第16話 改稿済み


「ここがワイ達の泊まる部屋やな」

「和室か」

「結構広いね」

「おっ、コンセントもちゃんとあるわ」

「じゃあ、お先に一個もらい。寝る前に充電するの忘れてバッテリー残量やばかったんだよ」

「あー、あるあるやわ。ワイもたまにやるで」


点呼を終えた彩人達は荷物を置くため、事前に割り振られている部屋に訪れた。

 部屋の広さは八畳くらいの和室。

 三人で寝る分にはかなり余裕がある。

 取り敢えず、靴を脱いで荷物を部屋の端に置くと彩人達は畳の上に座り込んだ。

 

「赤城か沖田は充電器持ってきてんの?」


ゴソゴソと、鞄からスマホの充電器を探しながら彩人は二人に問いを投げかける。


「持ってきてるよ。忘れてなければだけど」

「ワイは予備含めて二つや。一応モバイルバッテリーも持ってきとるで。備えあれば憂なしってな」


 海は少し自信なさげに、黒髪の肩まで伸びた長い髪を後ろで纏めている薄目の少年沖田 レイは当たり前のように彩人の問いに答える。


「へぇ、沖田って意外と真面目だよな。遅刻とか、忘れ物したりとか、サボったりとかしてるとこ見たことねぇ」

「意外ってなんやねん?ワイはこれでも中学校では無遅刻無欠席のレイちゃんって呼ばれとったんやで。彩人君失礼やわ〜 」

「悪い悪い、沖田ってなんていうかおちゃけた雰囲気があるからよ。真面目なところ見せられるとギャップが凄いんだわ」


 レイと初めて話した時、関西弁と軽快な話し方からおちゃらけた性格をしていると彩人は思っていた。

 が、より深く関わってみると細やかな気遣いや、教師の話をメモするなどマメ性格をしており最初に出来たイメージに反して、真面目な性格をしている。

 まだ付き合ってそこそこなため、未だそのギャップに慣れないと彩人が説明すると


「ホンマか!ほなら、ギャップ差でクラスの女子達はワイにメロメロやろな。ぐふふ、今夜誰かに告白されるかもしれへんわぁ〜」


 レイは上機嫌になり、女の子から告白されるかもしれないと調子の良いことを言い始めた。


「それは無いだろ。お前顔は普通だし」

「無慈悲な!そんなバッサリ切り捨てといてくれます彩人君!?ちょっとくらい夢見させてぇな」

「夢見がちな友人に現実を教えてやるのが友人だろ?」

「確かにそやけどさぁ〜。もうちょいタイミング選んでや」

「すまん。まぁ、今度莉里に女の子紹介してもらえるよう頼んでいてやるよ」

「ホンマか!?流石彩人君。あんなえらい別嬪さんな彼女持ちなだけありますなぁ」


落ち込んでいたレイに女の子を紹介すると彩人が言えば、勢いよく飛び上がり肩を組んでくると調子のいいことを言う。

 彩人と海はそんなレイに苦笑しつつ、賑やかで面白い人間だと思うのだった。


「勘違いされているが、俺と莉里は付き合ってないぞ。幼馴染だから仲は良いが、一緒にいることが多いのは単純に男避けだな。アイツ、昔色々あったせいで男のこと苦手なんだよ」


 レイが誤った認識をしていたので彩人は修正を入れた。

 色々な理由があるため、一緒にいることが多いのは確かだが莉里と彩人付き合ってはいない。

 あくまで仲の良い幼馴染の関係。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 きっと、莉里も同じ認識だろう。

 でなければ、この関係はこんな風に長続きしていないはずだ。


「そないな理由が。いつも仲睦まじしそうにしとるから、てっきり付き合ってるとばかり思っとりましたわ」

「普通に喋ってくれるから、僕も男子が苦手だって分からなかったな」

「アイツ隠すのと取り繕うのは上手いからな。しゃーねぇよ」


 そう言って、彩人はスマホの充電器をコンセントに挿しこんだ。

 ケーブルをスマホに挿し、充電が開始されたのを確認したところで立ち上がる。


「ヨシッ、荷物も置いたし食堂行こうぜ。朝寝坊しかけたせいで食ってないから実は腹減ってヤバかったんだよな」

「うん、バイキングってどんなのが出るのかな?」

「ハンバーグは確定だろ」

「ワイは串カツ食いたいわぁ〜」

「串カツは流石に無いんじゃないかなぁ」


 三人はそこから昼食についてグダグダと話しながら、部屋を出る。


「あっ、カメラ忘れてた」

「しっかり頼むぞ、写真部」

「海君ワイを撮る時は、最高に盛って撮るよう頼んます」

「女子かよ」


部屋を出てすぐ、海はカメラを持ってきていないことに気が付き慌てて部屋の中へ戻った。

 写真部の部員は林間学校などの学校行事が行われる際に、カメラマンとして働くことになっている。

 たった数人しかいない写真部員の一人である海がカメラを忘れると、数クラス分の写真が無くなってしまう。

 責任重大。

 海にら本当しっかりして欲しいと、軽口を叩くレイをあしらいながら彩人はそう思った。


「お待たせ」

「全然待ってあらへんから。気にせんでええで」

「レイとかは忘れ物ないか?鍵閉めるぞ」

「大丈夫やで。ほな、今度こそ行きましょか」

 

 忘れ物がないか再度確認を行い、鍵を閉めると三人は食堂に向かった。


「三組の皆さんはここに来てくださーい」

 

 食堂前に着くと、担任の智恵が少しズレた場所におり生徒達を集めているところだった。

 彩人達はそこに行くと班ごとに並ばされる。


「よっ、おまた。みなっち」

「よっ。五分前ピッタリだな」

「ふふん。こう見えてもウチ、スケジュール管理得意なんだよね」

 

 暫く時が経ち、彩人達と同じ班のメンバーである朱李とその他二名がやって来た。

 それに加えて、莉里もその後ろから他の女子と一緒に姿を現す。

 その瞬間、男子生徒達の視線が莉里に集まった。


「あの子めっちゃ可愛くね?」

「白百合さんや藍園ちゃん以外にもあんな綺麗な子が、別階の子か」

「彼氏いんのかな?」

「俺、朝に男と一緒に通学しているのを見たことあるぞ」

「もしかして、あのインキャみたいな見た目の奴か?」

「いや、違う。そこそこイケメンな男だったぞ」

「ソイツ幼馴染らしいから、彼氏じゃないって同じクラスの奴が言ってた」

「なら、ワンチャンあるか?」


 今まで莉里のことを見たことがなかった男子生徒達は、莉里の美貌を目の当たりにしてヒソヒソと話し始める。


(莉里と同じレベルがいるのか?この高校レベル高えな)


 彩人はその会話の一部を盗み聞きながら、莉里と同レベルの女子がいると知って静かに驚いた。

 生きてきた中で莉里と同レベルの美少女を彩人は見たことがなかったからだ。

 だから、同年代には莉里クラスの美少女は居ないと思っていたのだが、それは間違っていたらしい。

 彩人が思っていた以上に世界は広いらしい。

 少しだけ、莉里と同格に扱われる少女達のことが気になった。

 ただ、それと同時に莉里を狙う男の数は予想していたよりも少なくなりそうだとも思った。

 同じレベルの美少女が複数人いるのならば、男達の狙いと分散すると考えたからだ。


「あのおっぱいやばくね」

「高校生がして良い身体じゃねぇだろ」

「エロ過ぎんだろ。この学校で一番肉付きやべぇ」


(やっぱ、そうでもないかも)


 しかし、その後の話を聞くに早計だったかもしれないとこの考えを保留した。

 

「彩人君、行くで」

「おぉ、分かった」


考え事をしていて上の空だった彩人はレイに呼ばれて、自分達のクラスが食堂に入って行っていることに気が付き足早に後を追うのだった。

 

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