第4話


 今年、華山高校に入学した新入生の数は百八十人。

 この百八十人を毎年入試の結果から学力が平均になるよう六つのクラスに分けている。


 本来いない筈の彩人が入学したことによって結果が変わり、莉里は過去と同じクラスではなく別のクラスになった。


「ここが一年三組の教室だな」

「ニ階の一番端っこか〜。昼休み購買に行く時ちょっと不利だね」

「こうばい?……あぁ、文房具とかパンが売っているところか。中学の時無かったから一瞬分かんなかったわ」


 クラス表の裏に書かれた地図を頼りに彩人達が辿り着いたのは、新校舎二階の最奥。

 目の前の教室には一年三組と書かれたクラス札が付いている。

 ここが、一年間二人が過ごす教室で間違いないだろう。

 彩人はスライドドアを開けて教室へ入る。


 ガララッ。

 

 すると、教室にいた生徒数十人から一斉に彩人へ視線が向けられた。

 が、彩人動じない。

 莉里という美少女と外で遊んでいる彩人は注目されることに慣れているのだ。たかだか、数十人程度気にする程でも無い。


「なぁ、席ってどんな感じで座ってるんだ?」


視線をさらっと受け流し、一番近くの席に座っていた天然パーマの穏和そうな男子生徒に話しかける。


「あぁっ、そこの黒板の前に座席表があるよ。といっても、出席番号順だから見なくても分かるかも」


 初対面の人間にいきなり声を掛けられたからだろう、少年はやや戸惑いながらも彩人の質問に答えてくれた。


「本当だ。教えてくれてサンキュー。出席番号順てことは、君はこの一番上に名前が書かれている赤城あかし かいか。俺の名前は水無月彩人。一年間よろしくな」

「……こちらこそよろしく。水無月君」


 彩人は赤城に礼を言うと、名を名乗り手を差し出した。

 高校生にもなって握手をすると思っていなかった海は驚き、少しだけ固まったがすぐにおずおずと彩人の手を取る。

 そうすると、彩人は嬉しそうにはにかみ、海もそれにツラれてはにかんだ。

 こうして、彩人は入学早々に一人目の友人をゲットしたのだった。


 「じゃあ、赤城。席に荷物を置いたらまた話に来るわ。おい、莉里。俺らの席あっちだって」


 彩人は握手を止めると、そう言って黒板の方を向き席を確認すると幼馴染を呼んだ。


(あっ、水無月君。友達と一緒のクラスなんだ。運がいいなぁ)


と、海は彩人のことを見つめながらそんなことを思っていると、想像を絶する白い肌の金髪美少女が現れてギョッと目を剥いた。

 

「そうなんだ。教えてくれてありがとう彩人」

「いや、俺は話を聞いただけだ。礼ならこの赤城に言ってくれよ」

「あっ、そうなの。教えてくれてありがとう。赤城君」

「いや、そんな…お礼を言われるほどのことでは」


 アイドル顔負けの美少女に礼を言われ、シドロモドロになる海。


 まるで、推しの芸能人に偶然出会ったファンのようだ。


「くくっ」

「わ、笑わないでよ〜水無月君」


思いのほか反応が面白くて笑う彩人。そんな彩人へ恨めしそうな目を向ける海。

 この二人のやりとりを見て、彩人は友達が作るのが早いな〜と、莉里は微笑んだ。

 その後、莉里と彩人は荷物を一旦机に置くとチャイムが鳴るまでの間、クラスの注目を浴びながらも会話に花を咲かせるのだった。



「お待たせしま──アタッ。ッテテ〜!」


チャイムが鳴り、暫くすると教室のドアが開きスーツに身を纏った背の低いポニーテールの女性が現れ、入ろうとしたところでドアの角に頭をぶつけ蹲った。



(((この人絶対ドジっ子だ!)))


頭を摩りながら、涙目を浮かべる若い女性を見てクラスの全員がそう思った。

 うら若き少年少女達から生暖かい目を向けられ、「…入学式の準備が出来ましたので、皆さん廊下へ出て出席番号順に並んでくださーい」と恥ずかしそうに告げると女性は出て行ってしまった。


「…智恵ちゃん先生かー。これは当たりだね」

「ん?何でお前がそんなこと知ってんだ」

「へぇっ!あぁ、えっと。せ、先輩に聞いたんだ。ポニーテールの背の低い先生が当たりだって」


 莉里としては誰にも聞こえぬよう呟いたつもりだったのだが、真後ろに座っていた彩人には聞こえてたらしく慌てて適当に嘘をつく。


 へぇー、と相槌を打ち「その話が本当なら俺達運がいいな」とは笑った。


「アッ、アハハ。ソダネ〜」


 自分の言うことを何の疑いもなく信じる彩人に若干胸を痛めながら、乾いた笑みを浮かべる莉里。

 

「さっ、私達も並びに行こう?遅れたら皆んなに迷惑を掛けちゃうからね」

「おう」


そう言って、誤魔化すように莉里は席を立つと彩人を連れて教室を出た。


「ねぇ、貴方って何番?」

「えっと、十八です」

「てことは、もう少し後か。教えてくれてありがとう」


 教室を出て、一番列の後ろにいた女子に番号を教えてもらうと莉里は礼を言って離れた。


「莉里。俺らここだって」


 彩人のところへ戻ると、彼は別の列に並んでいた。

 まだ私達の順番が来てないのに、と莉里は思ったが彩人の後ろにいる生徒が彼の後ろの席にいた生徒だったのを思い出した。

 どうやら、こっちの列は後ろから順番に並んでいるらしい。


「分かったー」


 莉里は返事を返すと彩人の前へ並んだ。



「莉里?何で彼女が三組にいるの?」











あとがき

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