、それを話したんだ。だから最初はあいつだけを目撃者にしようとしていたんだろう」

「でも所長を見つけた板尾さんは片桐さんの方に話を聞きに行こうとしてましたよね?」

「すぐに工房に行ってもらっては困るからだよ」

「ああ。そうか」

「小峰さんのところに行く前に片桐さんのところに行った方が良いって吹き込んだんだね。もうあの人寝るから、とか言って。でも板尾は苦手だったからどうしようかと思っていたところに…」

「都合のよい人間がいた、と」

「否定はしないが、良い気分じゃないな」

 飴村が笑っていると、上月が静かである。上月は納得できていない顔をしていた。

「どうした?」

「いや…だとしたら小峰さんを殺害できる人は他にもいるんじゃないかなぁって」

「そうだな。東野さんや鰻さん、石田さんもそうなるな」

 あっさりと飴村が認めたので、上月も間の抜けた顔になった。いつも見ない顔が今日は何度も見ることになって飴村は不思議な感覚になった。

「じゃあ、なんで根来川さんだって言い切れるんですか?」

 事務所の入り口のチャイムが鳴った。デリバリーが到着したらしい。一旦、中断して上月が受け取りと支払いを済ませると、二人はソファで遅い昼食、早い夕飯を摂った。

「久しぶりに食べる気がします」

 飴村がフライドポテトを三本まとめて口に運ぶと同時に上月は呟く。

 上月はコーラの入った、ファストフード店のロゴの入ったカップを片手に持ち、フライドポテトを口に運んだ。

「若い時は良く食べてた気がするな」

「まだ所長も若いですけどね」

 それで、と上月は続ける。

「どうして根来川さんだって言い切れるんですか?」

「うん。それは根来川さんが殺されたからだよ」

「どういうことです?」

 上月はすでに食事を終えていた。ハンバーガ一つ、ポテト一つ、コーラをすでに平らげたことになる。

「早いね、食べるの…。まあ良いや。小峰さんは長倉さんを殺害した。その小峰さんが殺害された。そして次に根来川さんが殺害されている」

「はい」

「つまりね。ひとつ前の犯人が次の被害者っていうことなんだよ」

「その…関係性がまだ見えないというか…他の可能性もあると思うんですけれど、それでも根来川さんなのですか?」

「実際に根来川さんが殺されていること、そして前後の状況から彼しか殺害できない」

 言い切る飴村に対して、懐疑的な上月は首を傾げる。しかし、それを無視するように飴村は続ける。

「根来川さんは、自室で燃やされていた。気絶させられた後に燃やされたんだ。俺や茉希は軟禁させられていたから、その時に他の住人がどう動いていたか、良く判らない」

 食べながら会話をしていたが、やっと飴村も食べ終えた。

「かなり燃やされていたんですか?」

「いや、塗師さんの写真を見る限りは、突っ伏して死んでいた根来川さんのその周囲くらいだった」

「よく燃え広がりませんでしたね」

「奇跡だよな。古い家だからすぐに燃え広がりそうなものだけど」

「気を失っていた時に火をつけられたっていうことですよね?その後に小峰さんと同じように両手を切断されて…凶器は?」

 上月はそこまで言うと、飴村に先を促すように視線を送る。

「根来川さんは凶器を持ち去っていたんだろうね。そうなるとそこまで大きい刃物ではなかったってことになるだろう?」

 ゆっくりと頷く上月はさらに続ける。

「あの、長倉さんと比べると、小峰さんも根来川さんも切断されたのは両手の部分だけですよね?長倉さんだけはなぜ身体全部を切断したんですかね?」

「時間的な問題じゃないかな。発電室に比べれば邸宅の敷地内で切断を行うっていうのは人目につきやすい。それでも切断する必要があったのは、身体を切断する犯人像っていうのを印象付けたかったんだよ」

 飴村はゆっくりとソファに背中を預けた。窓から日光はすっかり消え、代わりに事務所の照明が主張している空間になっていた。

「まあ、だいたいこんな感じかな。茉希にはもう少し詳しく話しているけれど」

「ちょっと待って下さい。なんかもう終わりみたいな空気になっていますけれど?」

「ん?他に話すことある?」

「根来川さんは誰に殺害されたんですか?」

「わからん。俺軟禁されていたし」

「写真とか話とかから何か分かったんじゃないですか?」

「話なんかできる状況じゃなかったって話ただろう?それと現場写真を見たくらいで犯人までわかるくらいに達観しているならば、こんな仕事してないよ」

「じゃあ…電話の破壊と保安器の件は?」

「ああ、それか。あ、これ茉希に言い忘れたな…。まあ、大丈夫か。保安器は小峰さんが取り外して持って行った。電話機は諸角さんが履かしたんだ」

「何故諸角さんが?」

「小峰さんが保安器を持って行ったのは、警察への連絡をさせないため。諸角さんはも同じ理由だが、目的は違う。小峰さんは罪から逃れるために、諸角さんは曽田家を守ろうとするためだ」

「小峰さんはいつ保安器を取り外したんですか?」

「俺が初めて見かけた後だ。工房から出てきてその後。邸宅の二階、南西側の廊下の先にある窓から外したんだな」

 上月の前髪が額に張り付いている。

 汗ばんでいるのだろうか。

「諸角さんが電話機を破壊できたのは…」

「長倉さんが殺害されたことが分かって、ダイニングの話し合いの最中、アリアさんが電話をしてこいって言った時だ」

 両手を組んで考えている上月の視線はホワイトボードに向かっていた。

「さあ、質問受け付けますよ」

 暫く黙っていた上月だったが、飴村の方に顔を向けると真剣な目になり、口を開く。

「お二人の切断された両手はどこにあるんですか?」

「わからない。警察に探してもらうしかないな。でも、俺の予想だと川に流したんだと思う。見つからないところに隠すのであれば、だけれどね」

 納得をしたのか、上月は頷くと黙って考えていた。

 飴村は立ち上がり、上月の分までゴミをまとめて廃棄すると、コーヒーを淹れ直した。

「だけど…茉希さんにも同じ話をしたんですよね?」

 戻ってくるのを見計らうかのように上月は尋ねる。

「そうだよ」

「少なくとも根来川さんを殺害した犯人がわからなければ、意味がないのでは?」

「そうじゃない」

 上月の発言に被せるようにして否定する。

「いいか、この事件はさっきも言ったけれど、ひとつ前の犯人が次の被害者っていう構図になっている。だとしたら、根来川さんを殺害した犯人が次の被害者っていうことになるだろう?」

 口を閉じたままの上月に飴村はまだ続ける。

「ならば、あの警察のいる場で、この話をすることで次の死人が出ることを防ぐんだ。だから意味がある」

 それは、構造物が使い物になる前に修繕するという維持管理に共通の考え方だった。飴村の領域の話だと言える。その中で、何を取捨選択するか、が極めて重要になる。

 茉希に対して、上月に説明したことと同じ内容を伝えた。これから来る警察に対して何が起こったか、それを曽田家の人間として説明する必要があるのだと。

 飴村が残っていても説明は可能だったが、全く話を聞いてもらえない可能性がある。そのため、茉希が事態を収拾したほうが、スムーズに運ぶのではないかと考えた。

 飴村は窓の外を見る。真剣な目で説明を頭に入れる茉希の顔を思い出しながら。



「以上が、考えられる可能性です。だから…根来川さんを殺害した犯人を保護してください。もし次があるのならば…その人です」

 茉希は曽田家の住人たちを見渡す。説明に説得力があったのか、茉希の説明を止める者はいなかった。

 今も、声を上げて批判するようなことは起きなかった。これは茉希にとっても意外なことだった。

「しかし…保護っていうより逮捕ですよね?」

 寿が笹倉に尋ねる。

 笹倉は何も言わずに茉希以外の人間の顔を見ていた。

「茉希さん、ありがとうございます。我々にとっても考慮すべき事柄がいくつもありました。さて、みなさん、茉希さんの説明通りならば、あなた方の中に根来川氏殺害の犯人がいるということになりますが…」

 そこに別の制服警官が入ってくる。

「警部、被害者の机に乗っているカップから睡眠薬が検出されました」

 刑事二人だけではなく、その場の全員が警官に注目する。

「本当か」

「鑑識の結果です。今、呼びます」

 警官がダイニングを出る瞬間。

 椅子が倒れる音がしたと思ったら、ダイニングを飛び出して行く人物がいた。

「おい、待て!」

 寿が叫ぶが玄関のドアが空けられる音も聞こえた。

「くそ」

 寿は手帳を投げ捨てるようにして飛び出して行く。笹倉も後に続いた。諸角がそれに続く。茉希も走り出していた。

 ダイニングの外に出ると、邸宅に残っていた警察官が玄関から次々に飛び出して行くところだった。

 茉希もそれに続こうとすると後方から呼び止められる。

「茉希、待ちなさい」

 幼いころから呼ばれている母の声である。

 茉希は振り向くが、何も言わずに靴を履いて飛び出して行く。

 庭園や工房を調べていた警察官たちが、走っているのが見える。

 行き先は、発電室である。茉希も駆け出す。

 何度も行き来した道。

 こういう時に、なぜか林道の木々が生きている生物であるかのように思える。自分や警察官たちを飲み込んでいるかのようだった。

 後ろから走ってくる警察官に抜かれながらも、林道から折り返しの坂道、そして。

 見晴らしがよくなった高台。

 普段は茉希一人がいるくらいの、見晴らしが良い空間だったはずだが、今は警察官の密度が多くなっている。制服警官が圧倒的に多く、その中に三人ほどスーツ姿の警察官がいるのが見えた。

 彼らは大きく広がってその人物を囲むように追い詰めていた。

 どちらも、誰も声を上げる者はいなかった。離れている茉希からは、警官たちがゆっくりとその人物に集約されていくかのような動きを見せる。

 警官たちの群れの最後尾に諸角の姿を発見する。

 茉希も静かに諸角の元へ駆け寄った。

「お嬢様…」

 茉希は一度、諸角に視線を合わせる。

 それからすぐに追い詰められている人物に戻す。

 刑事と警官たちに追い詰められたその人物は、すでに柵まで追い詰められている。

「何故逃げたんですか?説明をお願いします」

 寿刑事がゆっくりと穏やかな声で発言した。相手を落ち着かせようとしている。

 しかし。言われた相手は全く動揺した様子もなかった。

 自然体で立ち尽くしている。

 そして。

 ゆっくりと笑みを浮かべる。身体を回転させて軽々と柵を飛び越えると、躊躇なく崖に身を投げた。

 柵を飛び越えた瞬間、まるで徒競走のスターターピストルが鳴った瞬間のように、一斉に刑事たちが駆け寄る。最も近かった寿刑事が柵から身を乗り出して手を伸ばす。

 その手は、落ちてゆく身体をかすりもしなかった。

 勢いで落ちそうになる寿の身体を他の刑事たちが必死に掴み引き戻す。

「崖下に急げ。あと救急車!」

 誰が叫んだかはわからないが大勢の警察官が邸宅の方に向かって走って行った。

 残された茉希は脱力感で立っていられなくなった。

 諸角に抱えられて普段よりゆっくりと邸宅に戻ると、慌ただしく警察官が動き回っていた。携帯電話が通じなくないので、急いで山を下りているのだろう。車も少なくなっている気がした。

 ようやく足に力が入ってきたので、自分の足で歩いてダイニングに戻る。

 中にいる人間で座っている者はいなかった。しかし、今起こったことに動揺している様子はなく、冷静なように茉希には見えた。

 笹倉は制服警官と話し合っている。

 諸角は茉希を椅子に座らせると、アリアの元に向かう。アリアと諸角が会話をしているところに寿がダイニングの扉を開けて入ってくる。

 ゆっくりと笹倉の元に向かうと首を横に振った。

「被疑者は死亡です。即死だそうです」

 せめて一命は取り止めて欲しい、そう考えていた茉希の想いはあっけなく打ち砕かれた。

 茉希は顔を上げる。

 視線は空席になった椅子に向けられた。

 鰻和哉がいつも座っていた椅子は、ただそこで主を待っているかのようだった。

 このことは飴村の説に従えば、根来川を殺害したのが鰻であることを意味していた。



 日曜日らしい天気になった。昨日までの厚い雲は流れて晴れて、今は太陽がその存在を主張している。

 昼も過ぎて、曽田家を捜査していた警察も大半が引き上げた。僅かに残っているのは、まだ完全に捜査が終わっていないからである。根来川の部屋は、遺体も含めて全焼は免れているものの、遺留品の採取に手間取っていた。今朝方から残っている警察関係者は根来川の部屋に集中していた。

 諸角は邸宅の中を歩く。時折、警察の人間とすれ違うので頭を下げてその都度道を譲る。

 アリアも茉希もそして居候の住人たちも、一人を除いて全員部屋で過ごしている。K建設の二人も、すっかり疲弊していたため、部屋を一室準備し、そこで休ませるようにとアリアから申し付けられた。

 茉希は憔悴しており、諸角が部屋に連れて行った後、すぐにベッドに潜り込み、それ以降熟睡している。アリアや他の住人たちがどうしているかは把握していないが、恐らく同じような状態だと推測した。

 正面玄関から外に出る。警察官が玄関の脇にいたが、何も言われなかった。

 朝方は庭園にも警察がいて何か探していたが、今は誰もいない。

 片桐が歯痒い思いでそれを見ている光景が今朝方のダイニングで見受けられた。

 庭園を右手にゆっくりと歩みを進める。スーツを着替えたいと諸角は思っていたが、警察に邸宅のことで呼ばれるかもしれないと考え、警察が引き上げてから着替えることにした。

 林道に入ると、日差しが若干弱くなる。諸角はこの道を歩くのが好きだった。

 林道から折り返しの坂道に差し掛かる。この道も丁度良い勾配で、上り切る頃には、この季節だと丁度良く身体が暖まる。

 発電室のある高台は見晴らしが良く、そのため幸之進が生きていた時は客人を発電室の高台まで引き連れて散歩するということが好きだった。諸角も誘われて何度も共にしたことがあった。

 幸之進との思い出を振り返りながら坂を上り切って高台に足を踏み入れる。

 見える景色はいつもの通りだった。

 しかし、一点違っていたのは、鰻が飛び降りた場所に、塗師が立っていたことだった。

 茉希から警察が来る前に塗師が消えていたと言われた時、諸角はそれに気が付いていなかった。確かに塗師の姿を見かけなかった。

 諸角はゆっくりと塗師に歩み寄る。

「塗師様、こんなところにいらしたのですか。失礼ながら茉希様から言われるまで、どこにいらっしゃるのか、把握しておりませんでした」

 塗師はゆっくりと振り向く。

「ああ。諸角さん。ご苦労様です。落ち着いたのですか?」

 柔和な笑顔で受け答える。

「ええ。警察の方々も僅かには残っておりますが、今朝方の騒々しさはなくなりました」

 ああ、それは良かった、と塗師は視線を絶景に戻す。

「良い景色の場所ですよね。滞在中は何度か寄らせてもらいましたけれど、今日で最後です」

「では…もうお帰りになられるのですか?」

「ええ。しかし…鰻さんは残念でした」

 塗師の視線は崖下へと向けられていた。

「ええ。茉希様も大変悲しんでおられます」

 見晴らしが良く、晴れていることから、風が強い。諸角は乱れそうな髪を押さえつけるように手を当てた。

「しかしながら、凶事は終結を迎えました。警察もまだいますので、茉希様、アリア様も安心だと思われます」

「確か、茉希さんがこの事件を推理して解決に導いたのですよね?」

「よくご存じですね。仰る通りです」

「ええ。聞いていましたから」

 諸角は無表情だった。

「ダイニングのどこかにいらっしゃったのですか?隠れる場所は無かったように思いますが…」

「隠れるなんてそんなことしていません。盗聴していました」

「…盗、盗聴ですか?」

「ええ。隠れることはしません」

「話が…いささか矛盾している気がしますが…。そういえば、飴村様が最寄りの警察署で話をしたそうです」

「そうですか。大騒ぎで帰宅してましたからね」

「あのバイクの女性は仕事仲間でしょうかね。良くこの場所がわかりました」

「私が電話で伝えました」

 二人の間の時が止まる。

「塗師様…もう一度よろしいですか?」

「何をですか?」

「あのバイクの女性は塗師様が電話で呼んだと?」

「はい。そうです」

「山を下りていたのですか?」

「降りていませんよ。これを使ったんです」

 作務衣の懐から携帯電話を取り出すがアンテナが一般的な携帯電話と比べて太い。

「衛星電話です。これを使って連絡して来てもらいました」

「…塗師様、失礼ですが…あなたは何者ですか?」

「便利屋です。自己紹介したはずですが?」

 諸角は表情を崩した。塗師は笑っている。

「何が目的でしょうか?」

「茉希さんの推理ですが…まあ、茉希さん本人の思考の結果なのかという問題はありますが、ちょっと気になりますね…」

 諸角の発言はまた無視された。

「何がでしょうか?」

「ひとつ前の事件の犯人が次の事件の被害者になるっていう話です」

 強い風が一瞬、吹き抜けると、すぐに穏やかになった。

「どういったことでしょうか?」

「長倉さんが最初に殺害された理由がわかりません」

 間髪入れずに塗師は答える。

「遺体の切断も、彼だけが別です。他の二人に比べれば過剰なまでに切断されています」

「仰る…通りですね」

「僕はまず、こう考えました。彼はイレギュラだったのではないかと」

「殺されるはずではなかったと?」

「いえ。これは茉希さんの説明では言っていませんでしたが、二つ重要な視点が抜けています」

「と言いますと?」

「殺される人間の関係性と順番、という視点です」

 諸角は口を閉ざしたままだった。

「まず、殺される人間の関係性、という話ですが、長倉さんを除けば二人共曽田家に居候している、という共通点があります。しかし、長倉さんも殺されているということでそれが崩れてしまっている。仮に同一の犯人がいたとしたら無差別に殺害されていると言えます」

 塗師は崖から発電室へと歩き始める。雪駄で地面を踏みしめる音が響く。

「良い建物ですね。僕、こういうの好きですよ」

 笑顔で諸角に語りかけるが、諸角の表情は変わらない。

「何か…小峰さんの秘密を知ってしまっているとか?」

「それもあるかもしれませんが、僕が考えるに、そもそも小峰さんは殺してしまったかもしれませんが、遺体を切断したとは思っていません」

「しかし、茉希様の話は最善な方法だと思いますが…」

「その話は後程。まず関係性の話です。こう考えられませんか?彼が曽田家に来てしまったことで新たな関係性が追加された、ということです」

「新たな関係性…でございますか?」

「回りくどいですか?悪い癖なんです。ごめんなさい。つまりですね。本来であれば再世に殺されるのは小峰さんだったんです」

「それは…」

「だからイレギュラなんです。彼が仕事でここに来たことで、彼を最初に殺害しなくてはならなくなった」

 塗師は発電室の壁に手を当てる。

「長倉さんが殺害されたことで、曽田家の人間だけが殺されているわけではない、ということがわかりました。では、ここで殺された三人の共通項は何かに戻ります」

 それは、と塗師は言うと諸角の顔を穏やかな顔で見つめる。

「彼らは職人だからです」

 塗師の言葉以外は木の葉が揺れる音だけ響いていた。これが舞台を見ている観客であれば、まるで騒めいているかのように見えたことだろう。

「…少々理解し辛い点がございます。塗師様は殺された方たちが職人だったから殺されたのだと、こう主張されるのですね?」

「ええそうです」

 諸角の言葉をじっくり聞いてから答えた。

「…小峰様も根来川様も手に職を持っている立派な職人だと言えますが…長倉様は建設会社勤務でございます。職人気質はあるかもしれませんが、職人とは言えないのではないでしょうか?」

「正真正銘の職人だとは言えません」

「では…」

「でもいずれ職人になっています」

 諸角は目を見開く。

「彼の実家は宮大工です。そしていずれ建設会社を辞めて宮大工を継ぐことを考えていたそうですね。石田さんが言っていました。だから、彼は今後職人になるわけです」

「それは…そうかもしれませんが…。しかし、長倉様以外にも曽田家の居候の中には職人しかおりません」

「最初に長倉さんが殺されたことが分からないと?」

 諸角は頷く。

「それは二つ目の視点です。つまり順番の問題です」

 これも簡潔に言いますね、と塗師は続ける。

「曽田家にいる職人は順番に曽田家にいる時間が短い方から死んでいるんです。最も曽田家にいた時間が短い職人は長倉さんです」

 諸角は塗師を見据える。

 塗師も諸角も黙っていた。川の音が響いているが、地形的な理由でまるで遠くで流れているかのように二人には聞こえていた。

「…仰っている意味が分かりませんが…」

「これ以上僕には簡単に言えません」

「若い方から死んでいるということなのですか?」

「いえ、そうではないです。曽田家にいる時間が短い順に死んでいます」

「同じではないでしょうか?」

「同じではありません。年齢は関係ないんです」

「ですが…もし、塗師様の仰る通りならば、根来川様を殺害したのは鰻様ではなく、東野様ではないですか?鰻様は曽田家で最も長くいらっしゃいます」

「いえ、彼で合っています。東野さんも、片桐さんもこれに該当しません」

「該当しないとはどういうことでしょうか?」

「彼らは先が短い、つまりこのまま過ごしていても自然と亡くなるでしょう。片桐さんはもう歳ですし、東野さんは肝臓が悪いそうですね」

「そんな話は…」

「でも彼らが歳を取っているのは事実です」

「ではなぜ昨日なのですか?他の日でも良かったのではないのでしょうか?」

「茉希様がこの発電室を残すために飴村さんを呼び出したからです」

 諸角は黙ったままだった。

「どうしても発電室に人がいて欲しかった。しかし、曽田家の住人は発電室に行くことは無い。同じタイミングで茉希さんが発電所保存のために飴村さんを呼び出した。つまり、彼は犯人役だったんですよ」

 塗師は諸角の顔色を確認するように見据える。

「諸角さん、あなたも関わっていますね。むしろ、あなたが計画の首謀者でしょう?」

「意味が解りかねます」

「含んだ発言はしてないつもりですけれどね」

「私がどう関わっているのですか?」

「端的に、かつ具体的に行ってしまえば遺体の切断です。それと長倉さんだけはあなたが殺害した」

 諸角の顔色は変わらなかった。

「茉希さんは、川の水流を使って遺体を切断したと言っていました。確かにそれならば女性でも簡単にできそうですよね。しかし、いくら源流に近くて勢いがあるとはいっても川の水流を使って人体切断は無理じゃないですかね?」

「どうでしょうか。やったことが無いからわかりませんが」

「あなたが長倉さんを殺害した時の話をしましょう」

 塗師は諸角を無視して続ける。

「あらかじめ長倉さんをここに来るように呼び出しておきます。昼食を摂ったら一人で来てほしい旨伝えておいたのでしょうね。発電室の現状について見て欲しい、とでも言っておけば、問題なかったでしょう」

 塗師は笑顔を絶やさない。音声をミュートにしておけば楽しい話をしているかのような表情である。

「あなたはまず発電室の飴村さんに昼食を運びました。そして時間を見計らって邸宅に戻ります。その道すがら、ちょうど林道の所で長倉さんと遭遇します」

 そこで、と塗師は首を傾げる。

「長倉さんを殺害しました。そして遺体を切断します」

「私を犯人だと言ったことは目を瞑りましょう。ですが、彼を殺すことは不可能ではないでしょうか?」

 塗師の言葉にすぐに反応した。

「あの林道で長倉さんを切断したら、血液などで地面が汚れます。それに誰かに見られてしまう確率が高いでしょう」

 塗師は一度地面を見つめる。

「日本初の水力発電所ってどこにあるかご存知ですか?」

 唐突過ぎて諸角は口を開いたまま固まった。

「どうです?ご存知ですか?」

「な、何を…」

「ご存じありませんか。京都にあるんですよ。蹴上発電所って言います。業務用として日本初ですね。建てられて百年以上たちますけれど、まだ運転しているんだそうですよ」

「それがどうしたのですか?」

「この水力発電所はですね。今でこそ配電専門ですけれど、建設当初の目的は違ったんですよ」

 塗師は一度話を止めて諸角の顔色をうかがっている。

「琵琶湖疎水っていうものがあります、琵琶湖の水を京都市に配水するために明治時代に作られた水路です。もちろん水道用水に使われるために作られていますが、発電、灌漑、工業用水なんかにも使われたようです」

 諸角は微動だにせずに話を聞いている。

「特筆すべきは疎水を利用した水運も行われた点です。琵琶湖と京都、京都と伏見を結んでいました。地形上、落差が大きい蹴上と伏見にはインクラインが設置されました」

 諸角は変わらず塗師を見つめている。

「インクライン、つまり傾斜鉄道です。勾配のある水路にレールを敷いて、台車に船を乗せて、ケーブルカーの様に引っ張り上げて、落差がある部分を進行していました。ちなみにインクラインにはドライ式とウェット式があるそうです。ウェット式は水を入れたケージに船を入れてそのケージごと台車に乗せる方式、ドライ式は直接台車に船を乗せる方式です。蹴上はドライ式でした」

 ご存知ですよね、と塗師は付け加えた。

「ここの発電室を見た時に同じようなものじゃないかなって考えました。邸宅に配電されていない時代に建設されたと聞いていました。しかし、普通の家よりは電気を使うからと言って、この規模の設備が必要だろうかと思っていたんです。だとすれば、家の電力以外にも使い道があるのではないかなと考えました」

 塗師は再び崖の方に移動する。

「ここからじゃ見えないか…。諸角さん、曽田家に向かう山道の目印になっている小さな建物が麓にありましたね。あの建物、ケーブルカーになっているんじゃないですか?」

「さて、なんのことでしょう」

「車がある今ならばまだしも、ここに家を構える以上、移動手段を確保していたはずなんですよ。麓まではバスや電車なんかで移動できるかもしれませんが、ここまでは難しかった。私有地ですしね。だから先代は麓からこの邸宅まで移動できる手段を持っていたはずなんです」

 塗師は振り返ると諸角は微動だにせずに黙っていた。

「恐らく、下のあの小さな建物はレールの上を動いて山を登ってくるのでしょう。終点は林道の途中にある開けた場所です。そうやって先代の方たちは麓へ行き来していた」

「それがどうしたのでしょうか?」

「あなたがしたことは、まず林道の途中で長倉さんを襲って殺害します。エレベータの様に麓と林道にスイッチがあるのでしょう、それを操作して下にある建物を林道まで上らせる。直線なら近いでしょうから十分もあれば良いでしょうね。上ってきたところで長倉さんの遺体を中に引き入れてその中で長倉さんを解体したんです。もちろん事前に準備をしていました。翌日に飴村さんが来ることは分かっていましたから、準備はできたでしょう」

「興味深い憶測ですね」

「切断後に鋼線を使って遺体を装飾しました。あの建物…車両としておきますか?あの車両は二人並んで立てば窮屈なくらいの広さです。あなたは切断まではできましたが星形に鋼線を細工することが難しかった。だから、胴体以外に鋼線を貫通するように通して一本の鋼線上に首、両腕、両脚が並ぶように一直線に配置しました。それから林道に戻って車両は麓に戻します。見た目はボロボロですから中に人が入るということもないですしね。まあ、鉤くらいはかけておいたかもしれませんね。そして飴村さんが邸宅に戻ったタイミングで車両を林道に戻して、中から遺体を引き出して発電室に運び入れて、鋼線を折り曲げて星形を形成して中心に胴体を置いて完成です」

 後は邸宅に戻るだけです、と言った。

「素晴らしい想像ですね」

「まだありますよ。ちなみに電話機を壊したのは小峰さんですね。保安器を持ち去ったのがあなただ。あなたももと技術者ですからね。どうしたらこの条件下で効率的に連絡を絶てるかを考えたのでしょう。でも、小峰さんが電話機を破壊していたのは誤算でしたね」

「どうして電話機を壊したのが小峰様だと?」

「電話線を壁から引きちぎった後、中の基板を壊しているからです。東野さんの存在があるから、線を引き抜くだけではすぐに修理できてしまう。だから電話機の中も破壊した、ということでしょう」

 日差しは穏やかなままだった。しかし風は冷たい。

 諸角の額には汗が滲んでいる。

「塗師様は私がこの一連の事件の犯人だと考えているのでしょうか?」

「いいえ。最初の長倉さんだけ殺害したと思っています」

 諸角は大きく目を見開いた。

「諸角さん、あなたがしたことは長倉さん殺害と、遺体損壊です。小峰さんと根来川さんの両手はあなたが切断しましたね?」

 塗師は目を閉じる。思い出すようにして諸角に話しかける。

「もともと両手を切ることは考えてなかったのではないでしょうか?しかし、不測の事態でどうしても切断しなければならなかった。そもそも、小峰さんも根来川さんも直接の死因は自殺ですね?」

 塗師はゆっくりと諸角の周囲を回る様にして話し続ける。

「小峰さんは風呂場で自殺したんです。それも手首を切って。当初、他の死に方を考えていたのでしょうね。しかし、怖くなって手首を切ることにした」

 諸角の正面で塗師は止まる。

「同じく死のうとするのに怖いという感情があるのかはわかりませんが、どちらにせよ。最初の方法を諦めて手首を切ったということに意味があります。その結果、手首に傷が残ることになった。小峰さんは出血で意識が朦朧としています。その中であなたは小峰さんも殺害されたように見せようと両手を切断した」

 どうですか、と尋ねる塗師を諸角は強く睨んでいた。

「あなたは邸宅正面の玄関に立っていました。そこからであれば簡単に玄関から出て工房に回ることは可能です。後は茉希さんの説明通り。そしてここからあなたは連鎖的に殺人が行われているという構図を思いついた」

 まだ続けますよ、と塗師は笑う。

「根来川さんの時も同じです。彼も自殺でした。しかし、これも手法が問題でした。彼は睡眠薬を過剰摂取して自殺を図りました。しかし、これでは誰がどう見ても自殺になってしまう。だから、意識を失っている彼の上半身を燃やしたのです。でもそれも苦肉の策だったのでしょうね。最初に根来川さんの部屋に入ったあなたはどうやって彼が死んだのかわからなかった。死んでいるようだったので、あなたは両手を切断して小峰さんの時と同じような状況を作った。しかし、切断してから睡眠薬の容器を発見したあなたはこのままでは死因が睡眠薬であることが明確になってしまうことを考えて…」

 塗師は一旦言葉を切って掌を上に向けて何度も窄めたり広げたりを繰り返した。

 火のジェスチャである。

「これは私が撮った写真を見ていたら気が付きました。茉希さんは気が付かなかったようですけれどね。机に突っ伏して根来川さんは無くなっていましたが、燃えた机の天板は全て真っ黒でした。切断された両手の先、無くなっている部分も黒かったんです。つまり、火を点けられる前に切断されたということです」

 再び二人の間に沈黙が生まれる。


「あ、ちなみに小峰さんの時は、茉希さんに罪を被せるつもりだったのですよね?彼女の証言だけが小峰さん殺害の証拠とも言えますから、それが不可解であれば彼女に疑いの目が向きます。根来川さんはそうするつもりもなかったのでしょうが、先程の理由でそうしなければならなかった」

「それだけでしょうか?」

 諸角が発した言葉だった。

「ええ。そうです」

「なぜ塗師様はこのような話をされたのでしょうか?」

 良く響く声だった。

「思いついてしまったもので。直接聞いてみようと思いました」

「このことは他の方にお話しされましたか?」

 塗師は首を振る。

「…なぜ職人を対象としたのか、わかりますか?」

「ああ。そうですね…」

 塗師が初めて言葉を詰まらせた。諸角の発言は塗師の推測が正しかったことを示す。

「今後の我が国の発展のためです」

「今度は僕が言っている意味が解りませんね」

 困ったように笑う塗師に諸角はまだ続ける。

「古き良き習慣や慣習は、発展進歩の妨げにしかなりません」

「昔からの知識や知恵は悪だと考えているのですか?」

「そうではありません。それ単体であれば寧ろ重要な知見として発展に寄与するでしょう」

 塗師の顔はまだ困った表情だった。

「私が言っているのは、所謂職人と呼ばれる、実態を持った生きる知識の方です。彼らがいなければできないということはこれから先の未来において無くなるでしょう。また、これ以降も職人が存在するならば、閉鎖された知識が外に出ることは無い。この国がもっと発展していくためには、そうした閉じられた知識もオープンになって行かなくてはなりません」

「まあそうかもしれませんね」

「しかし、これまでと同じように職人が存在し、そして増え続ければ、その技術は閉じられた系でのみ伝承され…」

「それ、あなたの言葉ですか?」

 諸角の息を飲む音が塗師にも聞こえた。

「あなたが本当に自分の頭で考えて、捻り出した答えですか?」

 諸角は魂が抜けた様な表情になった。曽田家での凛とした態度からは想像できない状態だった。

「話を変えましょうか。曽田家に居候していた職人たちの中で、一番初めにここに居候として訪れて、そして出て行った人間がいるそうですね」

 諸角の表情は変わっていない。

「それはあなたですね?まだ技術者として働いていた時です。まあある意味技術者も職人と言えるでしょうね」

 諸角は口を動かそうとしているが、上手く発声できなかった。

「つまり、技術者としてのあなたは曽田家を出て行ったが、使用人として雇われることで技術者としての自分を捨てた」

「そんなことは…」

「あなたは本来自分がしなければならなかったことが出来なかった。だから、機が熟すのを待って実行した。あなたが出来なかったこと、つまり、この技術者としての自分を消すことです」

 諸角は呼吸が早くなっている。

「それが幸之進に出された、ここに来る条件だったのでは?幸之進が声をかけて集めた彼らはそれぞれがそうした思想に賛同した人間たちです。そうでなければ、こんな非常識な手段を取るはずがない。この曽田家は、そうした思想を持っている人間たちのための場所だった…っていうのは考え過ぎですかね?」

 諸角は立っていられずに地面に膝をついた。

「大丈夫ですか?立てますか?」

 塗師は近寄って諸角に手を貸す。

「幸之進様…」

 諸角は呟くと、不意に重心を低くして塗師に肩からタックルをした。

 塗師は不意を突かれて、後方に飛ぶ。

 同時に諸角は走り出す。

 目指しているのは崖である。

「諸角さん!」

 塗師もすぐに体勢を立て直して追いかける。

 雪駄だが勢いよく走り抜ける。

 諸角は崖の柵の手前から大股で飛び上がる。

 片方の足で柵を踏みしめると、そのまま空へと飛び出した。

 踏み込んだ足に向けて塗師は手を伸ばすが、空振りに終わった。



 塗師は崖下を見ている。木々に阻まれてもう諸角の姿も見えない。

 遠くで人が叫ぶ声が聞こえていた。警察が諸角を発見したのかもしれないと考えた。

 懐から衛星電話を取り出すと、番号をプッシュする。

「あ、僕です。終わりました」

 振り返って歩き出す。

「申し訳ありません。不完全で終わってしまいました」

 発電室の前にきてじっくりと見渡す。

「はい。残念ですが…。分かりました。戻ります」

 携帯を切ると発電室をもう一度見渡す。

 残すべきものには、それ相応の価値があるものだ。その価値の是非は全く問題ではない。

 そこにある、ということが価値である場合もあるからだ。

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