第37話
「ありがとうございました」
「また来てネ〜彩人君。いつでも歓迎しま〜ス!」
「来月会おう必ず!絶対締め切り終わらせるから!」
「バイバイ〜」
あの後、予定通り街鐘家へ訪問した彩人。
莉里の母親であるルーシィからお茶を出され、しばらく談笑に花を咲かせた。
内容はゴールデンウィークのことで、街鐘家がどんな場所に行ったのか、どんなものを食べたのか、今度は一緒に旅行に行きたいなどなど。
県外に滅多なことでいかない彩人は、街鐘家の旅行話は面白く、ついつい話が弾んで夜の七時。
親からお土産食べたいから早く帰ってこいと言われたので、ここら辺でお暇するにことになった。
まぁ、案の定というべきか街鐘家が買ったお土産が多く両手は完全に塞がれている。
これで制服なのだから、完全に時期はずれの修学旅行生だ。
心の中で、この状態で帰りたくねぇと呟くが受け取ってしまった以上、今さら返すことも出来ない。
街鐘家全員からの見送りを受けた彩人は、それに軽く紙袋を持ち上げることで応え帰路についた。
「ん?」
ガサガサと紙袋を鳴らしながら帰っていると、急に背筋がゾクゾクと逆立った。
後ろを振り向くが特には誰もいない。
言葉では言い表せないが、誰か絶対にいると思っていたのだが、どうやら勘違いだったようだ。
恥ずかしい。
もしかしたら、風邪の前兆かもしれない。
「最近生活習慣結構荒れてるしな」
心当たりが何となくあった彩人は自分をそう納得させると、再び歩き出した。
だが、次の日。
彩人はこれが勘違いなどでは無かったことを最悪の形で知ることとなる。
◇
「ありがとうございます、水無月君」
「別に普通っすよ。内申点稼ぎです」
「こら!?そういうことは思ってても言っちゃダメですよ」
「ヘーイ」
「もう!次から気をつけてくださいよ」
それは昼休憩の時のこと。
担任の知恵が大量の荷物を漫画のように積み重ねて運んでいたので、流石にコレはまずいだろと思った彩人は手伝いを申し出た。
流石にコレは一人で運べる量じゃないと分かっていたのだろう。
ありがたくその申し出を受け入れ、現在二人で荷物を半分個して職員室に向かっている。
その道すがら、知恵に礼を言われた彩人は自分にも利があるとざっくらばんに言い、担任の教師を呆れさせる。
人によっては不愉快な思いをするだろうからと注意するも、軽い返事が返ってきて知恵は少しだけ心配になった。
「着いたっすよ」
「あっ、はい、じゃあ入って。それをあそこの保管室に運んでください」
「へい承知しました。失礼します」
それから少し歩いて職員室に辿り着いた二人は中に入り、職員室のさらに奥にある保管室に荷物を運んだ。
「へぇ〜、こんなところが職員室あるんすね?」
「受験に必要な教本とか、参考書とか、忘れ物とか落とし物を保管するための場所なんだけどね本当は。最近はこんな風に先生達の荷物置き場になってるの」
保管室の中はゴチャッとしており、開けたままのダンボールや、梱包材が錯乱していて足の踏み場が殆どない。
(これは早く掃除しないとヤバそうだな)
そんなことを考えながら、彩人は荷物を部屋の空いたスペースに置いた。
「先生、そっちもください」
「あっ、ありがとうございます。うわっ!」
智恵の分もそこに置こうと彼女から荷物を貰おうとした時、事件は起きた。
足元に落ちていた段ボールに足を滑らせ、知恵の持っていた段ボールが倒れ忘れ物が入っていた籠に直撃。
見事中身がひっくり返り、地面に全てぶちまけられた。
「あわわわ!やってしまいました」
「やりやがったな、このドジっ子教師!」
彩人はやらかした
ペン、消しゴム、筆箱、自転車の鍵、ブレザーのボタンなど、様々なものがあり、ついにはスマホまで発見した。
こんな高価なものがと、手を伸ばし画面に触れるとホーム画面が表示される。
「ッ!?」
彩人はその画面を見た瞬間、目を大きく見開き固まった。
「どうしました?」
「いや、何でもないっす。一瞬画面割れてるかと思って焦ったんすけど。よくよく見たら大丈夫でしたわ」
「そうなんですか。それは良かったです。もし割れてたら弁償しないといけませんでしたから。危うく、私の給料の半分が吹き飛ぶ所でしたよ」
「マジ良かったすね」
突然固まってしまった彩人に怪訝そうな顔しながら、声をかけると彩人は画面を消してスマホに傷が無かったことを伝える。
すると、知恵はホッと胸を撫で下ろし安堵の息を吐いた。
内心バックバックだったが何とか誤魔化せた。
彩人も知恵とは別の理由で息を吐き、スマホの電源を再度入れる。
すると、そこにはジャージ姿で眠る莉里が映っていて。
(もう一人いんのかよ)
彩人は莉里のことを盗撮する輩が海以外にもいたのだと知り、内心でどうしたもんかと頭を抱えるのだった。
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