第15話 改稿済み


「うっぷ。……スゥーー。あぁ、空気うめぇーーー!最高」

「おぉ、すごい元気になったね水無月君」


 人里離れた山奥。

 彩人達は林間学校で使う宿泊施設に到着した。

 長時間バスに乗ってグロッキー状態だった彩人は、久々に外の新鮮な空気を吸えてご満悦。

 先程まで顔を青くし吐きそうだったのが嘘のように元気を取り戻した。

 そんな彩人を遅れたバスを出てきた莉里は幼馴染のそんな様子に、相変わらずだなと思って見つめていた。


 子供の頃から彩人はずっとこうなのだ。

 風邪や車酔いなどで、最初は苦しそうなのにも関わらず、ある時を境に超回復し元気になっている。


「みなっち。テンションの落差凄いね。どうなってんの?あれ」

「私にも分かんない」


 一個隣の先から顔面蒼白の彩人を見ていた朱李から、どう言ったカラクリなのかと聞かれたがお生憎様莉里にも分からない。

 長い付き合いの莉里ですらあの超回復は未だに謎だ。

 いつか解剖してみるといいかもしれない。

 そうなれば、きっと新種の細胞が発見されるだろう。


「よし、早速部屋見に行こうぜ!」

「ちょ、その前に宿舎前で集合だよ!」

「あっ、そうだった」


 気分が高揚した彩人は荷物を持って宿舎の奥に入って行こうとしたが、慌てて海がそれを諌める。

 「悪い悪い」と、軽い調子で謝りながら戻ってくる彩人を見て、莉里と朱李は顔を見合わせ、互いに肩を竦めると二人の後に続いて歩き出した。

 

 少し歩いて、辿り着いたのは集合場所の宿舎前。

 別のバスに乗っていた他クラスの生徒達も集まっており、中々の人数だ。


ドンッ。


「あっ、ごめんなさい。はい、これ」


 人波をかき分けながら進んでいると、莉里は誰かと肩がぶつかった。

 その際、当たった男子生徒が持っていたペットボトルが落ちる。

 莉里は慌ててそれを拾うと、謝罪と共に男子生徒へ渡した。


「……。ハッ、いいよ。気にしてないから。これだけ人が多いと仕方ないよね」


莉里の美貌に見惚れていたのか、焦茶色の天パ少年は少しの間惚けたような顔をする。

 その後、元に戻った男子は顔を朱色に染めながらも愛想の良い笑みを浮かべ水を受け取った。

 

「そう言ってもらえると助かるな。今度からもっと気を付けないと。じゃあ、ここで私は失礼するね。ぶつかっちゃって本当にごめん」

「うん。あ、あのさ」


莉里は再度少年に謝罪の言葉を言いその場を離れようとしたが、呼び止められ振り返った。


「何かな?」


 不思議そうに首を傾げる莉里は可愛らしく、少年は鼓動が早まっていくのがより強く感じる。

 やけにうるさい心臓を諌めるように、大きく息を吸うと少年はこう言った。


「君の名前は?」

「街鐘ですけど」

「街鐘さんか、素敵な名前だね。クラスは?」

「三組です」

「そっか、僕四組だから。もしかしたら、何かしらのイベントで合うかも。その時はよろしくね」

「ご縁があれば」

「うん!」


 感触の良い返答が莉里から帰ってきて、内心ガッツポーズを取る男子少年。

 だが、彼はこの時舞い上がってきて気が付いていなかった。


 莉里の答えがドンドン素っ気なくなっていることを。

 彼女にあった柔らかな雰囲気が無くなり、硬く無機質なものになっていることを。

 歩くスピードが先程よりも速くなっていることを。


 気が付くことなく、少年は去っていく莉里の姿を眺め続けた。


「おい、お前さっきの美少女はなんだ? 」

「お前だけ抜け駆けしてズルいぞ」

「そんなじゃないって、社交辞令だよ」


そこへ、横にいた友人と後から合流したもう一人の友人がさっきのやりとりは何だと詰め寄るのだった。



 

「おっ、ようやく来た。遅いぞ、莉里」

「莉里っち、なんかあったの?」


先に担任の智恵の元に辿り着いていた幼馴染と友人が莉里を出迎える。


「ごめんごめん。ちょっと人とぶつかっちゃってさ」

「ったく、ちゃんと前見て歩けよな」

「はいはい、気を付けまーす」

「意外と莉里っちっておっちょこちょい? 」

「そんなことないと思うけど、どうだろ?」


 彩人にはおざなりに、朱李には丁寧に返事をすると莉里は重い荷物を下ろし幼馴染の前に座った。


「……どうせナンパでもされたんだろ? 」


 座ったところで、彩人が莉里にだけ聞こえる声でそう尋ねた。

 まるで、全てを見透かしているかのような問いかけに、莉里は彩人の方へ訝しげな目を向ける。


「……何で分かるの?」


 入学式の日のように、また何処かで傍観していたのではないか?

 そんな疑いが莉里の頭に浮かぶ。

 だとしたら、何か仕返しをしてやろうと莉里が考えていると彩人が口を開いた。


「まぁ、雰囲気だな。ちょっといつもより硬かったのと、こっち来るまでの歩くスピードが早めだったとか、その辺見て何となく」


 莉里の様子を観察して、何があったのか当たりをつけたと説明する彩人。


「……ふーん、そっ。なら、いいけど」

 

 説明を聞き、傍観をしていたわけではないと理解した莉里は視線を逸らし、見えない場所で毛先をクルクルと指で遊ばせる。


「皆さん全員揃いましたか?点呼を取りますので動かないでください」

「……次からは助けてよね」

「……へいへい、俺の目の届く範囲にいたらな」


 彩人は莉里からのお願いに気の抜けた返事返し、喋り出した智恵の方へ視線を向けるのだった。




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