第36話
「ねぇ、彩人。今日家に来ない?」
「別にいいけど、どうした急に?」
莉里がそう提案してきたのは、帰りの電車内でのことだった。
この後、特に予定も入っていない彩人は何の躊躇いもなく了承する。
が、今まで下校中に莉里から家に来ないかと誘われたことがなかったため、どういう風の吹き回しなのかと彩人は尋ねた。
「お母さんとお父さんも、水無月家用にお土産を買ったんだよね。どうせなら、それも持って帰ってもらおうと思って」
「そういうことか」
水無月家と街鐘家は仲が良い。
不定期ではあるが、大体二ヶ月に一回くらいは一緒にご飯を食べたりする。
だから、莉里の両親が彩人の両親にお土産を買ってくるのに何も不思議なことではない。
ただ、最近集まってないんだからお土産を理由に集まればいいのでは?と思わなくもないが。
彩人に持って帰るように言うということは足のはやい生物でも買ったのだろう。
莉里の話を聞いて彩人は納得した。
「家に帰る時、俺修学旅行から帰ってきた学生みたいになりそうだな」
莉里から一つだったことを考えれば、彼女の親から一つずつ渡されるだろう。
そうなれば、両手はお土産で一杯になり時期外れの格好で帰る羽目になりそうだと彩人は口にした。
「確かに凄い目立ちそう。ふふっ。でも、まぁ美味しいものが食べられるんだからそれくらいは我慢してよ」
彼女が想像したのは駅のホームで奇異の視線を向けられ、居心地の悪そうにしている彩人。
きっと、こうなったら彼は『早く電車来てくれ!』と心の中で電車が早く来ることを願うに違いない。
ここまでが容易に想像できてしまって、莉里は思わず小さく笑い声を上げた。
彩人も何となく莉里が想像しているものに察しがつき、憂鬱な顔になる。
(めっちゃ行きたくなくなってきた)
心の中でそう呟く彩人。
だが、既に莉里の家に行くと返事をしてしまっている以上、急に帰りたいと言っても許してはもらいないだろう。
彩人は小さく溜息を吐きネガティブなことを考えるのを止めた。
その代わりに、莉里の親であるルーシィと雅紀が自分の両親にどんなものをお土産に買ったのか考える。
(ルーシィさんは意外と無難なものを買ってくれるんだよな。白◯恋人とか、うどんとか。で、陽さんは逆に変なのを買ってくる。四国行った時はうどんを啜ってる変なおっさんの置き物とか、北海道はジンギスカンキャラメルだったけか)
過去のお土産思い返してみると、二人の職業性が出ていることが分かった。
カメラマンとして多くの人と関わらないといけないルーシィは、円満な関係を築く必要があり攻めたものは買わない。
が、陽は作家をしており、色んなものへの好奇心が強く、自分も面白いと思ったら他の人も面白いだろうとその場の勢いで買っている。
そんな二人の血を引き継いだ莉里はというと、母親であるルーシィ同様に無難な物を買ってくるようになった。
そう、昔は違ったのだ。
小学生の時、彼女はハニワとか『梅干し』と書かれた変なTシャツをお土産に買ってきたのだ。
一回目のハニワは社会の授業で莉里の行った場所では有名だと知っていたから、不満を口にはしなかった。
が、二回目の梅干しTシャツに関しては本当にダサく着たくなかったので
『ダサッ、いらねぇ』
とせっかく買ってきてくれたのにも関わらず辛辣な言葉を吐き受け取りを拒否した。
今思うと、大変酷いことをしたと彩人は思う。
莉里はその言葉にショックを受け
『そう……だよ…ね。よくよく考えれば普通こんなの貰っても喜ばないよね。喜ぶのなんてうちのお父さんくらいだよね。ごめんね、彩人。ウチのお父さん子供みたいな感性してるから、子供の彩人も喜ぶと思ってた。本当にごめんなさい』
酷く落ち込んだのを覚えている。
部屋の隅に体育座りし、うわ言のように謝罪の言葉を口にする莉里。
当然それを見ていた母には大変怒られた。
『せっかく買ってきてくれたのに、そんな酷いことを言うなんて有り得ないわ!』
『いでぇ!』
頭に拳骨を喰らった俺は自分のしでかしたことがいけないことだと分かり、その後すぐに莉里へ謝り何とか許してもらった。
それ以降、莉里はお土産に変な物を買ってくることはなくなった。
多分、いや間違いなく先程説明した一件が原因だろう。
改めて思うが、本当に酷いことをした。
けれど、そのおかげでちゃんとしたお土産が貰えているという現状に彩人は何とも言えない気持ちになる。
「莉里ごめんな」
「?どうしたの、急に」
何だか居た堪れなくなった彩人は莉里へ謝罪した。
莉里は急に身に覚えのない謝罪を受け、頭の上に疑問符を浮かべるのだった。
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