第23話 改稿済み


「んぁ〜」


 カポンッっと、聞こえそうな大浴場にて。

 お湯に浸かった莉里は気持ちよさそうに顔を緩めた。

 長い髪を濡れないよう巻いており、普段はあまり見えないうなじが露わになっており、声も相まって妙に艶めかしい。


「あぁ〜、沁みる〜」

「……くれはおやじくさい」


 遅れて、紅羽と夢もお湯に浸かり気持ちよさそうな声を上げた。


「お疲れ」


疲れさせてしまった原因の一部分は自分にあると思っている莉里は、申し訳なさそうに労いの言葉を紅羽にかける。

 が、当の本人は気付いた様子もなく「まちちゃんもお疲れ〜」と間延びした返事が返ってくる。

 相当リラックスしていることが伺える。

 ここで、変にまた気を遣わせるのも悪いと思い莉里もまたお湯に身体を委ねた。

 身体の力が抜け、リラックスしていたところ突然背後からむにゅと胸を鷲掴みにされ「キャッ!」と莉里は悲鳴を上げ立ち上がる。


「やっぱ、大きいね莉里っち。揉みごたえがあって最高だったよ」


 手の出所を見てみれば、朱李が胸を揉んだ姿勢で手をワシワシさせていた。


「もう、朱李ちゃん!胸は揉まないでっていつも言ってるでしょ!」


 莉里は顔を赤面させながら注意するが、朱李はどこ吹く風。


「減るもんじゃないしいいでしょ〜」


全く反省の意が伺えず、莉里はもうと頬を膨らませた。

 毎度毎度注意しているのだが、全然やめてくれる気配が無い。

 どうすればいいのだろう?

 ここ最近揉まれ過ぎているせいか、ちょっとまたブラが時々きついと思うことが増えた。

 ブラをまた新調すると出費が嵩むので本当にやめて欲しい。

 莉里の数ある最近の悩みの一つだ。

 

(前の人生ではこんなに成長が早くなかったのに)


自分の大きな胸を見つめながら、そんなことを考える。

 タイムリープをする前も確かにこのくらいのサイズはあったが、それはもうちょっと後のこと。

 高校を卒業する直前が今と同じくらいだったのだ。

 しかも、大学生まで成長が止まらなかったことを鑑みるに、最終的に一体どうなるのか考えただけでも頭が痛い。

 こんなものこれ以上大きくなっても意味が無いのに。

 真剣に原因を考えたのだが、未だ不明のままである。


 これは余談だが、莉里の胸が大きくなっている原因はタイムリープ前よりも生活習慣が改善されたことが大きい。

 タイムリープ前はいじめられていたせいで、小学生の頃から精神的に不安定で寝れない日やご飯を食べれない日が多かった。

 だが、タイムリープ後は彩人と本人の頑張りのおかげでいじめが早めに終わり、健康的な生活を送れている。

 そのため、前よりスクスクと育っているわけだ。

 まとめると、彩人と出会ったせいである。


「べくし!」


 自分の影響でそんなことになっているとは知らない彩人は、遠く離れた浴場で大きなくしゃみをした。


「胸も凄いけど、こうしてみるとお尻も良い感じだね〜」

「そのくせ腰は細いし足はスラッとしてて美脚とか羨ましいわ」

「冷静に品評するのやめてくれるかな!?」

「「あびゃ!?」」


 不躾に自分のこと観察する朱李と紅羽に莉里はお湯を浴びせて、強制的にやめさせた。

 

「はぁ、もう私出るから!」


 本当はもうちょっと長く浸かっていたかったのだが、こんな状況ではノンビリすることは出来ない。

 浴槽のふちに置いていたタオルを持って、莉里は足早に浴場を後にした。


 その後、明日に何をするのか確認するミーティングが行われ、夜食用のパンとジュースが配布され解散。

 就寝となったのだが、莉里は昼間に一度睡眠を取ったせいか目が冴えてしまっていて中々寝付けないでいた。

 寝ないと明日に支障が出ると分かっているのだが、幾ら目を瞑っても駄目。

 仕方がないので、莉里は少し夜風に当たることにした。

 先生の目を盗んで、こっそりと。

 宿舎を出ると、空を眺めた。


 そこにあるのは雲一つない、満点の星空。

 普段は街の火にかき消されていて見えない星が、ここではよく見える。

 階段に腰掛け、自分の知っている星座を探す。


 北斗七星、こぐま、りゅう、やまねこ、うしかい、乙女。


 昔、彩人とキャンプに行った時教えて貰った星座を結構見つけることが出来て楽しい。


(また、教えてもらいたいな)


二人が一緒にキャンプに行ったのは、小学生の頃で結構時間が立っていることに今気がついた。

 そのせいか、無性に行きたくなり今年の夏休み辺りに久々に行こうかと計画する。


 虫が出て、暑くて寝苦しいキャンプをするには厳しい季節だけど。

 それもまた一興か。

 彩人とならば、きっと良い思い出に変わる。

 始まってすらいないのに不思議とそう確信できた。

 彼はそういう不思議な子なのだ。

 莉里の知らない世界、色々のないはずの世界を彩って見せてくれる。


「────」

「───」

「ん?誰の声?」


 だから、今日もそうだ。

 本来ならば灰色で燃やしてしまいたい記憶のキャンバスでさえも彼がいれば鮮やかに色づく。

 暗闇の中、誰かが話しているのが聞こえた。

 莉里はそれが誰なのか気になり、ひっそりと近付くとそこには項垂れる海とそれを見下ろす彩人がいた。

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る