第11話 改稿済み


「ねぇ、水無月君。僕と部活見学に行ってくれないかな?」

「あぁ〜」


体育館にて行われた部活紹介が終わった帰り道のこと。

 赤城から部活を見に行こうと誘われた。

 しかし、彩人は返答に窮した。

 前にも莉里と話したが彩人は部活をするつもりはない。

 それは部活紹介を見た今も変わらない。

 けれど、興味がないかと言われればそれは違う。

 何個か面白そうだと思わされるものが幾つかあった。

 だから、見学くらいなら行っても良いかなという想いはある。

 だが、それをするとなると莉里と一緒に帰れなくなる。

 部活見学に行くとなると彼女に話を通しておくべきだろう。


「ちょっと待ってもらっても良いか?」

「うん、いいよ。別に今すぐ今日行きたいってわけでもないから」

「すまんな」


 彩人は赤城に謝りつつ、昼休み莉里に部活見学に誘われた話をした。

 すると、


「行って来なよ。私も朱李ちゃんから誘われてるし」


 あっさり許可が降りた。

 まぁ、分かっていたことではある。

 高校に入ってから一緒に登下校しているのは、放課後に予定が無かったからだ。

 予定が入ったらそちらを優先しても構わないとあらかじめ決めている。

 だから、莉里が許可を出すことを彩人は分かっていた。

 それが放課後の帰る直前だろうとどんなタイミングだろうと。

 きっと、彼女は許してくれる。

 けれど、流石に帰る直前に伝えるというのは困るだろうと考え、早めの段階で話をしたのだ。


「そうか。なら、丁度よかったな」

「うん。でも、二人共部活見学に行くんだったら下校時間ギリギリまで居て一緒に帰る?」

「部活によって終わる時間が違う可能性もあるから出来るかどうか分からんが、まぁ時間が合いそうなら一緒に帰るか」

「オッケー。じゃあ、そういうことで」


 特に何かを揉めることもなく話は進み、二人は各々部活見学に行くこととなった。






 キーンコーンカーンコーン。

 

「おっし、赤城行こうぜ」

「うん」


六限の授業が終わったところで、彩人は荷物を纏めてすぐさま赤城の元に向かった。

 そのまま、二人は一緒に教室を出てとある場所を目指す。


「たしか、今日は写真部だったか?中学の時やってたバトミントンじゃないんだな」

「アハハ、本当はバトミントンから行こうと思ってたんだけどね。でも、今日体育が無くて体操服持って来てないから」

「確かに、それなら運動系は行けねぇな」


 部活に入っているならともかく、体育のない日にわざわざ体操服を持ってくるなんて普通はしない。

 だから、赤城が体操服を持って来ていないのはおかしいことではない。

 が、きちんと行事予定表を見ていれば今日から部活見学があることは気付けていたこと。

 元から部活見学に行くつもりだったとしたら、彼は少し抜けている。

 いや、昨日のSHRで担任の智恵が『明日は部活見学がありましゅ!』と言っていたのにも関わらず持って来ていないということは、忘れっぽいのかもしれない。


「ごめんね」

「別に気にしてねぇから謝んな」


 謝罪の言葉を口にする赤城に彩人はニッと笑みを浮かべ気にしてないことを伝える。

そんな彩人の顔を見て、赤城は「ありがとう」と下手くそな笑みを浮かべた。

 二人はそのまま写真部に向かい、ドアをノックする。


「どうぞ〜」

「失礼します」

「失礼しゃす」


すぐに入札の許可が出たので、ドアを開け部室に足を踏み入れる。

 入ってすぐ感じたのは、鼻にツンとくる独特な薬品の匂い。

 部屋の中には様々な写真やトロフィーや優勝証書が飾られていた。

 パッと見た感じ毎年何かしらの賞を受賞している。

 どうやら才能のある人間が定期的に入って来ているようだ。


「ようこそ、我が写真部へ。その制服を見るに君達は新一年生だね。体験入部かな?」


キョロキョロと彩人と赤城が周囲を軽く観察し終えたところで、黄色のメッシュが入った髪をヘアピンで止めたバンドマンみたいな見た目の少女が話しかけて来た。

 

「あっ、はい。そうです」

「よろしくお願いします」

「はいはいー。じゃあ、新一年生二名様ごあんな〜い〜。あっ、私三年生の勾田まかた 紗夜乃さやのよろしくね」

「赤城海です」

「水無月彩人っす」

「おけ。水無月君に赤城君ね覚えた。じゃあ二人ともついて来て」

 

 そう言って、紗夜乃は二人に背を向けて奥へ歩いていく。

 赤城はそんな紗夜乃の背中見ながら『来る部室間違えたかなぁ』と若干後悔するのに対し、彩人は『あの髪校則的にオッケーなのか?』と疑問符を浮かべていた。


「この髪気になっちゃう?イケテルっしょ」


 彩人達からの視線に気が付いたのだろう。

 二人の方へ振り返り、紗夜乃は髪をくるくると弄りながら自慢気に笑った。


「イケテルっす。けど、校則的にオッケーなんすか?」


 彩人は素直に彼女のことを褒めた後、気になっていたことを尋ねた。


「普通にアウトだよ。でも、まぁ私が何を言っても止めないから放置されてる感じ。君達も髪を染めたいなら参考にするといいよ。一週間くらい停学させられるけど」

(アウトなんかい!?)

「遠慮しとくっす」

「え〜つまんないの」


 心底つまらなさそうに顔を顰める紗夜乃。


「入学早々停学とかしてたまるかよ」


 彩人はそこでこの人には敬意を払わなくても良いと判断し、キツめの口調で言い返す。

 すると、赤城はアワアワと慌て出し「先輩にそんな言葉失礼だよ、水無月君」と嗜める中、少女はケラケラと笑い出した。


「いいねぇ、君。私君みたいな子好きだよ」

「俺もアンタみたいな女は嫌いじゃねぇよ。ただ、付き合いたいと思わないが」

「ありゃりゃ、振られちゃった〜」

「知り合いから良いやつ紹介してやろうか?」

「おっ、マジ?じゃあ、異世界を救った元勇者の男の子で頼む」

「残念ながらいないな。でも、お茶の代わりに浅漬けの素を出してくる宇宙人みたいなやつはいるが」

「なにそれ、オモロ笑。ちょっと興味出て来た」


 二人の距離はそこから急速に縮まり、友人のように気安いやり取りを始める。

 赤城はそんな二人を見つめ『二人とも距離の詰め方えげつない!』と二人のコミュ力に戦慄するのだった。


「──。で、勾田先輩。体験入部って俺達何が出来るんだ?」


 暫く、適当に話したところで彩人はそろそろここに来た本来の目的を果たすべく、紗夜乃に話を切り出した。


「そんなの決まってるっしょ!写真部何だからやることは一つ。このカメラで君達には写真撮りまくってもらいます。イェーイ!」

「いぇーい」

「い、いぇーぃ」

「ちょっと男子〜。ノリ悪いぞ〜。写真部に来たってことは写真に興味があるんでしょ。まだ入部もしてないのにカメラが使えるんだからもっと喜びなよ」


 カメラを受け取った後輩二人のノリが悪く文句を垂れる紗夜乃。


「いや、別に。俺、赤城の付き添いできただけだし」

「ぼ、僕は嬉しいですよ。でも、こういうノリにあまり慣れてなくて…」


 しかしながら、本日彩人は海の付き添いで写真部に来ている。

 特別、写真に興味があるわけではないため彩人の反応が淡白なものになるのは致し方ないだろう。

 対して、海は写真に興味はあるが、物静かな性格故に騒がしい雰囲気に慣れておらず、無理やり合わせようとした結果ぎこちないものとなってしまった。


「赤城君は良い子だなぁ。ヨシヨシ、それに比べて水無月君は可愛げがないね」

「うわぁ〜!?」

「男に可愛げを求められても困る」


困惑する海の頭を撫でながら、彩人へ不満をぶつける紗夜乃。

 しかし、彩人は特に反省した素振りもみせず軽く肩をすくめた。


「まぁ、とにかくこれで写真撮ってくればいいんだな。赤城行こうぜ」

「あっ、ちょい待ち。君達はまだ正規の部員じゃないからカメラを使うんなら、正規部員が付いてない駄目なの。勝手にパーツやフィルム盗まれたり、壊されても困るからね。ってことで、外に出るなら私も付いてく」

「他の人に変え「るのは無理だよ。だって今日私しかいないから」そっすか。そういうことなら仕方ないな」

「仕方ないとはどういうことだ水無月君!目上に対して失礼だよ〜」


そう言って、教室を出ていく彩人と紗夜乃。一人教室に残された海は少しした後「えっ、あっ、ちょっと待ってよ〜!」と情けない声を上げ二人のことを慌てて追いかけるのであった。



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