幼馴染の結婚式に呼ばれた話
丸焦ししゃも
幼馴染の結婚式に呼ばれた話
「今度、結婚することになるんだ」
彼女はそう言って、結婚式の招待状を僕に渡した。
※※※
彼女とは中学校のときからの付き合いだった。
話すきっかけになったのは、ただ隣の席だったというだけ。
何故か波長が合い、沢山のくだらない話をしていたと思う。
「タクヤみたいに背が低くなりたいなぁ」
「いや、逆にササキの背をもらいたいんだけど」
当時の僕は、同学年の男子としては背が低かった。
小さい順に並べさせられると、いつも僕は先頭から二・三番目だ。
一方、彼女は、同学年の女子でも背が大きいほうだった。
“小さい順に並べ”だと、いつも
成長が遅かった僕は、声変わりするのも遅かった。
合唱の時間はいつも女子が歌うソプラノのほうに混ざっていた。
当時、思春期真っ只中の僕はこれが苦痛苦痛でたまらなかった。
「タクヤ、普通に歌うまいじゃん」
「……」
当時の僕は、この言葉にうまく返すことができなかったと思う。
周りの男子が、声変わりもして背も高くなっていく中、僕だけが取り残されているような感覚があった。
女子からは「タクちゃんは小さくて可愛い!」とよく言われていたが、それが本当に嫌でたまらなかった。
思春期の男子にとって、同年代の女子からちゃん付けで呼ばれるのがどれほど嫌だったことか。
そんな中、ササキだけが僕のことを“タクヤ”と、まるで男友達のように呼び続けた。
それが、どこか嬉しかった記憶がある。
僕には弟がいて、ササキにも妹がいた。
弟と妹も同学年だった。
「あんたらって似てないよね」
「そういうお前らだって」
よくそんな会話をしていた気がする。
そんな中学生活をお互いに送っていたが、受験になると別の高校に進学したのもあり、だんだんと疎遠になっていった。
この時はまだ、ただの友達というくくりでしかなく、幼馴染という感覚も薄かった。
※※※
再会したのは成人式のときだった。
「えぇええ!? タクヤなの! 変わり過ぎ! かっこよくなってるし!」
「ササキは変わってないなぁ……」
「失礼だぞ!」
この頃になると、僕の背はぐっと伸びていた。
ササキより低かった僕の背は、いつの間にかササキよりも随分高くなっていた。
無事、声変わりを終えることができ、あの頃よりは野太い声になっていたからかもしれない。
僕のことを小さいというイメージがあった同級生は、ほとんど僕がいたことに気付かないという珍事もあった。
「えぇえ!? タクヤ、東京にいるの!?」
「げぇ、うちの大学、ササキの大学とめっちゃ近いんだけど」
「うんうん! 今度遊ぼうよ!」
同窓会で、僕とササキは隣の席だった。
この頃の僕は、東京の大学に進学していた。
一方、ササキも東京の専門性の高い大学に進学していた。
大学同士が微妙に近いということもあって、住んでいる場所も遊び行けるくらいの場所だった。
「弟くんは元気?」
「普通だよ普通。そっちの妹ちゃんは?」
「めちゃくちゃ反抗期。弟くんとうちのちー、同じクラスみたいだよ」
何の因果か、うちの弟とササキの妹も同じクラスになっていたらしい。
そんな共通点を二人で見つけながら、段々と東京で遊び行く回数も増えるようになっていった。
二十歳を超えると、
僕の中ではそれが“幼馴染”というくくりだった。
ササキとはご飯にもよく行ったし、カラオケにもよく行った。
時々、お互いの恋愛の話をすることはあったが、お互いがどうというのは一切なかった。
地方から東京に行った僕にとって、それが凄く心地が良かった。
異邦の地で同郷の友達と昔の話をする。そんな不思議で特別な感覚。
僕は大学卒業後はUターン就職で地元に戻ったが、ササキは東京の会社に就職をした。
就職後も、東京とうちの地元の中間地点の都市でご飯に行くこともあれば、ササキが帰省したときは車を出して迎えにいったりもしていた。
※※※
就職して二・三年経った頃だろうか。
そんな感じでしばらく過ごしていたが、初めてササキに真面目に恋愛の相談をされた。
「彼氏と上手くいってない」
「何が原因なの?」
「喧嘩した」
「どっちが悪いの?」
「私だと思う」
「じゃあ謝れよ」
こんなアドバイスともいえないアドバイスをした記憶がある。
「喧嘩してる時間ってもったいなくないかなぁ」
「タクヤは喧嘩したりしないの?」
「俺なら悪いと思ったらすぐ謝る」
「へぇ~」
珍しくササキが真面目に俺の話を聞いていた。
「っていうか、彼氏の話初めて聞いたんだけど。どんな人なの?」
「うーん」
「ササキのお眼鏡にかなう人なんだから、かっこいい人なんでしょ」
なるべく、彼氏を立てるようにそんな聞き方をしていた。
「タクヤに似てるよ。顔も性格も。中学のときからタクヤと付き合えば良かったのかなぁ」
ササキはそう答えた。
……上手く言い返すことができなかった。
いつもの軽口かと思ったが、妙に真面目な顔をしていたのでおちゃらけて返すこともできなかった。
――ササキは、無事その後、その彼氏と仲直りをし結婚することになった。
結婚式の招待状はササキに手渡しで渡された。
素直に嬉しかった。
幼馴染の友達が結婚すること。
その大事な結婚式に、人生の大切な行事に、自分を呼んでくれたことに。
幸せになってほしいなぁと心の底から思った。
ササキの結婚式で、新婦の友人席にいる男子は僕一人だけだった。
同じ席に中学の友人がいたので、そこだけは本当に助かった。
式の最後の帰りに新郎新婦と話をする機会があって、そこで少しだけササキと話すことができた。
「あっ! 彼は私の親友なの!」
ササキは満面の笑みでそう言った。
ササキは僕のことを“親友”という表現をした。
別にこのことに何があるわけではない。
よく“男女間に友情は芽生えるか”と議論されることがあるが、僕はこれについては迷いなくイエスと答える。
だって、僕はササキの“親友”としてこの結婚式に参列したのだから。
ササキが結婚してからお互い連絡することはなくなってしまった。
便りがないのは良い便りということで、そのことはあんまり気にしていない。
多分、これからも連絡することはないだろう。
――ただ、ふとあのときのササキの言葉を思い出してしまうときがある。
彼女は“僕に似ている”と言った人と結婚をした。
それがどういう意味だったかは、多分一生分かることはないだろう。
幼馴染の結婚式に呼ばれた話 丸焦ししゃも @sisyamoA
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます