第19話 改稿済み


「1+7=8

2+9=11

11+3=2

8+2=A

10+6=B

24+1=C

 A.B.Cに入る数字を出せ。さすれば真の答えが導き出せるだって。どういうことだと思う皆んな?」


 探索を始めて五十分が経った頃、莉里の班は最後の問題に辿り着いた。

 問題文を読み上げた紅羽は、答えが分からず全員に意見を求める。


「うーん。1+7=8だろ。なのになんで、11+3=2になるんだ?」

「……A10、B4、Cは1?」

「夢ちゃんので合ってると思うよ。凄いね」

「……えっへん。ようやく勝った」


 中山が口に出して悩んでいる中、夢があっという間に答えを出した。

 その圧倒的なスピードを莉里が称賛すると、ようやく莉里よりも答えに辿り着けたのが嬉しいのか誇らしげに胸を張る夢。

 その姿が微笑ましく、莉里は写真を撮りたい衝動に駆られたが生憎カメラはこの場にはない。

 なので、代わりに莉里は夢の頭を撫でると気持ちよさそうに夢は瞼を細める。

 猫みたいだなと夢の反応を見た莉里はそう思った。

 

「えぇ〜なんでそう思うの?まちちゃん教えて」


 答えを聞いても、他の班員達はピンと来ていないのか首を傾げており、莉里に助けを求めた。


「いいよ。ヒントはね時計だよ」

「時計でござるか?……あっ、なるほど!そういうことでござるか。これを一瞬で見抜くとは星野殿と街鐘殿は凄いでござるな」

「あ〜、14時は言い換えると午後2時だもんな。そういうことか。スッキリしたわ」

「ふぅ、全然そんくらい分かってたし〜?今回は星野を立てるためにわざと悩んでいるフリしてだけだし」

「負け惜しみは見苦しいぞ〜中山」

「うっせぇ!マジで今回は分かってたかんな」


 莉里が出したヒントによって、残り班員達も何故この答えになるのか理解しスッキリした顔をしている。

 中山も同様にスッキリした顔をしていたのだが、女子達の前で活躍できなかったのが悔しいのだろう。負け惜しみを口にする。

 紅羽と他の男子達は顔を見合わせ、やれやれと溜息を吐いた。

 

「……りり、真の答えは出した数字をさらに足したらいいの?」


 ふっと、手にあった柔らかな感触が消えいつの間にか横に立っていた夢が、莉里に自分の考えが合っているのか尋ねてきた。

 それは、まるで教師に答えを尋ねる時のように、莉里が答えを全て分かっていると確信しているようで。


(流石にあれだけ露骨に誘導してたらバレちゃうか)


今までの道中の出来事を振り返って、やり過ぎたかと莉里は反省した。

 過去に一度同じことをしている莉里は謎解きの答えを知っている。

 そのため、班員達が行き詰まった時遠回しなヒントを言って正解へ導いていた。


 全ては彩人との勝負に勝つために。

 勝って幼馴染の悔しがる顔がみたいがために。

 それだけのためだけに、莉里は知識反則技チートを使ったのだ。

 始まる前に勝負を仕掛けてきた彩人のことを幼稚と評したが、莉里自身もかなり幼稚な方だろう。


「多分そうだと思うよ。それで、全部を足したら出る数字は5。つまり、五番目に回った謎解きの答えが真の答えなんじゃないかな?」


 だが、やってしまったものは仕方ない。

 今更無かったことにするには手遅れ過ぎる。

 

 それでも、ここまで知らなかったという体でやってきている。

 素直に認められるのもおかしいので、莉里は自信なさげに答えた。


「……そう。じゃあ、もう終わりだ。疲れた、りりおんぶして」


莉里が最後までスタンスを崩すつもりがないと分かったのだろう。

 夢は言葉少なく話を打ち切ると、莉里におんぶをねだってきた。

 おそらく、黙っておいてやる代わりにそれくらいしろということらしい。


「えぇ〜、あともうちょっとだから頑張れない?」


 だが、それに素直に従うということは莉里が答えを知っていたことを認めるのと同義だ。

 最後までシラを切るつもりの莉里は夢の脅しに抵抗する。


「……無理。一歩も歩けない」

?」

「……慣れない山道は疲れた」

「そう?。それでも、疲れちゃった?」

「……言ってもいいの?」

「言う?言うって何を?」

「……むぅ、りりはいじわる」

「そんなことないと思うけどなぁ〜」


 水面下で行われた攻防の末、見事勝利を掴み取った莉里。

 悔しそうにむくれる夢に、莉里は気持ちの良い笑みを返した。


「なら、俺が運んでやろうか?野球部だし安定感抜群だぞ」


アピールする絶好のチャンスを見つけたとばかりに、二人の会話を聞いていた中山がおんぶする役を買って出てきた。


「……中山は臭そうだから嫌だ」

「さっきも言ったが、俺は手を洗って臭くねぇよ!?行けるって」


 が、夢は即座にそれを却下。

 中山は自分は綺麗だから問題ないと力説する。


「……でも、結構歩いて汗かいた」

「スンスン……。いや、そうでも──「ちょっと、間があったわね」──ちくしょぉーー!」


しかし、森の中を歩き回って汗をかいていると指摘され一度黙る中山。

 試しに自分の服を嗅いでみると固まった。

 だが、この機会を逃したくない中山は嘘を吐こうとしたが、あっさり紅羽に見破られてしまい大声を上げて地面を強く叩いた。

 

「何かあったの!?」

「……ッツ!?」


あまりの大声に、他のクラスの生徒達が何事かとやって来る。

 真っ先にこちらへ駆けつけて来た少年の顔を見た瞬間、莉里は目を大きく見開き静かに身体を震わせた。


「あぁ、大丈夫大丈夫。驚かせてごめんね。コイツが急に大声出しただけで何もないから」

「そうなの?なら、良かった」


 紅羽がやって来た生徒に事情を説明すると、少年は心底安堵したような顔を浮かべた後、莉里の方を見た。

 莉里は目が合う前にサッと顔を逸らした。

 そうでもしないと耐えられそうになかったから。


春樹はるき、毎度毎度一人で突っ走るのは危ないから止めるですよ!」

「……ッ!」


 俯いていると、聞き覚えのある懐かしい声が聞こえて莉里は微かに肩を跳ねさせ視線を声のした方向に向ける。

 そこには、ぴょこぴょこと頭の上にある大きなアホ毛を揺らしながら走ってくるかつての友人がいた。


「ごめんごめん。声を聞いたらつい身体が動いちゃって」

「全く。そこが春樹の良いところではあるですが。ほどほどにしないとなんて大惨事が起おこりかねないですよ。あの時は私がいたからなんとかなったものを。本当に反省してるですか!? 」

「……ハッ、ハッ、ハッ」

「申し訳ありません」


 その友人はこちらに着くやいなや説教を始め、少年は正座し申し訳なそうに肩を小さく縮こめる。


「そんなに責めないであげて?ただの勘違いで特に彼は危ないことしてないし」

「そうですか。ですが、ここで一回叱っておかないと春樹きっとまた同じことをやらかすです。なので、あっちに持って行って説教するです。お騒がせして悪かったです」

「そんなぁ〜。あっ、みなさん色々と気を付けてねぇ〜。最近何かと物騒だから」

「……ハッ、ハッ、ハッハッハッハッ」


 そんな状況を見かねた紅羽が助け舟を出すしたが、怒り心頭プンプン状態の友人がそれで止まるはずもなく。

 説教する場所を変えるため、こちらに一度ペコリと頭を下げ謝罪すると、片手でジャージの襟を掴み少年を引き摺って自分達の班の元に戻っていく。


「おえっ」


 台風のように現れ、一瞬で消えていった二人に取り残された紅羽達は呆然としてる中、 堪えきれなかった莉里は溜めていたものを吐き出した。








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