第32話
「そう言えば明日からゴールデンウィークだね」
「ゴールデンウィークだなぁ」
入学式や林間学校と言った多くの行事があった四月は瞬く間に終わっており、気が付けばもう五月になっていた。
そして、今日が終われば明日から五連休。
ゴールデンウィークに突入する。
「ゴールデンウィーク何するつもりなの?」
「特に決めてないな。さて、何すっかな?」
あっという間に時が過ぎていったせいか、彩人は明日からゴールデンウィークだということをすっかり忘れていた。
なので、当然予定は何もない。すっからかんである。
莉里に何をするのかと質問されて、ようやく何かするかと考え始めた。
「あっ、そういえば『遊戯○』の映画今やってるんだっけ。しかもカードが貰えるらしいし一回観に行くかな。今何貰えるんだろ?調べよ」
「いいんじゃない。『遊戯○』私は分からないから行けないけど」
「まぁ、女が見るもんじゃないしな。一人でいく──は?今配られてるカードが高過ぎて売ったら、チケット代の五倍くらい返ってくるのか。なぁ、莉里。錬金術しにいかね?一日中映画を見るだけで金が稼げるぞ」
「行かないよ。何で映画見ただけでお金が増えるようになってんのさ。意味わかんない」
「それは多分皆んな思ってる」
どう考えても、映画のチケット代の数倍高く売れるのはヤバい。
だが、これは嘘とか怪しい話ではなく本当の話。
どのカードショップが出している買取表を見ても、五千円から六千円買取するって書いてあるのだ。
まぁ、先程莉里への提案は冗談で本気でカードを売るつもりはないのだけど。
彩人は取り敢えずこの映画を観に行くことに決めた。
「で、そっちは何するつもりなんだ?」
自分の予定についてはある程度話したので、今度は莉里の予定について尋ねる。
「お父さんとお母さんと明後日大阪に二泊三日の旅行に行く予定」
「めっちゃ充実してんな」
話を聞くとどうやら莉里は彩人と違って大型連休らしい用事があるようだ。
キャンプは毎年行っているが、他県への旅行など片手で数えられるくらいしか行ったことのない彩人は素直に羨ましいと思った。
「でしょ?まぁ、でもそれくらい。明日と最終日は何の予定もない入ってないね」
「クラスの友達となんかしたらどうだ?」
「先週朱利ちゃんとショッピングに行ったばかりだから、今週はそういうのいいかな」
「ふーん。じゃっ、明日どっか久々に身体動かしに行くか?」
「いいね!」
彩人の方から遊びに行くかと提案すれば、莉里はすぐに賛成する。
というわけで、ゴールデンウィーク初日に二人は運動をして遊ぶこととなった。
◇
次の日。
彩人は普段の私服とは打って変わって、上下ジャージを身に纏った状態で電車に乗っていた。
莉里を迎えに行くためだ。
ジャージなんて体育の授業や朝のランニングくらいにしか着ないので、若干の違和感を感じる。
だが、中学時代大会があった時は今日のようにジャージ姿で電車に乗っていたので変だと思うことはない。
ただ、昔のことを思い出して少し懐かしくなりはした。
(アイツら、そういえば元気してんのかな?)
ふと、最近連絡の取っていなかった友人達の様子が気になりメッセージを飛ばしてみる。
返信は思ったよりも早く返ってきてその殆どが特に問題なく普通に高校生活を送っているとのこと。
昔話に花を咲かせていると、久々に皆んなで会わないかということになり、動いていなかったグループが久々に動き出す。
そのままあれよあれよと話が進み、彩人は二日後に中学の友人達と遊ぶことになった。
大人数で遊ぶのは久々なので割と彩人は楽しみにしている。
『〇〇駅に到着しました。乗り降りのお客様は足元にお気をつけてください』
「もう着いたのか」
中学時代の友人達とのやりとりは楽しく、気が付けば莉里の待っている駅に着いていた。
彩人はスマホをポッケにしまい、足早に電車を降りる。
そして、慣れた足取りでいつも莉里が待っているベンチへ向かった。
「おっす、おはよう」
「おっす〜。おはよう彩人」
いつもの場所に行くと、タッタッとスマホを弄っている莉里を発見。
声を掛けると、顔をこちらに向け返事を返してくる。
そして、手早く指を動かして何かを打ち込むとスマホをしまい立ち上がった。
今日の服装は彩人と同じで白と黄色のラインが入ったジャージ上下。髪の毛を後ろで一本にまとめていて、いつもとかなり雰囲気が違った。
けれど、決して似合っていないというわけではなく、莉里は華麗にジャージすらも着こなしていた。
「ん?何かいつもより表情が柔らかいね。何かいいことあったの?」
「あぁ、ついさっきゴールデンウィークに中学時代の友達と遊ぶことになってな。久々に会えるから楽しみだ」
そんなにいつもと変わっているだろうか?と口に手を当ててみたが自分では分からない。
でも、莉里に指摘された通りがあったのは本当なので先程あったことを話した。
自分でも気付かない細かな変化に気付くのは流石幼馴染というべきか。
(長年一緒にいるとこういうのも分かるもんなんだな)
と感心している彩人だが、実は自分の方がよっぽど莉里の機微に敏感なことに自覚がない。
意地っ張りで面倒くさい莉里のして欲しいことを察せられるのは彩人くらいである。
「へぇ〜、良かったじゃん」
「お前も今度集まってみろよ?中学校の奴と最近会ってないだろ」
「そうだね。言われてみると久々に会いたい子が何人かいるし誘ってみるね」
そのまま二人は談笑に花を咲かせながら、駅のホームを出る。
今日は二人で電車には乗らない。
向かう先は駅の近くにあるスポーツセンターである。
本日はそのスポーツセンターで、バドミントンや卓球、バスケなどをして遊ぶのだ。
「着いたら何する?」
道中、彩人がスポーツセンターに着いたら何をしたいのか莉里に聞いた。
「うーん、バドミントンかな。卓球はなんていうか私達下手すぎて泥試合になるから、最初にやるのはちょっとね」
「確かに、後クラブの爺ちゃん婆ちゃん達上手すぎて浮くもんな」
「うんうん。バドミントンなら私達みたいなの多いから。気楽に楽しめるからね」
「りょーかい。だが、後で後悔するなよ。今回の俺は動画を見てきたから一味違うぜ」
「はんっ!それは私も同じ。ボコボコにされて泣かないでよ」
二人はそう言って、バチバチと火花を散らしあいスポーツセンターに着くやいなや、負けた方がジュース奢りというルールで試合を始めた。
「オラッ!」
激しい撃ち合いの末、莉里がミスをしてシャトルが高く打ち上げてしまった。
彩人がそんな好機を逃すはずもなく、渾身のスマッシュを放つ。
「それ、コースバレバレ!」
だが、結構な時間二人はバトミントンをしているため、お互いの癖が読めている。
例えば、彩人は自分が有利な時は打つ前に見た方向と逆方向に打つとか。
その癖を知っていた莉里は何とか着地点に駆け込みスマッシュを返した。
高いロブとなり、彩人の背を大きく越す。
「こんにゃろ!」
普通なら決まるところだが、彩人の運動神経はずば抜けている。
後ろへ全力で駆け出し、ギリギリのところで何とか返す。
が、苦し紛れに返したシャトルはさっきで同じように大きく打ち上がり、今度は莉里のチャンスとなる。
こういった時、莉里は敢えてスマッシュを打たずヘアピン。手前に落とすショットを選択することを彩人は知っている。
だから、彩人は急いで手前駆け出そうとして…途中で止まった。
すると、目の前にスマッシュボールが飛んできて彩人はそれを打ち返す。
まさかスマッシュを完全に読まれていると思わず、莉里は驚愕に目を見開き地面に落ちたシャトルを漠然と眺めるのだった。
これで、試合終了。
ゲーム二対一で彩人の勝利だ。
本来ならここで、勝利者らしく喜びたいのだが激戦でかなりのロングゲームとなったため、喜ぶ元気もない。
二人はパタンッと同時にその場に倒れ伏した。
「フー、フー」
「はぁー、はぁー」
暫くの間、息を整えることに注力しある程度楽になったところで彩人は起き上がり、莉里の元に向かった。
「俺の勝ちだな」
上から莉里の顔を覗き込み、満面の笑みでそう告げる彩人。
「そうだね。でも、ここまで接戦だとあんま悔しさとか湧かないや」
対して、莉里は清々しい顔で負けを認める。
「じゃあ、約束通りジュース一本な」
「はいはい、分かりました。あっ、立つの手伝って」
「ったく、世話の焼ける奴だな」
敗者である莉里は事前に決めていた通り、彩人にジュースを奢るため立ちあがろうとした。
が、思った以上に余力が残っておらず、彩人に腕を引っ張ってもらい何とか立ち上がる。
荷物を置いていたコートの端へ行き、財布とタオルを取り出すと自販機に向かう。
「何飲む?」
五百円玉を自販機に入れたところで、莉里は彩人に何を飲みたいかリクエストを聞いた。
「アクエ〇」
勝ったら高いエナジードリンクでも奢らせようと思っていたが、身体が水分を欲しており無難にスポーツ飲料を頼んだ。
「ほいっ」
「あざっーす」
莉里は返事を返すこともなく、アクエ〇を二本買うと片方を彩人に向かって投げた。
彩人は何なくそれをキャッチをすると、蓋を開け一気に半分程飲んだ。
「ぷはぁ〜〜。うめぇ〜」
「運動終わりは沁みるね〜」
運動終わりのスポーツドリンクの何と甘露なことか、二人してスポーツドリンクの美味さを讃えた。
「この後何する?」
「思ったよりも疲れたから、バスケはもう無理」
「俺も。お前明日旅行なんだろ?あんま疲れてても良くねぇし。今日のところは飯食って帰るか」
「そうしてくれると助かります」
思った以上に疲労困憊になってしまった二人は、僅か一時間ちょっとでスポーツセンターを後にし、近くのマッ〇でハンバーガーを食べて解散した。
「ん?」
彩人と別れて一人で家に帰っていると、ふと違和感を感じた莉里は後ろを咄嗟に振り返る。
だが、後ろには誰の姿もなく莉里は自分の勘違いだろうと自分に言い聞かせた。
だって、前の人生で自分のことをストーキングしてきた男はもう居ない。
彼は幼馴染の少年によって変えられたのだから。
あの気弱な男にもうそんなことをする度胸はない。
だから、大丈夫。
私をストーキングするような男はもういない。
この時少女は何の迷いもなくそう思っていた。
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