第35話


 当初計画していたよりも濃いゴールデンウィークが終わり、憂鬱な月曜日がやって来た。

 まだまだ休みたいと訴える身体を無理やり動かし、電車に乗り込む。

 そして、いつものように莉里のいるところで一旦下車し莉里と合流する。


「おはよう、莉里」

「おはよう、彩人。あっ、そうだ忘れる前にお土産渡しとくね」


 顔を合わせて早々、莉里はそう言うやいなや片手に持っていた紙袋を手渡してきた。


「おっ、マジ!サンキュー。何買ってくれたんだ?」


 まさか、このタイミングでお土産を渡されると思っていたなかった彩人は受け取ると中に何が入っているのか尋ねた。


「じゃがり◯のたこ焼き味ともずや◯のストラップだよ。彩人じゃがり◯みたいなスナック好きだったでしょ?」


 莉里が買ってきてたのは、大阪名物らしいたこ焼き味のスナックとゆるキャラのストラップ。

 中々良いチョイスをしている。


 彩人は家に帰ったら速攻で食べることに決めた。

 だが、すぐに『一個くらいならデザートとして食べるのもアリでは?』という悪魔の囁きが脳内に流れる。

 そんな悪魔の囁きが聞こえているのか、莉里が「きちんと矢花さんと陽さんの分も残すんだよ?」と彩人に釘を刺してきた。


「わ、分かってるって。そんなガキみたいなことするかよ」

「昔、私がお土産で買ってきた生キャラメル全部食べたのは誰だったけ?」


流石に全部を食べるような非常識はしないと反論したが、過去に莉里が買ってきたお土産を全て食べたことを指摘されてしまえばどうしようもない。


「…そん時はガキだったんだよ」

「くふっ、確かにあの時はまだ九歳だったね」


 弱々しく彩人が言い訳を溢すと、莉里はおかしそうに笑った。

 

「彩人は私と遊んだ後何してたの?」

「二日ダラダラした後に中学の友達とカラオケに行って、その次の日に一人で映画を見に行った」

「へぇ〜、結構充実してるね。私はね〜──」


 話題は変わり、ゴールデンウィークに何をしていたのかというものになり、大阪で色んなところに行った莉里は話すことが沢山あるらしく沢山の出来事を話してくれる。

 それにちょくちょく相槌を打ちながら、彩人は高校に向かうのだった。




 大型連休が明けたとはいえ、生活にそうそう変化なんて出るわけが無い。

 彩人はそう思っていたのだが、彼の予想とは裏腹に大きな変化があった。



「こんにちは、水無月君」

「アンタはあの時の!何で俺の場所が分かったんだ!?」


なんと、彩人のクラスにこの間ナンパから助けた黒髪ロングの少女。白百合が昼休みにやって来たのだ。

 

 これにクラスは激震。


「一年生の間、美人と噂されている財閥のお嬢様である白百合 小雪こゆきが水無月に何の用だ!?」

「えっ、もしかしてこのゴールデンウィークの間に付き合っちゃった?」


と慌て出す周囲のことなど、当の本人は気にしておらず白百合は話を継続した。


「ふふっ、少々記憶力には自信がありまして。クラス表に教えてもらった名前と同じものがあったので、もしやと思ってきたら当たりでしたね」

「すげぇなぁ、アンタ」


西園が彼女の名前を知っていたから、おそらく同じ高校なのだろうと思っていた。

 が、まさか本当に一緒だったとは驚いた。

 

 どうやら世間は思った以上に狭いらしい。


 しかし、それよりも教えた名前に見覚えがあったからと言う理由でこんなにすぐ彩人の元へやってくるなんて。

 本当に驚いた。

 

「ふふっ、お褒め頂き光栄です」

「光栄って、大袈裟な奴だな。で、どうしたんだ?急に俺のところにやってきて。

 礼はこの間、受け取ったし特に話すことなんて俺達には無いだろう」

「いいえ、私は白百合財閥の令嬢です。危ないところを助けてもらったのにも関わらず、あの程度のお礼で済ましてしまっては沽券に関わります。なので、改めて水無月君に何かお礼をしたくて参ったのです」

「ふーん。面倒なんだな」


 ナンパから助けた程度お礼を言うだけで充分だと思うのだが、財閥のご令嬢というのはどうもそう言うわけにはいかないらしい。

 いちいちそう言うのを気にしないといけないのは息苦しそうで、自分には無理だなと思った。


「で、水無月君にお礼がしたいのですが何をして欲しいですか?再来週あるテストの答案なども可能ですよ?」

「それカンニングじゃん。バレたら退学になりそうだし遠慮しとく。ていうか、マジで今して欲しいことないからなぁ」


 白百合を助けたのは気まぐれというか、お礼をして欲しいとかいう打算などなかった。

 あれは彩人がしたくてしたこと。

 いわば、自己満足でお礼を言ってもらっただけで充分なのだ。

 急に何かして欲しいと言われても中々思い浮かばない。


「一旦保留って可能か?」


というわけで、何かして欲しいことが思い付くまで待ってもらうか駄目元で聞いてみた。


「大丈夫ですよ」


 すると、意外や意外待ってくれるらしい。

 では何か案が思い付くまで散々悩ませてもらおう。


「じゃ、して欲しいことが決まったらこっちから伝えに行くわ。そん時はよろしく」

「分かりました」

「………なんで帰んないんだ?」


  何かして欲しいことが決まったら伝えに行く。

 これで話は終わった。

 もう、話す事はないし帰ると思ったのだが何故か白百合は帰らない。

 というか、そもそも彩人の前から動こうともしない。

 彩人は何なんだ?と頭に疑問符を浮かべる。


「それはですね。あの、お恥ずかしいお話なんですけど、私友人が殆どいなくてですね。よろしければ友達になっていただけないかと?」

「まぁ、別にそれくらいなら良いけど」


 友達になるくらいなら、別に問題はない。

 白百合は話した感じ悪い人間では無さそうだし、嫌いじゃないから。

 ただ、急にそんなことを言われるものだからちょっとだけ驚いた。


「本当ですか!ありがとうございます」


彩人が了承した途端、パァッと顔を輝かせる白百合。

 

「じゃあ、あの早速なんですけど学食に行きませんか?私友人が出来たら一緒に行ってみたかったんです」

「悪い。俺金欠で学食食う金がねぇ」


初めての友人が出来て喜んでいるところ悪いのだが、生憎彩人はゴールデンウィークでお小遣いの殆どを使い切ってしまい財布はスッカラカン。

 学食を食べる余裕などない。

 彩人は申し訳なさそうな声色で白百合に謝った。

 

「あら、残念。そうなんですか?もし、よろしければ奢りますけど」

「友人歴一分にも満たない奴にそんなこと出来ねぇよ。それに俺弁当持ってるし、今日は約束がある。どっちにしろ今日は無理だ。悪いな。食う日もまたこっちから知らせにいくわ」

「分かりました。では、また後日ということで」

「おう、それで頼む。出来るだけ早く決めるようにすっから」

「じゃあな」

「はい、また」


色々断ってしまって申し訳ないと思いつつ、白百合にはこの日のところは自分のクラスへ帰ってもらった。

白百合が居なくなった教室はシーンと鎮まり返った。


 彩人はそんな中、立ち上がると後ろに振り返りこう言った。


「莉里、飯食おうぜ」


 朝に約束していた通り、莉里を昼食に誘う彩人。


「うん、いいよ。彩人さっきの人とはいつ出会ったの?」


 莉里はとても良い笑顔で頷くと、白百合について尋ねた。


「ゴールデンウィーク。友達とカラオケに行った時にナンパされてたから助けたんだ。まぁ、でも俺よりも先に白百合のことを庇っている奴がいたから、俺のしたことは余計なお節介だったかもしれないな」

「…そうなんだ」


白百合と出会った経緯を聞いた莉里は、神妙そうな顔を浮かべると目を閉じ何か考えだした。


「ハンバーグうめぇ」


そんな莉里を横目に彩人は今日も彼女の弁当に舌鼓を打つ。


(((よくこんな状況で飯が食えるな!!?)))


周りにいた生徒一同は彩人の天然具合に脱帽するのだった。

 




 



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