第30話
「なぁ、水無月。最近話題の西園って奴知ってるか?」
「いや、知らん。何したんだ、そいつ?」
とある昼休み。
新しく出来た友人である中山と赤城弁当を食べていると、不意に全く聞き覚えのない名前について知っているか聞かれ彩人は首を横に振った。
「陰キャみたいな見た目をしている癖に、何故か学校で話題の美少女達と仲がいいらしい。クソッ、羨ましい。妬ましい!何で陰キャがモテて俺がモテないんだ!」
「ふーん」
「そうなんだ」
「興味なさそうだな!?お前ら。チン◯ついてるのか?」
「そういう下ネタを何の躊躇いもなく出すから中山はモテないんだよ」
「アハハハ」
彩人のいう通り昼食中に下ネタを大声で言う中山を見て、女子達は引いている。
男子達も一部引いていおり、相変わらずだなと海も乾いた笑い声を洩らす。
確かに、同性の彩人でも流石にこんな公共の場で下ネタを言うような奴と付き合いたいとは思わない。
友達に一人いたら面白いよなとは思うけれど。
「ぐふっ、正論がキツイ。だが、流石の水無月も美少女達に囲まれるのは羨ましく思うだろう」
「まぁ、思わなくもないが。実際されるのは嫌だな。四六時中囲まれてたら同性の友達と遊んだり出来ねぇじゃん」
彩人も男だ。
美少女達に囲まれたいという欲求は人並みにはある。
だが、それで同性の友達と遊べなくなってしまうのは嫌だった。
異性相手だと、馬鹿みたいな下ネタで盛り上がれないし、色々気を遣わなければならない。
なにより、自分以外全員女となればきっと肩身の狭い思いをする。
そんな窮屈な生活、彩人に耐えられない。
だから、ハーレム願望はあれど実際にしたいかと言われれば迷わずNoだ。
「かぁー、枯れてんねぇ。俺達高校生。まだまだガキだ。少しくらい夢を見ようぜ」
「僕は遠慮しとくよ」
「嫌だ。夢を見るのは自由だが、それを抱いて溺死したくない」
「取り消せよ、その言葉。誰が泥舟だってえぇーーー!?」
「…そう思うんなら諦めろよ」
自覚があるのなら止めればいいのに。
だが、男というものは馬鹿な生き物でそう簡単に諦めることが出来ないことも分かっている。
なので、彩人と赤城はそれ以上何かをいうことはなく、弁当を食べ進めた。
「クソッ。余裕ぶりやがって。良いよなぁ、お前は街鐘さんがいるから」
「何でアイツの名前が出るんだよ。何回も言ってるがアイツと俺は幼馴染の関係だ。それ以上でも以下でもねぇよ」
いつものように幼馴染を引き合いに出された彩人はうんざりした顔でそれを否定する。
「本当か〜?の割にはお前ら仲良すぎんだろ」
「普通だろ」
「普通は幼馴染といえど一緒に登校しねぇよ!なっ、赤城」
「う、うん。まぁ、あまりないかもね」
「そんなこと言われても、別々に行くと莉里が痴漢されるからな。しゃーねぇだろ」
身内贔屓なしに幼馴染の莉里は美少女だ。
ちょっと目を離すとナンパされたり、痴漢されそうになっている。
柔道を習っているため莉里自身はそう言ったものから自衛することは出来るが、精神的にはくるものがあるはずだ。そもそもされない方がいいに決まっている。
だから、事前対策として彩人が男避けとして一緒にいるのだ。
まぁ、莉里と話しながら学校に行くのは楽しいので、実はそのついでみたいなものだが。
これを言うと面倒臭くなりそうなので、黙っておく。
絶対、後で莉里が揶揄ってくるだろうから。
「まぁ、街鐘さんすげぇ美人だもんな。そういうことなら納得は出来るが…」
彩人の説明を聞いて中山は一応は納得したが、すぐにとあるものを指差し「これはどう説明するんだ?」とまるで尋問官のように問い詰めてきた。
現在、彼が指差しているのはお弁当。
塩昆布の乗った白米に、野菜炒めと鮭の塩焼きとネギ入りのだし巻き卵。
和を意識した綺麗なお弁当。
これは、彩人の母が作った…ものではなく幼馴染の少女が自分のために作ってくれた物だ。
味に関しては見た目から見て分かる通り、文句なし。
事あるごとに感想を莉里が求めてくるので、最近は実の母親の弁当よりも彩人好みになっている。
「昼飯が足りないって話したら、何か作ってくれるようになった」
「何かって何だよ!?好きでもない奴にお弁当作ってくるとか流石にあり得ねぇから」
「漫画では結構見かけるが」
「それはフィクションだからな!」
(うん。まぁ、これは言われても仕方ないよな)
受け取った弁当を見ながら、これは疑われても仕方ないと彩人は苦笑した。
だが、実際莉里から恋愛的な意味の好意を感じたことはないのだ。
友情とか親愛的なものは結構あるのだが、恋愛的なものとなると思い当たる限り一つもない。
だから、あの幼馴染は彩人のことを異性としてでなく家族とかそういう風に思っているはず。
このお弁当もお姉ちゃんが、お腹を空かせている弟に仕方なく作ってあげているみたいな感じだろう。
でも、これは長い付き合いのある彩人だから言えること。
その他の人間にはいくら言っても理解されないだろう。
「まぁ、俺と莉里は例外なんだよ」
そう言って、無理矢理話を終わらせると彩人は母の作った弁当を平らげ、莉里の作った弁当に手を伸ばした。
◇
「彩人ってハーレム願望あるの?」
駅のホームにてスマホアプリで、ラブコメの漫画を読んでいると急に莉里がそんなことを聞いてきた。
「俺も男だからな。一応あるぞ」
彩人は画面から目を離すことなく淡々と答える。
「へぇー。彩人は可愛い女の子にチヤホヤされたいって思うんだ」
すると、莉里の声色が急に平坦になった。
何か気に触ることを言っただろうか?
だが、思い当たる限り変な事は言っていない。
彩人は莉里の方を顔色を伺うが、いつになく綺麗な作り笑いで蓋をされていて何を考えているか判別がつかない。
「まぁ、それが普通だろ。でも、実際したいかと言われればしたくはないが」
「どうして!?」
莉里の問いに対し、思っていることを口にすると今度は嬉しそうに声を弾ませて聞き返してくる。
(今日の莉里はよく分からないな)
急にテンションが落ち込んだり、上がったり
いつになく情緒不安定な幼馴染に彩人は困惑状態。
しかし、そんな状況でも一応彼女からの問いかけにはきちんと答えた。
「ハーレムってさ。ずっと女の子に囲まれてるわけだろ。男一人に女複数の状況がずっと続くのキツいし、その子達のことをいつも気に掛けなきゃならない。でも、俺はそんな器用な人間じゃないから。一人を相手にするので手一杯になるだろうし、まぁ、なんて言うか日本は一夫一妻。ハーレムなんて不可能だ。だから、必然的に一人以外のその他が不幸になるわけだ。それが嫌だから俺はハーレムとかはしたくない。まっ、そもそも俺は誰かに告白されたことも言い寄られたこともないんだけど」
長々と理由を語ったが、所詮はモテない男子の戯言だ。
説得力もクソないだろう。
だから、笑えばいいと自虐の笑みを浮かべる彩人。
そんな彩人に対し、莉里は笑うことなく何故かホッと息を吐いた。
「そっか。うん、彩人の癖にちゃんと自分の身の程を分かってて偉いね。彩人は一人だけで限界だもんね」
「事実は事実なんだが、他人に言われるとクソ腹立つな」
バシバシと肩を叩き煽ってくる莉里。
(本当。今日のコイツはよく分かんねぇ)
結局何が彼女の琴線に触れたのか分からないまま。
莉里に振り回されて終わってしまった。
でも、彼女が嬉しそうにしているからきっとこれで良かったのだろう。
彩人はそんなことを思いながら、再びスマホの方へ視線を戻した。
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