第3話


 公立 華山高校。


 県内でも上位の偏差値を誇っており、毎年数多くの学生を名門大学へ輩出している進学校として有名だ。

 また、校内の敷地が広く設備が整っていることからスポーツ方面でも強く、毎年サッカー部とテニス部が全国大会に出場しており一部の界隈で名門校としても知られている。


 さらに、この世界のが別世界に存在する漫画の舞台でもある。


 そして、今メインヒロインの一人がその舞台へ足を踏み入れた。

 本来ならば存在しない幼馴染イレギュラーを連れて。


「おぉ、試験を受けに来た時も思ったけどめっちゃ広いよな。サッカーコートが二面あるとかヤバすぎるだろ。しかも、人工芝。金掛かってるよなぁ〜」

「毎年、全国大会に出場している名門校と言っても流石にこれは凄いよねぇ」


 正門から入ってすぐに見える、巨大なサッカーコートを眺めながら彩人と莉里は感嘆の声を溢した。

 少年ににとっては見慣れぬ光景だが、少女にとっては何度も何度も見たことのある光景。

 ヒラヒラと舞い落ちる桜の花びらも、クラス表が張り出された掲示板の前で一喜一憂して騒ぐ生徒達も少女は知っている。

 けれど、たった一つ違うことがあるだけで目に映る光景全てが新鮮に見えるのだから不思議なのものだ。

 莉里は一緒に並んで歩いている彩人の顔を何となしに見つめた。


 初めて出会った時は、まだ幼く顔が丸こっかたのに今ではシュッとして、男らしい端正な顔立ちをしている。

 

 『時間が流れるのは早いなー。もう立派な男の子の顔をしている』、などと莉里が考えていると彩人と目が合った。


「ん?どうした」

「いや、桜の花びらが頭に付いてるなーって。

「えっ、マジどこ?」


 頭に花びらが付いていると指摘されるいなや、頭を触り出す彩人。

 だが、実際は花びらなど彼の頭には付いていない。

 莉里が彩人を揶揄うためについた真っ赤な嘘である。


「頭の天辺。あーその辺じゃなくて、もうちょっと右!いやいや、それは行き過ぎ」

「じゃあ、この辺か」

「惜しい、もうちょっと左!」

「オーケー、オーケー分かった。ここだろ。」「ぷっ、全然違う。もう彩人真剣にやってよ〜〜」


 ある筈のない花びらを取ろうと頑張る道化ピエロの姿に耐えられず、クスクスと莉里が笑い出すと彩人は「見えてないんだから仕方ないだろ。」と口を尖らせいじけた。

 ここら辺が潮時だろう。

 これ以上続けると暫くの間口を聞いてくれなくなってしまう。

 それは、莉里の本意ではない。


「もう仕方ないな〜。私が取ってあげるから動かないでよ」


そう言って莉里は彩人に近づき、彼の頭に手を伸ばしたところで袖から一枚の花びらを取り出した。

 これは、高校へ向かっている途中にたまたま手に落ちてきたものだ。

 実はそれを見た時から、密かにこの悪戯をしようと決めていた。


「はい取れたよ」


持っていた花びらをさも今取ったかのように、彩人へ見せつける。


「……どうも」


彩人は素っ気なく莉里に礼を言うと、そっぽを向いた。

 この反応。

 十年近く遊んでいた莉里だからこそ分かる。

 これは、大抵キマりが悪い時に彩人がするものだ。

 大方、あれだけ必死に取ろうとして取れなかったから実は花びらなんかないと疑っていたら、本当に花びらがあってバツが悪いといったところだろう。

 まぁ、その予想は間違っていないのだが莉里は教えてやるつもりはない。

 先程の駅で、莉里がナンパされていたのを見ていたのに助けてくれなかった幼馴染へのささやかな仕返しなのだから。

 これくらいしたって罰は当たらないだろう。


 幼馴染への仕返しを済ました莉里は、晴れ晴れとした表情を浮かべ「そろそろ、私達もクラスを確認しに行こうよ」と彩人に声を掛け、カツンと勢いよくローファーを鳴らして、大きく一歩前に踏み出した。


「あぁ、そうだな」


 そんな莉里の態度に彩人は違和感を持ったが、彼女が嘘をついていたと知らないため答えが当然出るわけもなく。

 彩人はモヤモヤとした気持ちのまま、莉里の後を追うのだった。


 掲示板の前は相変わらず、人だかりが出来ており確認することが難しそうだったので近くにいた教員にクラス表を受け取り二人して一枚の紙を覗き込む。

 傍目から見たら完全にカップルのそれだが当人達に自覚はない。


「ええっと、まちがね、まちがねは〜っと。あっ!あった三組だ。彩人の名前もあるよ。ほら、ここ」


 一組、二組、クラス順に名前を探していったところで、三組にしてようやく自分と彩人の名前を見つけて莉里は嬉しそうに指をさした。


「おっ、マジか」


 莉里の言葉を疑っているわけではないが、見間違いという可能性がある。彩人は指をさされた場所を確認すると、確かに莉里と彩人の名前が並んで書かれていた。


「おっ、マジじゃん。てことは、一年間同じクラスか。よろしくな、莉里」

「こちらこそ一年間よろしくね。彩人」


 二人は顔を見合わせ笑みを浮かべると、入学早々に同じクラスになることができた幸運を分かち合った。

 

「あっ、そうだ。他に知り合いはいねぇかな?同じ中学のやつが何人かいるはずなんだよ」

「どうだろ。なんて名前の人?」

「佐藤に田中、あと鈴木」

「同じ苗字の人がいて分かんないよ!」


その後、彩人の知り合いが居ないかと名前を確認する際、莉里はとある名前を見つけて僅かに眉を顰めた。


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