第18話 改稿済み
「ちょっと男子〜!遅いぞ〜」
集合場所で待つこと十数分。
ようやく、班員の男子達が姿を現した。
集合時間一分前ギリギリにやってきた男子達を紅羽は非難する。
「わりぃわりぃ。ちょっとうんこが長びいちまってさ」
「うわぁ〜引くわ〜」
その中にいた、坊主頭の少年が遅れた理由を説明すると、紅羽はその少年から距離を取り莉里の裏へ隠れた。
「なんだその反応は!?こちとら、しっかりウォシュレット使って念入りに拭いたし、手も貼られてる通りにしっかり洗ったからめっちゃ清潔だかんな。り」
まるで、汚物が目の前に現れた時のような対応に坊主頭の少年は怒りを露わにし、自分は綺麗だと力説する。
ただ、そうではない。伝えたいのはそういうことではないと心の中で莉里は思った。
「そこはどうでも良いのよ。いや、どうでも良くないか。洗ってなかったらもっとやばいから。そうじゃなくて、私が引いたのわ女子相手に躊躇なくうんこなんて汚い言葉使えたってこと。本気でモテる気あんの?ハッキリ言って今の所アンタ女子からの評価最底よ」
「グハッ!」
中山はモテたいと常日頃から公言していながら、本気でモテるつもりがあるのか疑わしい行動を取っている。
その言動と行動のチグハグさに紅羽は引いているのだ。
本当に女子からモテたいのなら女子相手に下品な言葉を使ったり、セクハラまがいの事を言ったり、エロ本を学校に持ち込んだり、女子から評価が下がるようなことはしないだろう。
くじ引きで班員になると分かった時、中山の評価を彩人に聞いたことがある。
幼馴染曰く、『エロい事しか考えていない馬鹿。でも、いざ付き合うと意外とピュア。友人に一人いると面白いタイプ』らしい。
「……嘘だ。嘘だ。女子達が俺を見つめるあの目は恍惚としていた。そんなことがあるはずない」
「そんな目してる奴いなかったろ?」
「……幻惑症状」
「中山殿はいつかやると思っていたでござる」
「何も危ないことしてるからな!?本当ですよ街鐘さん」
「あははは」
ピュアという部分はよく分からないが、班員達に弄られているところを見るにそれ以外は彩人が言っていた通りだ。
(でも、私は苦手かな)
決して悪い人間じゃないことは分かる。
確かに、いじられているのを側から見る分には面白い。
ただ、駄目だ。
欲望に忠実過ぎるが故に莉里を見つめる瞳がギラつき過ぎている。
この目を見ていると過去に出会った嫌な男達を思い出してしまう。
だから、彼と関わるのは必要最低限にしようと莉里は考えている。
「もう、中山!まちちゃんが困ってるでしょ!。今から説明始まるから黙って整列しなさい。並んでないのウチの班だけなんだから」
「イテテッ、引っ張るな。暴力的な女はモテないぞ」
「うっさい!アンタよりは絶対モテるわよ」
莉里が対応に困っているのを察したのか紅羽が、中山の耳を引っ張って後ろの方に連れていく。
(流石は紅羽ちゃんは頼りになるね)
離れていく背中を眺めながら、莉里は紅羽を班に誘った自分の判断は間違っていなかったと思った。
他の女子だったら、きっとあそこまで男子に強く出られないだろう。
人の懐に入るのが上手く、誰が相手だろうと自分の意思を真っ直ぐに表現出来る彼女だからこその為せること。
タイムリープ前、同じクラスになったことがあった莉里は紅羽がこういった場面で活躍するのを何度も見ていた。
だから、林間学校の班決めが行われた時、真っ先に彼女を誘ったのである。
唯一の誤算があるとすれば、事前に紅羽が夢と班を組むことを決めており、一番仲の良い朱李と班が組めなかったこと。
『そういうことなら、ウチが他の子達と組むから莉里っちはレハっちのところ行きなよ』
女子の班員は三人。
一人余ってしまった状況で、優しい朱李は空気を読んで自分が他の子達と組むと申し出ててくれたのだ。
一緒の班になろうと話していたのにも関わらず、こんなことになってしまって本当に申し訳なかった。
今度埋め合わせとして、彼女が好きそうなネイルをプレゼントしようと莉里は思っている。
彩人に関しては男子達から自分への誘いが殺到し、くじ引きになった時点で諦めているので特に何か思うことはない。
紅羽が中山を座らせ戻ってきたところで、担任の智恵が口を開いた。
「では、全員揃いましたので説明を始めたいと思います。皆さんにはこれから森の探索を行ってもらいます。といっても、無闇に山全体を探索するというわけではなく、この地図に記された六つの謎を見つけてもらうためです。それらをニ時間内に見つけ、解き明かしここに戻って来れないと夕食のカレーが具なしになるので皆さん頑張ってくださいね。というわけで、説明は以上です。一班から順に地図を受け取り次第出発してください。あっ、地図によって謎の場所が違うのでズルは出来ませんよ」
「マジか」
「えぇ、他の班とも協力してすぐ終わらせよう思っていたのに〜」
最後の一言で、楽をしようと考えていた生徒達が不満の声を上げた。
「ごめんなさい。でも、先生達先週の土日に頑張って準備したんですよ?なので、皆さんには苦労した分ちゃんと皆さんには楽しんで欲しいんです。では、一班の皆さん来てください。タイマーは六班が地図を受け取り次第開始します」
しかし、智恵が休日出勤して用意したと苦労話を語れば、「智恵ちゃんが俺たちのために頑張ってくれたっぽいし真面目にやるか〜」「二時間と言わず、一時間で戻ってきて智恵ちゃん驚かせちゃお」と不満を言っていた生徒達手の平を返した。
流石に、休みなしで自分達に頑張ってくれた人にクレームを付けるような鬼畜はこのクラスにはいないようだ。
生徒達は立ち上がり智恵に地図を貰いに集まる。
「うげっ、範囲思ったより広くね?」
「謎の位置も結構バラバラだ。時間以内に終わるかな?」
「急ぐぞ、お前ら。何としてもカレーの具を確保するぞ」
智恵から地図をもらうやいなや、あまりの範囲の広さに一班の生徒達は驚き駆け足気味に出発した。
「智恵ちゃん早くウチらにも頂戴!」
「俺らも!」
「あわわ、分かりましたから落ち着いてくださ〜い〜」
それを見て、本格的に今夜は具なしカレーになる可能性があると不安に思った生徒達が智恵の元に殺到する。
あまりの勢いに智恵があわあわと慌てふためいているのを見て、莉里は大変だなと苦笑を溢す。
「皆様急ぐでござる。カレーの具は何としても手に入れるでござるよ」
「くくっ、この時を待っていた。俺の天才的な頭脳を持ってすれば謎解きなど華麗に終わらせられる。そうなれば、女子達から評価は爆上がりだ」
「キャンプに行くと付いてくる虫は?」
「カブトムシ!」
「こりゃ駄目だ」
「……んっ、臭そうだしここに置いてく」
「おい、星野!さっきも説明したが俺は臭くねぇから。舐めたこと言ってると女子でも容赦しねぇぞ──ってて、何するんだ暴力女!?」
「時間厳しいっぽいんだから、こんなところで油売ってる暇ないの。黙って付いてきなさい」
他の班員達も追随し、地図を受け取ると森の中に入っていく。
「なぁ、莉里どっちが早く帰って来れるか勝負しようぜ?」
最後尾の莉里も足を踏み入れようとしたところで、声を掛けられる。
振り向いてみると、そこには見慣れた幼馴染の顔が。
後ろで班員達が地図を受け取っているのが見えたので、わざわざこれ言う為だけに追いかけてきたのだろう。
(高校生にもなって勝負とか馬鹿だなぁ)
幼稚なことを言う幼馴染だと莉里は思った。
たかが、レクリエーションの一つ。
しかも、これは生徒達の親睦を深めるのを目的としたもの。
制限時間時間内に戻ってこれさえすればそれだけで良いのだ。
競う必要なんて全くない。
「いいよ。勝ったら負けた方のお願いを一つだけ聞く。これでどう?」
「オーケー。絶対お前より早く帰ってきてやるから覚えてろよ。……何してやろうかな?」
でも、莉里はその勝負を受けることにした。
何故なら、絶対に負けないから。
一度この宝探しをこなしている莉里は、謎の位置は違っても出される問題が同じなことを知っている。
つまり、答えをすでに分かっているのだ。
負けようがない。
そうとも知らずに、自分が勝った時のことを考えながら戻っていく彩人に莉里はクスリと笑みを浮かべると、班員達の元へ急いだ。
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