第33話


 彩人と莉里が遊んでから二日が経ち、彩人は中学の同級生達と集まる日になった。

 昼の十三時からカラオケに行くとのことで、朝の間は暇だった。

 そのためデュエルリンク〇のランクマッチを回しながら、ちょくちょく莉里から送られて来る旅行中の写真に返信をしつつ時間を潰した。


 十二時を過ぎたところで、彩人はイソイソと寝巻きから外用の服に着替えることにした。

 莉里やその他の女子と遊ぶ際は服装に気をつけるのだが、今日は男が相手だ。

 別に服装を気にする必要性もない。

 適当にジーンズとパーカーを引っ張り出し、それに着替える。

 部屋を出て、矢花が用意してくれた昼食を食べると彩人は家を発った。

 普段は使わない自転車に乗り隣町を目指す。


 彩人の住んでいる町には娯楽施設があまりなく、あるのは公園とカードショップ。スーパーの横にある小さなゲームセンターくらいしかない。

 そのため、この近辺に住んでいる子供達はカラオケやボーリング、ショッピングをするとなると隣の栄えた町まで行くことが多いのだ。


 えっちら、おっちら自転車を漕ぐこと二十分。

 目的地であるカラオケに着いた。自転車置き場に回ると、既に友人達は来ていた。


「おっす。久しぶりだな。お前ら」

「久しぶり、彩人」

「お久しぶり、彩人君。元気そうで何よりだよ」

「お久しぶりじゃん。ミナミナ」


自転車を停め、友人達に声を掛けると来ている三人は温かく出迎えてくれた。

 一番最初に声を出したのが、インテリメガネの角野かどの拓人たくと。学校で一番頭が良く受験シーズン勉強を教えてくれた彩人の恩人でもある。アニオタ。

 二番目が、姫野 あかり。背が小さく童顔なためよく女の子に間違われる。普段は割と女の子のように弱々しいが、元ヤンの父親の血が騒ぐのかキレると手が付けられない。そのことから、中学時代は『狂犬』と言われていた。

 三人目は津田つだ 聖十郎せいじゅうろう。厳格そうな名前に反してとてもチャラいが友人は大切にするタイプ。明らかに髪を染めているのにも関わらず、地毛と言って三年間押し通したある意味猛者。実はテニス部の元部長でこの中で一番テニスが上手い。


 これが、今日遊ぶメンバーの三人。中学時代一緒にテニス部で練習していた友達だ。


「早すぎね?お前ら。俺が一番遅いとか初めてだぞ」


 四人で遊ぶことは過去に何度もあったが、大抵拓人と聖十郎が遅れて来るので、この光景は大変珍しい。


「いやぁ、ミナミナと拓造に久々会えると思ったらいてもたっても居られなくってさ。珍しく早めに出たんよ」

「僕も同じ。聖十郎君は一緒の高校で普段から会えるけど、彩人君と拓人君は別々で中々会えないからね。早く来て一杯お喋りしたかったんだ」

「俺はアニメイ〇でギリギリまで時間を潰そうと思ったら、二人に見つかって連行された。くそッ、こいつらのせいで楓たんのグッズを買いそびれてしまった」

「そうなのか。何かお前らにそんなこと言われのなんかキモいな。拓人はカラオケ終わったら俺とメイト行こうぜ。俺もちょうど漫画買おうと思ってたんだ」


 会うのを楽しみにしてくれていたのは嬉しいが、男に言われても何も嬉しくない。

 バッサリと切り捨てた後、不憫に連れ去られてしまった拓人にはフォローを入れておく。


「ちょっとミナミナそれは酷くなーい?」

「辛辣過ぎるよ」

「おぉ、流石彩人。心の友よ。分かってるな」


 罵倒された二人は文句を垂れつつ、フォローされた一人は笑みを浮かべ、ワイワイと騒ぎながら四人は店内に入っていくのだった。


 ドリンクバー付きのフリータイムにして、広めの部屋に回されたところでカラオケスタート。


「プイキューア、プイキューア!」


 トップバッターの拓人がプイキュアのアニソンを熱唱している横で、残りの三人はここ最近何をしていたかについて話し始めた。


「ミナミナは学校生活どんな?」

「普通だな。新しく出来た友人と遊んだり、駄弁ったりしてる」


 聖十郎から真っ先に尋ねられた彩人はあったことをそのまま伝える。

 面白みのないものになってしまったが、仕方ない特別なことは何も無かったのだから。


「そうなんだ。順調そうで何より。彩人君のクラス同じ中学の子居ないって聞いてたから心配だったんだよね」

「アカリンは心配性だよなぁ。ミナミナのコミュ力なら余裕っていったじゃん。どうせ、入学式の日に一人くらい作ったんしょ?」

「何で分かんだよ。聖十郎、お前もしかして俺のことストーキングしてたな」

「うわぁ。聖十郎君知ってる?彩人君は巨乳な女の子がタイプなんだよ」

「何二人とと引いてんの!?俺はストーキングなんてしてねぇし、男好きでもないって。俺の好みは人妻っしょ」

「「うわぁ〜」」


 二人の誤解を解こうと弁明する聖十郎。

 だが、最後の最後に特大の爆弾発言をして結局彩人と燈は引いた。


 その後「あくまで好み。実際に手は出すわけないじゃん!」と、聖十郎は言っていたが二人は信じない。

 何故なら、人妻が好みと言っていた時の目がマジだったからだ。

 拓人の歌が終わったので、次は燈の番になりメンバーが入れ替わる。


 「何を話してたんだ?」


 戻って来た拓人にどんな話をしていたのか聞かれ、彩人は「将来、結婚したら聖十郎とは縁を切ろうなって話」と教えた。


「そうなのか。じゃあ、俺も切ろう」

「酷すぎない皆んな!?」

「俺は本気だ」

「そこは冗談って言ってくれない?拓造」


 半泣きになる聖十郎を見て、「すまんすまん」と謝る二人。彼は反応がいいからついつい揶揄ってしまうのだ。


「結婚で思い出したが、彩人。お前幼馴染には告ったのか?」

「ぷっ!?」


このまま聖十郎を弄り続けて、自分は安全地帯にずっと居るだろうと油断し切っていた彩人は、急な流れ弾が飛んできて思わず吹き出してしまった。


「えっ、なになに?もしかして、ミナミナついに彼女出来たの」

「出来てねぇよ。そもそも、俺に好きなやつはいねぇ」

「そうなのか?可愛い幼馴染と一緒の高校に行きたいから勉強するって言ってたから、てっきり受かったら告白するものだとばかり思ってたんだが」

「思い違いだ」


 確かに拓人から勉強を教わる時そんな感じで頼み込んだのは事実だが、好きとか告白するとかは一言も言っていない。

 彩人は即座に拓人の勘違いを解く。


「すまん。そのようだな。頼む時の態度が真剣だったからな。そう思ってしまった」

「えぇ〜でも、ミナミナが女の子のことを可愛いとか滅多に言わないから、脈なしってことはないんじゃない?拓造、思い出してみろよ。彩人が女子を褒める時になんて言ってたか」

 

 納得しかけた拓人だが、聖十郎から待ったが入り中学時代彩人がなんて言っていたかを思い出す。


『悪くないな』

『もうちょっとお洒落に気を遣ったら化けるだろうな』

『いいんじゃね』


 確かに思い返すと見ると、可愛いとか綺麗だというストレートな表現を彩人が同中の女子に使っているところを見た記憶がない。

 対して、幼馴染の少女について話す時は確かに使っていたような気がする。


「たしかし」

「だろぉ〜?絶対ミナミナ幼馴染のこと好きだって」

「マジでお前ら変な勘繰りは止めろ。俺はアイツのことを恋愛対象として見てねぇから」

「なになに。ちょっと聞こえたけど面白そうな話してるね〜?」


ぎゃぎゃー騒いでいると、短い曲を選択していた燈が戻って来てしまった。

 この状況は不味い。

 燈はこの手の話が大好物だ。混ざられると色々根掘り葉掘り聞かれて面倒なことになる。

 

 彩人はタッチパネルの操作をして、曲の順番を入れ替え無理矢理自分の番にした。


「次俺の番だから。この話終わりな」

「逃げた」

「逃げたな」

「逃げたね」


 それを見た三人は都合が悪くなると逃げるのは相変わらずだなと溜息を吐いた。


 

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