第26話 改稿済み


「失礼します、こちらがバイキングの料理を使って作ったハンバーグになります」

「うむ」

「失礼します。お水のおかわりお持ちしました」

「うむ」

「他に私に何が出来ることはありますでしょうか?」

「じゃあ、肩を揉め」

「はい、喜んでさせていただきます」

「僕も他には何かないですか?」

「ちょっと食べカス地面に落ちたから、拾って捨ててきてくんない?」

「かしこまりました」

「なに、あれ?」

「ワイも何が何だかよう分からん」


昨夜の出来事から、夜が明け次の日の朝になった。

 現在、彩人は椅子に踏ん張りかえり、美少女幼馴染と友人に世話をさせていた。

 その原因は、彼の目下に出来ている大きな隈にある。

 莉里と海を大声で怒鳴り散らかした彩人は当然の如く、教師達に捕まり朝まで宿舎を出て叫んでいたことを説教されていたのだ。

 お陰で一睡も出来ていない。

 それは、莉里も海も同じなのだが彩人がキレた理由は自分達にあるわけで。

 罪滅ぼしのため、彩人の召使い的なことをやっているのだ。

 何も知らない朱李やレイからすれば何が何だか分からないだろう。


「捨ててきました。次は何をすれば?」

「知らん、自分で考えろ」

「……そんな」


食べカスを捨てて戻ってきた海が、彩人に次の指示を仰いだ。

 が、もう頼むようなことがない。

 やって欲しいことの大体はやってもらった。

 今さっきの食べカスはギリギリ何とか捻り出したものだ。

 これ以上考えるのは徹夜し、思考が著しく落ちている彩人には不可能である。

 なので、海に自分で考えろと丸投げすると、オロオロと狼狽える海。

 彼もまた徹夜明けで、急に考えろと言われても何も思い付かない。

 

「俺は…もう……寝る」


慌てる海を一瞥し、そう言うと彩人は意識を飛ばしテーブルにゴンと勢いよく突っ伏した。


「どうしよ?」

「暫くそっとしておきましょう」

「スゥースゥー」

 

 明らかに痛そうな音がしたので、海は怪我の心配をするが長い付き合いの莉里はこの程度問題ないことを知っている。

 肩を揉むのをやめ、羽織っていたジャージをタオルケット代わりに被せた。

 これで多少は眠りやすいだろう。

 

「僕も掛けた方がいいのかな?」

「喋り掛けないでくれるかな?不快だから」

「ぐふっ」


 彩人が完全に寝たことを確認したので、莉里は海への冷たいものを切り替えた。

 それも当然で、莉里の中で海は犯罪こそ犯していないが、その一歩手前までいったヤベェ奴に変わりはない。

 しかも、それをしようとしていたのが自分となれば、普通に接しろというのは無理というものだろう。

 今までちゃんと会話をしていたのは、二人が不仲だと彩人が困るからでしかない。

 これからも、必要最低限な場合を除いて海と関わるつもりはない。

 

 不快という言葉胸の奥に突き刺さり、海はその場で痛みを堪えるように蹲った。

 もう、海にとってあの出来事はトラウマというか思い出したくない記憶となっているようだ。

 こんな風に思える感性を持っているなら、何故前の世界で自制が出来なかったのだろうかと、莉里は思わず溜息を吐く。


(そうすれば、あんな奴と出会わなくて済んだのに)


意味はないと分かっていながら、心の中で莉里は毒吐くと寝ている彩人の頭を優しく撫でた。


(まぁ、でも彩人のお陰で大丈夫そうかな?)


 この幼馴染のお陰で、少なくとも海があの時のように襲ってくることはないだろう。

 となれば、必然的に元カレとな出会いも無くなる。

 まぁ、あの男のことだ。

 いずれ、関わることになるだろうが。

 おかげさまで、備える時間は増えた。

 昨日のように無様な姿を見せないように、頑張ろうと思う。

 何すれば良いのか未だ分からないけれど。

 

「スピー、スピー。ハンバーガー、むにゃむにゃ。スピー、スピー」

「ふふっ、まぁどうにかなるか」


 気持ちよさそうに寝ている彩人幼馴染を見ていると不思議と行けるような気がしてきた。

 少しだけ顔が綻んだ。


「あっ」


海は莉里のその顔を見た瞬間気が付いた。

 何故自分にはあの日撮った彩人のような写真が撮れなかったのかを。

 この綺麗な顔は彼女が彼にだけに向ける特別なものなの。

 他人になんか見せるはずが無い。

 だから、自分は撮ることが出来なかったのだと。


(それは僕には無理なわけだ)


 海はそんな簡単なことをようやく理解した。


「ははっ」

「なに?急に笑って怖いんだけど」

「ごめんごめん、ちょっとね」


 思わず、海は笑ってしまうと莉里が綺麗な顔を引っ込め冷たい目でこちらを見てくる。

 ツボに入った海は笑ってはいけないと思ってながらも、笑いながら返事をする。


 本当馬鹿らしい。

 そんなものを撮ろうと躍起になるのが可笑しいのだ。

 どんな天才だってこれは匙を投げるだろう。


 好きな人にだけ見せる特別な顔なんて。


 他の有象無象が絶対撮れるわけないのだ。


「街鐘さんはのことが好きなんだなって」

「〜〜なっ!?違うから!」


 笑いながら海がそう言うと、莉里の顔は一瞬で赤く茹で上がった。

 莉里は懸命に否定するが、彼女の顔がどうしようとないくらい答えを物語っていて。


「あははっ、でっ!?」

「笑うな!」


 海はまた笑い声を上げる、莉里に頭を思いっきり引っぱ叩かれるのだった。


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