第12話 改稿済み


 紗夜乃に連れられて二人がやって来たのは校庭の少し奥。

 あまり人気ひとけのない場所だった。

 だが、視線を少し動かせば花壇やグラウンド、楽器を鳴らしている吹奏楽部の姿など学園の様々な場所を見渡せる。

 写真を撮るにはうってつけの場所。

 こんな場所があるのかと、彩人と海は感心した。


「よし、じゃあ好きなだけ撮っていいよ。私の奢りだ! 」

「ゴチでーす」

「えっ、ゴチってお金掛かってるんですか? 」

「アハハ嘘嘘、かからるわけないじゃん。ノリだよノリ。もう、赤城君は真面目だなぁ」

「赤城、こういう輩は一々間に受けてたら疲れるから、適当に合わせるのがコツだぞ」

「そうなんだ。わ、分かった」

「本人が目の前にいるのによくそんなことが言えるね〜」


 軽いジョークを毎度毎度間に受ける海に彩人と紗夜乃は将来が不安になった。

薄々感じていたことだが、海はこのご時世にしては珍しく純粋で冗談の通じないタイプの人間のようだ。

 それが悪いとは思わない。

 むしろ、美徳と言えるだろう。

 穢れのないことはとても良いことなのだから。

 人として大変好感が持てる。

 ただ、それと同時にどうしても危うさを感じてしまう。

 いつか彼はきっと失敗する。

 それが、詐欺か怪しい宗教勧誘かは分からないけれど。

 僅かな期間接しただけでそう確信が持ててしまうくらいに、

 今も自分が失言したと気付いた海は「あっ、すいません! 」と慌てて頭を下げている。

 そんな海を見て彩人と紗夜乃は静かに視線を合わせた。

 

((出来るだけ目の届く位置に置いときましょう))


 たった一度のアイコンタクトで、お互い同じことを考えていると理解した二人は深く頷く。

 こうして、この日彩人と紗夜乃の中で赤城海保護法が締結されたのだった。

 

「いいのいいの。気にしてないから。うん、じゃあまぁ、改めて撮影開始! 目標は、今まで撮った写真のどれよりも良い一枚撮ること。お題は特に無し。この学園内のものなら何でも撮って良いよ」

「ういっす」

「頑張ります! 」


 紗夜乃は海のことを笑いながら軽く許した後、撮影開始の宣言をした。

 体験入部に来た二人はそれぞれ返事を返すと、カメラを持って各々好きな場所に移動する。

 彩人は校舎の方に、海は花壇の方へ向かった。

 校舎を選んだのは、吹奏楽部の演奏している風景を撮りたかったから。

 生徒達が楽しそうに楽器を鳴らしている写真は映えると思ったのだ。

 そんな単純な考えから、彩人はトランペットを吹いている女子生徒達がカメラの枠に収まるところまで行き、「写真を撮りたいんですが今良いですか〜!? 」と声を掛ける。

 すると、その声で下でカメラを持っている彩人の存在に気が付いた女子生徒の一人が「いいよー。だけど、ちょっと待ってね確認するから」と言うと、近くにいる生徒に写真に写っても良いかと聞いて回った。

 結果、トランペットを持っていたうちの五人中二人が写真に映るのを拒否し、残りの三人を撮ることとなった。

 

「じゃあ、そこの三人にはトランペットを構えてもらって……ハイ、チーズ。ついでに保険でもう一枚。皆さんのおかけで良いのが撮れましたありがとうございました」


 三人にトランペットを並んで構えてもらい、それを斜め下から撮影。

 彩人個人的にはそこそこ良い感じなものが撮れたと思う。

 写真撮影に協力してくれた人達に礼を言うと、別の場所に移った。

 その後、他の楽器を演奏している吹奏楽部の生徒や、声出しをしている演劇部。そして、花の手入れをしている園芸部など様々な生徒達の姿を撮らせてもらった。

 これを行う度に、今まで自分が知らなかった新たな発見があってとても面白い。

 

「写真部も悪くもないかもな」


そうポツリと呟いてしまうくらいには、彩人にとって今日の体験入部は楽しかった。

 高校では部活をせずアルバイトをしようと思っていたのに、その意思が軽く揺らいでしまうくらいには。

 うーんと、彩人が悩んでいると不意に下から声がした。


「じゃあ、僕と一緒に入らない?」


 視線を下に向けてみると、屈んで花壇の写真を撮っていた海と目が合った。


「おっ、何だ聞いてたのか? 赤城」

「たまたまね。盗み聞きするつもりはなかったんだけど」

「別に聞かれて困ることじゃねぇから構わない……って言いたいところなんだが。ちょっと困ったな。俺そもそも高校では部活する気ないんだよ」

「どうして?」

「部活やらずにバイトするつもりだった。ウチの学校アルバイト特に禁止してないだろ。だから、高校に上がったらやろうってずっと思ってたんだよ」

「そっか」

「だから、まぁ悪いな。別の奴を誘ってくれ」


 優しい人間ならここは気を利かせて、一緒に入ると言うのだろう。

 でも、彩人はそれをしなかった。

 貴重な高校生の放課後時間を部活をして過ごす、またはアルバイトをして過ごすのかという重要な選択を他人に流されて決めたくはなかったから。

 たった一回の高校生活だ。

 せっかくなら後悔のないよう自分のやりたいことをしたい。

 写真部は楽しそうだけれど、まだアルバイトの方がやりたいという欲求が強い。

 だから、彩人は海の誘いを断った。


 ただ、友人よりも自分のことを優先した罪悪感はある。

 彩人はバツが悪そうに目を逸らし、海に謝った。

 

「そういうことなら仕方ないね。バイト先決まったら教えてよ。遊びに行くから」


 話を聞いた海は少しだけ落胆した。

 せっかくなら高校で初めて出来た友人と同じ部活をしたかったからだ。

 でも、何をするのか決めるのは自分次第。

 彩人たにんじぶんの選択が違うのなんてよくあること。

 いちいち落ち込んでいても仕方がない。

 それに、出会って数日も間もない自分に素直な気持ちを打ち明けてくれたのは何だかんだ嬉しかった。

 自分達はちゃんと友人なんだと思えたから。

 だから、海はすぐに明るい笑みを浮かべると彩人の意思を尊重した。


「……あぁ、分かった。そん時は目一杯もてなしてやるよ」

「それは楽しみだね」


 彩人は海の返事を聞くと、顔を緩めると彼の肩に腕を回す。

 そして、二人は顔を合わせ笑い合った。


 

「……シャッタ〜チャ〜ンス! 」


二人のやりとりを遠く離れた場所から眺めていた紗夜乃は静かにそう呟くと、カメラを構え二人の姿を写真に納める。

 そうして、レンズから目を離し画面に映る二人の姿を見て満足そうに口元を緩めるのだった。










 あとがき

 久々の更新というか改稿。

 ヒロイン回でもないのに、めっちゃ気合い入って自分でも笑った。

 体験入部回はもう少し続きます。

 次は皆様お待ちかね莉里との絡みになります。

 糖度はそこそこ高め予定です。お楽しみに。

 ※これから先の改稿済みとついてない話は読まないでください。話の流れが大きく違うため読んだら、話が飛んで何やっているの?となるので。そこんところよろしくお願いします。

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