第38話


 職員室を出て、彩人は一人物思いに耽る。

 

 どうにも幼馴染様は面倒ごとに巻き込まれやすい体質らしい。

 モデルも裸足で逃げ出すレベルな美少女ことを考えれば妥当なのだろうが。

 それにしても、面倒なことになってしまった。

 先程、スマホの持ち主が分かるか担任の知恵に確認してみたところ、女子更衣室の中でたまたま見つかったもので未だ誰のものかは分かっていないらしい。

 知恵に話をそのことした時に、チラッと聞いてみたのだが同性でも親しい関係ならば、寝顔を遊び半分で壁紙にすることがあるんだとか。

 だから、さっきのスマホの持ち主が男か女か断定は出来ない。

 つまり、本当にストーカーがいるかどうかはまだ分からない。

 直感的には昨日の一件を含めて、ほぼほば確定でいると思っているが。

 とりあえず、それを確かめるためには情報収集を始めることに。

 手始めにクラスメイト達が今、スマホを持っているかかくにん

 全員持っていれば、誰かの忘れ物という線は確実に消えるため、事件性の有無がハッキリとする。


 教室の後ろから入り、全体の様子を見る。

 見たところ、弄ったり、机の上に置いていたり、イヤホンで音楽を聴いていたりとクラスの約四分の三がスマホの所持をしていることが確認できた。

 後分からないのは、読書や今日提出の課題をやっている奴ら。


「なぁ、寿ことぶきは電子書籍で本読まねぇの?」

「えっ、あっ、水無月きゅん!?えっ、あっ、うん、スマホより紙の方がなんていうか捗──読みやすくて!」

「へぇ、じゃあスマホは普段何に使ってんの?」

「音楽や配信とか動画、ソシャゲをするのに使ってるよ。でも、ほら私の型古いからバッテリーがね怪しくて、あんまり使わないようにしてるんだ」

「そうなのか、意外に多趣味なんだな寿って」

「まぁ、ふじょ──女子ですから。話題作りのために色々調べてるの」

「ほへー、そうなのか。ありがとうな、話に付き合ってくれて、じゃあな」

「う、うん。……んほっ、いい筋肉してたわね。受けで考えてたけど意外にも攻めも使えそうなふふっ」

「なぁ、宿題見してやっから俺とマルチしてくんないか?あと一個オーブ欲しくてよ」

「マジか!?いいぜ、そんくらいならお安いご用だぜ」


昼休憩、二回の十分休憩を使って、直接確かめたところクラスメイト全員がスマホを持っていることが判明した。


(てことは、事件性大か。やべぇな)


 誠に残念ながら、彩人の勘は当たっていたらしい。

 莉里にストーカー(性別まだ不明)がいることは確定してしまった。

 これは流石に伝えねばならないだろう。

SHR後、彩人は前に座っている莉里の肩をちょんちょんと叩く。


 しかし、反応がない。

 気づいていないのだろうか?

 もう一度突いてみる。

 今度も反応はない?

 お次は手全体を使って、ぽんぽんとさっきよりも強めに叩いてみる。

 が、今度も反応はない。

 もっと強く叩いてみる。

 それでも、やっぱり反応がない。

 仕方がない。こうなったら全力でやるしかないようだ。

 彩人が腕を大きく振りかぶったところで


「こんだけ反応しないんだから、機嫌が悪いのくらい察してよ!?何女の子相手に本気で叩こうとしてんの!?さっきのですら結構痛かったんですけど」


 莉里がようやくらこちらに振り向いてくれた。

 その顔はとても不満そうだが、今はそんなことどうでもいい。一刻も早くこのことを伝えなければ。


「おぉ、ようやく反応した。実はな──「ちょっと私の機嫌は無視!?無視なの?酷くない?ちょっとくらい気にしてよ!幼馴染でしょ」──おおう、すまん。だが、結構重要な話なんだ。機嫌については後で話すから聞いてくれ。お前まだ他にもストーカーがいるぞ」

「えっ?ちょっとどういこうと?」


 話をしようとしたところで、莉里に待ったをかけるられるが、おそらくこっちの方が重要度が高いので無視。

 莉里にストーカーがいることを伝えた。

 それを聞いた莉里は目を真ん丸くさせ驚くと、顔を寄せて何事かと説明を求めた。


「今日の昼休憩に職員室に行ったんだけど、そこの忘れ物コーナーにお前の寝顔が壁紙にされたスマホを見つけたんだよ。しかも、それ女子更衣室にあったらしい」

「それだけ?それだけだったら誰かクラスの女子の持ち物の可能性あるよ。女子だと悪ノリでする子とかいるし」

「そのことも知恵先生に聞いたから分かってる。だから、クラスメイト全員のスマホを持っているか休憩時間中に確かめた。そしたら、クラスの奴ら全員持ってることが分かった」

「あっ、だからクラスメイト達に話しかけていたんだ。そっか、そっか。そうなんだ。まぁ、じゃあ、許してあげる」

「えっ、何を?」

「分からないなら、別にそれでもいいよ。今話したことに比べたら大したことじゃないから」


そう言って、莉里は立ち上がる。


「ありがとう」


 先程の不満顔から一転。

 嬉しそうにはにかみながら、莉里は彩人にお礼を言った。


「お、おう」


 何がどうなって、こうなっているのかイマイチ分からないが、彩人はとりあえず頷きお礼を受け取るのだった。


「で、機嫌の話はどうなった?俺なんかお前に悪いことしたか?」


そういえば、と彩人が莉里に機嫌の話はどうしたのかと尋ねた。


「してたんだけど、まぁ色々あって無罪放免になったからもう大丈夫」


 すると、不思議なことに莉里は問題はなくなったと上機嫌で答え、彩人は理解が追いつかず首を傾げた。


「そうなのか?なら良かった。マジで財布の中身が厳しいからよ。もし、意味もわからず奢らせられたらマジできつかったわ」

「ふふっ、そんなことしないよ。もし、あれだったら今日ジュース奢ってあげるよ。色々頑張ってくれたご褒美に」

「マジか!?よし、早速自販機のとこ行こうぜ」


 よく分からなかったが、ジュースが奢って貰えるのならなんでもいい。

 彩人は先ほどまでの流れを忘れ、意気揚々と教室の外へ出ていくのだった。


「……自分のために頑張ってくれてたのに。嫉妬してたとか言えるわけないじゃん」


背中が見えなくなったところで、莉里は小さく呟くのだった。


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