第7話 マメな豆知識

 豆はヘルシー。

 豆は栄養豊富。

 豆を食べましょう。

 そんな話は皆さん、聞いていらっしゃることでしょう。

 実際、豆は低糖質、高タンパク、高ミネラルの優れた食材。おまけに、穀物と一緒に食べると必須アミノ酸を一通り摂取できるという優れもの。おまけに、食べ応えがあるので満腹感も得られる。豆をたっぷり使った料理にすれば肉や魚が少なめでも物足りなさを感じなくてすむし、主食も減らせる。つまり、豆を使えば低カロリーで栄養バランスの優れた食生活が簡単に実現できると言うこと。

 まさにいいことずくめの食材です。とは言え――。

 豆は食べるのが面倒。

 そう思ってますよね。

 何しろ、調理する前に何時間も水につけておかなくてはならないし、煮るのも時間がかかるし、灰汁取りも何度もしなくちゃならないし……。かと言って、市販の水煮なんてろくに量ないし……。

 そんなお悩みの皆さんに、豆を簡単に食べられるふたつの方法をご紹介します。

 まず、ひとつめはタジン鍋と電子レンジを使う方法。

 タジン鍋に好みの豆と水を入れ、レンジでチン(豆五〇グラムごとに五分の見当)。灰汁を除くために鍋のなかの水を半分捨てて(水を全部捨ててしまうと水に溶け出している豆の旨味や栄養も全部捨てることになってしまうので、半分程度にしておきましょう)、その後、コンロに移してグツグツ。ものの二~三〇分も煮ればちゃんと柔らかくなっています。

 まあ、市販の水煮ほどには柔らかくはならないようですが、でも、大丈夫。歯の弱い人以外ならちゃんと食べられます。豆が水を吸っていないためか、よりしっかりした味が感じられます。鍋に他の具材を放り込んで一緒に煮てしまえばそれで豆のスープのできあがり。この方法だと下ごしらえがいらないので思い立ったときにすぐ作れます。もちろん、豆だけを別に煮ておいてあとで他の料理に加えることも出来ます。

 大豆、インゲン豆、金時豆、ひよこ豆、レッドキドニー、小豆で実証済み。多分、ほとんどの豆で出来るでしょう。ちゃんと軟らかく煮たいならレンジにかける前に数時間、水につけておけば市販の水煮と同じぐらい柔らかくなります。ただし、小豆は水を吸わないので事前に水につけておく意味はないとのこと。実際、いきなりレンジにかけて三〇~四〇分も煮ればスプーンで潰して汁粉に出来るぐらい柔らかくなります。

 私は鍋にそのまま砂糖と塩を加えてスプーンで潰して汁粉、というかぜんざいにして食べています。はっきり言って市販の餡とは比べものになりません。コクと旨味がちがいます(ただし、これは白砂糖ではなく、てん菜糖を使っているためかも知れませんが)。なお、レンズ豆ならレンジにかける必要すらなく直接、煮れます。

 問題はタジン鍋。一時はどこに行っても山積みになっていたというのに、いまではすっかり見なくなりました。おそらく、リサイクルショップかよほどの専門店にでも行かないと買えないでしょう。揚げ物以外ならたいていの料理に使えるうえ、本当においしくできるというのに。どうして、廃れてしまったのでしょう。残念です……。

 でもまあ、タジン鍋といっても土鍋の一種。どこでも売っている和風の土鍋でも同じことが出来るでしょう、多分。私は土鍋で試してみたことはありませんが。

 ひとつ、気をつけるとしたら蒸気穴の存在。タジン鍋には蒸気穴の空いているタイプと空いていないタイプとがあるのですが、私の使っているのは蒸気穴の空いていないタイプ。和風の土鍋を使うときも蒸気穴のないタイプを使う方が無難かも知れません。


 さて、豆を手軽に食べるふたつ目の方法は事前に粉に引いておくことです。

 豆を耐熱皿かオーブン皿に並べて二〇〇度のオーブンで一〇~一五分焼いた後、完全に冷めるのをまって電動ミルサーでガー。粉にした後は食品用の保存袋に入れておけば冷蔵庫で普通に保存できます。まあ、早めに使ってしまった方が良いのは言うまでもありませんが。

 私はひよこ豆と小豆を粉にして使っています。一度に二〇〇グラムずつ粉にして保存袋に入れておくのですがまあ、一~二週間程度で使い切っていますね。

 で、この豆の粉ですが……。

 便利です。

 メチャクチャ便利です。

 ひよこ豆粉(豆の本場インドでは『ベサン』と呼ぶそうです)はスープのとろみ付け、ホワイトソース、パンやクッキーの生地と、小麦粉がわりになんにでも使えます。しかも、豆なので小麦粉に比べてずっと高タンパク、高ミネラル。小麦粉にかえてひよこ豆粉を使うことで栄養バランスがグッと良くなります。

 小豆粉も同様にパンやクッキーの生地に混ぜて使えます。お湯に溶かせば即席の汁粉を楽しめます。……まあ、お湯に溶けない固い部分は残るのですが。

 えっ?

 大豆の粉ではだめなのかって?

 たしかに、大豆の粉であればわざわざ自分で粉にするまでもなくどこでも売っていますね。きな粉は昔からいくらでもありましたし、最近では大豆粉も普通に売っています。ところが――。

 大豆は実は毒性が強い。

 消化も良くない。

 そのまま食べるにはむかない豆です。

 実際、ひよこ豆のきな粉をよく食べるミャンマーの人に言わせると大豆のきな粉は重くて消化が悪いそうです。だからこそ、大豆は昔から豆腐や納豆など加工品として食べられてきたわけです。実際、世界的に見れば大豆は『豆』ではなく『油脂植物』、つまり、豆として食べるものではなく、油の原料として認識されています。

 と言うわけで、大豆をそのまま食べるのはお勧めしません。豆腐や豆乳、納豆などの加工品として食べるのが無難です。

 さて、それでは、私がよく作るひよこ豆粉の料理をいくつか紹介しましょう。


ひよこ豆料理

 それでは、さっそく、ひよこ豆の粉(ベサン)を使った料理を紹介していきましょう。でも、その前に……。

 私はあくまで家庭料理人です。

 他人に料理の作り方を教えることがあるなんて思ったこともありません。ですので、いちいち分量、計っていません。一部の肝心な部分をのぞけばいつもテキトーにやっています。ですが、逆に言えば、テキトーにやっても失敗しない料理だと言うこと。気軽に挑戦してみてください。

 ひとつ、テキトー料理のコツを言うとすれば『材料は多めに、調味料は控えめに』ですかね。材料が多い分にはまた翌日にでも食べればすむことです。しかし、調味料が多すぎると、とても食べられたものではなくなりますから。

 では、そのことを承知して頂いたうえでひよこ豆料理をいくつか紹介しましょう。


野菜のクリームシチュー

材料

 ニンジン

 タマネギ

 カボチャ

 シメジ

 塩

 コショウ

 米油

   すべてテキトー

ホワイトソース。

 ひよこ豆粉(ベサン)三〇グラム

 無塩バター     四〇グラム

 豆乳        五〇〇グラム

 塩         テキトー


作り方

ホワイトソースを作る。

 1 無塩バターを鍋に入れ、とろ火にかけ、溶かす。

 2 ひよこ豆粉を入れてよくかき混ぜ、混ぜ合わせる。

 3 フツフツしてきたら火を止めて五分、置く。

 4 とろ火にして、再びフツフツしはじめるまでよくかき混ぜる。

 5 豆乳と塩をまとめて入れる。

 6 弱火にしてかき混ぜながらドロッとしたクリーム状になるまで煮込む。


クリームシチュー

 1 ニンジン、タマネギ、カボチャ、シメジはすべて粗みじん切りにする。

 2 火にかける前のフライパンに米油をひき、1の材料を入れる。

 3 フライパンを弱火にかけ、ジュウジュウ音がしはじめてから五分、炒める。

 4 塩をテキトーに振り、時々混ぜる。

 5 五分炒めたら蓋をして、五分蒸す。

 6 クリーム状になったホワイトソースを加え、混ぜ合わせる。

 7 弱火で一〇分ほど煮込む。

 8 仕上げにコショウを振って出来上がり。


 とまあ、普通のクリームシチューを作る際の小麦粉と牛乳をひよこ豆粉と豆乳に置き換えたものですね。小麦と牛乳が豆にかわっている分、抵糖質、高タンパク、高ミネラルに仕上がります(と思う。たぶん)。

 ここではバター風味を出すためにバターの量を多めにしていますが、バターのくどさが気になる方はバターの量を半分にしてください。また、せっかくの豆乳野菜シチューなのだから完全植物性にしたい、という方は、バターを米油かオリーブ油にかえてください。マーガリンはやめておきましょう。何しろ、マーガリンは私の知る限り唯一の、誰もが口をそろえて『体に悪い』と主張する食材ですから(それなのになぜああも売れているのか不思議。これほどのヘルシー志向の時代だと言うのに)。

 また、具材に関してですが、ここでは基本の定番野菜のみを使っていますが、その他の食材、ブロッコリーやコーン、煮豆などを加えてももちろん、おいしいです。肉好きの方は肉を加えてくれて構いません。肉を加える場合、別にソテーしておいて、野菜を蒸したあとに加えると脂っぽくならなくていいでしょう。まあ、そこは好みの問題でもありますが。

 ひよこ豆粉と豆乳を使うことで普通のクリームシチューとはちがったおいしさになるので、『ひと味かえてみた』と、自慢も出来ますよ(笑)。


コロッケ前

材料

 コーン

 タマネギ

 シメジ

 カニカマ

 塩。

 コショウ

  すべてテキトー


ホワイトソース

 ひよこ豆粉(ベサン)三〇グラム

 バター       四〇グラム

 豆乳        二〇〇グラム

 塩         テキトー


作り方

 1 クリームシチューと同じ要領でホワイトソースを作る。

 2 コーンは粒のまま、タマネギ、シメジは細かめに刻んでおく。カニカマはほぐしておく。

 3 火にかける前のフライパンに米油を引いて、コーン、タマネギ、シメジを入れ、弱火にかける。

 4 ジュウジュウ音がしはじめてから五分、炒める。

 5 塩を振って混ぜ合わせる。

 6 五分たったら蓋をして、さらに五分、蒸す。

 7 フライパンにホワイトソースを加え、混ぜ合わせる。

 8 7にカニカマを加える。

 9 平らにならして弱火で一五分、焼く。

   あるいは、クッキングシートを敷いた耐熱皿に乗せ、一八〇度のオーブンで一五分焼く。

 10 コショウを振って出来上がり。


 基本的にはクリームシチューと同じですね。ただ、豆乳の量が減っている分、ホワイトソースはずっともったりした仕上がりになります。

 さて、なぜ『コロッケ前』かと言いますと、これ、クリームコロッケのタネだからです。これをまとめて、衣を付けて、油で揚げればクリームコロッケになります(というか、なるはずです。これも、クリームコロッケの作り方を見て、小麦粉と牛乳をひよこ豆粉と豆乳にかえただけのものですから。

 でも、生地がかなり柔らかいんですよね。こんな柔らかくて、まとめて、衣を付けて、揚げる……なんていう真似ができるかは疑問。冷やして固めればできるのか?)

 でも、私、揚げ物するの怖いんです。油の後処理、面倒くさいです。ですから、揚げません。揚げるかわりにそのままじっくり焼いて、粉の旨味を引き出して食べます。だから、『コロッケ前』。それで、充分おいしいです。ただし、前述の通り、生地が柔らかいので箸で食べるには向きません。スプーンの方が食べやすいです。



ベサンカツ

材料

 キャベツ

 タマネギ

 シメジ

 コーン

 塩

 すべてテキトー


生地

 ひよこ豆粉(ベサン)一〇〇グラム

 オートミール    三〇グラム

 卵         二個


作り方

生地

 1 卵二個をボウルに割り入れ、よくほぐす。

 2 ひよこ豆粉とオートミールを加え、よく混ぜる。

 3 冷蔵庫に入れ、馴染ませておく。


ベサンカツ

 1 キャベツ、タマネギ、シメジは細かく刻んでおく。

 2 火にかける前のフライパンに米油を引いて、1とコーンを入れ、弱火にかける。

 3 塩を振り、全体がしんなりするまでじっくり炒める。

 4 火をとめてコショウを振り、混ぜ合わせる。

 5 オーブンを一八〇度に予熱しておく。

 6 4をすべて生地の入ったボウルに入れ、混ぜ合わせる(注意! 生地が固まっているのでただ混ぜただけでは生地の固まりが残り、他の具材と均一に混ざらない。生地を崩しながら混ぜ合わせること)。

 7 クッキングシートを敷いた耐熱皿に乗せ、表面を平らにならす。

 8 一八〇度のオーブン二〇分焼く。

 9 オーブンからだし、包丁で切って盛りつける。


 ……これ、うまいです。いや、本当に。作り方から言うとカツと言うよりお好み焼きですかね。本来のお好み焼きは小麦粉ですからおかずとして食べるなんて言語道断。でも、これは豆の粉だから大丈夫。穀物に不足している必須アミノ酸、タンパク質、鉄分などを効率よく摂ることが出来ます。

 ここでは基本の作り方と言うことで野菜だけですが、桜エビなどを加えてかき揚げ風にしてもおいしいです。私はやったことはありませんが、肉を入れてもおいしいでしょう。ますますお好み焼きですね(笑)。


 以上、よく作るひよこ豆粉料理を三つ、紹介しました。どれもおいしいうえに豆料理なので高タンパク、高ミネラルの優れもの。ぜひとも、定番メニューとして活用して欲しい料理ばかりです。ただし――。

 ここまで紹介してきたのはすべておかず。健康的な食生活を目指すならやはり、主食に関して語らないわけにはいきません。何と言っても、一番多く食べるのはやはり『主食』なのですから。そこで――。

 とっておきを紹介しましょう。その名も、


 必殺! 脳活パン。


 次回では、この脳活パンについて語るとしましょう。

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