第5話 全ての道は魔王城に通ず

「それで?内政とやらはどうするわけ?」


 閉じ込められていた尖塔の部屋から出てバルコニーに移動した。

 デカい机が置かれていてちょっとした屋外会議スペースって感じだな。


 ガリア―ドが聞いてくるが……そんな簡単に言われても困るんだがな。

 俺は元コンサル、今は勇者見習いであって政治家とかではない。


 とはいえ何もしないわけにはいかなそうだし、魔王を倒せとか言われるよりはマシかもしれないな。

 もともとはコンサルタントなのでバトルしているより交渉事とか組織運営の方が適正はある。

 ただし、今回は交渉する相手が魔族とか妖精族とか全然知らない相手であるのに不安を感じるが。


 考えているうちに、ダークエルフの女の子がバルコニーに入ってきてテーブルにお茶を並べてくれた。

 素朴で飾り気がない器だ。中には黒い液体が入っている。

 ちょっと薄い珈琲って感じの飲み物だ。魔王城にいる間に毎日のように飲んだからこれが定番の飲み物なんだろう。

 

「それで?」


 ガリア―ドがコーヒー(仮)を飲みながら何か言えって感じで聞いてくる。

 ユーリは俺の様子を伺う様に俺を見ていた。 


 この間、魔王城やその周りを見て回ったことを思い出す。

 これは妖精族の国にも言えたことなんだが、インフラがとにかく酷かった。道は荒れていて川の橋も少ない。

 この器にしても手作りの素朴な味がある、と言えば聞こえはいいんだが、一応魔王が使う器としてはいかにも粗末だ。

 

 これについては戦争が続いていたからだろうなと思う。

 争いごとが続けばその手のインフラ整備まで人でも金も回らないだろうし、戦争ですぐに壊れたり荒らされたりしていては整備してもキリがないだろう。

 日用品を整えるのも難しいはずだ。実用性重視でオシャレなんてものは難しい。


 実際イーレルギアも王都とかその周辺は兎も角、田舎とかにいくと道は凸凹で雨が降ったら泥まみれって感じだった。

 あれじゃ物資の移送をするにも何をするにも不便で敵わない。


 幸い、と言っていいかは分からないが、今の所ガリア―ドがまた戦争を始める気は無さそうだ。

 当面平和ならインフラ整備をするのがいいかもしれない。


 ローマ帝国とか日本の戦国武将も道路網や交通網の整備につとめた奴は多い。道が整備されれば人が動き、金も動く。

 文明開発シミュレーションゲームでもまずはインフラ整備がセオリーだった気がする。


「道路を作ろう。魔王領と妖精族をつなぐ大規模な奴だ」


 ガリア―ドが胡散臭げな眼で、ユーリが不安そうな目で俺を見る。


「道路?そんなの何の役に立つのよ」

「あの……魔王軍が我が国に攻撃しやすくなるのでは?」


「あのねぇ。アンタさ。アタシたちが勝ったんだからいまさらそんな心配してどうするわけ?馬鹿なの?」

「そう言う問題ではありません!」


 ユーリが言い返すが、まあこの場合はガリア―ドの方が筋が通っているだろう。

 今更道路を使って魔王軍が妖精族の国に押し寄せる、なんてことはあるまい。というか、やりたければ街道なんてなくてももうとっくにやってるだろうしな。


「まあそれは良いとしてさ、道路なんて何の役に立つのよ」


 ガリア―ドがもう一度聞いてきた。

 可愛い顔には、そんなのスローライフに役に立ちそうにない、という表情が浮かんでいた。

 目は口程に物を言う、だな。 


「例えば、だ。イシュトヴェインはワインが名産だ。それを魔王城で飲もうとした場合だ。道がボロボロだと運ぶのも大変だろ?だが道がきちんとしていればすぐに運んでこれる」

「ドラゴンに運ばせればいいじゃない」


 バカじゃないの?って感じでガリアードが言う。

 なるほど、そう言う手もあるのか。航空便と言う奴だな。妖精族の国ではそんなの見なかったが、魔王領ではそう言う手段もあるんだろう。


「だがドラゴンなんてそんなには多くないだろ?」

「……まあね」


 ガリア―ドががあっさりと認める。

 そんなにドラゴンが沢山いるとは思えないし、仮にそんなにたくさんドラゴンがいたら、もっと早い段階で戦争に負けてただろうな。


「お前ひとり分ならドラゴン印の宅急便でもいいさ。長い目で見れば誰もが使えるってのは大事なんだ」

「そういうもの?」


 コーヒーを飲みながらガリア―ドが言うが。


「それに、お前ひとりがスローライフ出来ればいいのか?お前の部下たちは?」

「あー、それは……良くないわね」


 ガリア―ドが言う。

 こいつは結構根は良い奴っぽいな……魔王だが。


「そのためにもこういうのは大事なんだよ。道を整備すれば人が動きやすくなる。そうすれば物も動く。物が動けば金も動く。そうすれば国は豊かになる。国が豊かになればスローライフも出来る、と言うわけだ」


 スローライフなるものをするためには国が豊かでないといけない。

 そして国を豊かにするには経済や物流が上手くいくこと、政情が安定していることが大事だ。


「でもさぁ……なんていうか地味よ。もっとババーンと凄い方法は無いわけ?」

「俺の国には急がば回れって言葉があったんだよ。ローマは一日にてならず。末永いスローライフのために準備が必要だ」


「ローマって何?」

「俺のいたところにあった国の名前」


 正確に言うと違うがまあいいか。

 ガリア―ドが少し考え込んだ。


「なるほどね。やっぱりアンタ賢いじゃない。殺さないで良かったわ」


 まあこんな都合よく行くかは分らんが……クライアントを口八丁で乗せるのもコンサルの必須技術だ。

 物騒な発言は効かなかったことにしよう。


「じゃあ任せるわ。しっかり働きなさい、馬車馬のように、私のスローライフのためにね」


 ガリア―ドが言う。


「じゃあアタシは休むからさ、何か必要なことがあったら言いなさい」


 そう言ってガリア―ドがバルコニーから出て行った。


 しかし、インフラ整備と言うか街道整備のプロジェクトを提案して了承されたのはいいが。具体的に何をしたものか。

 一つ進んだが、まだまだ前途多難だ。



 

 

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勇者「魔王様、内政の時間です」~元ブラック企業サラリーマンが、スローライフしたい最強のぐうたら魔王と理想主義の謀略家聖女とする王国改革~ ユキミヤリンドウ/夏風ユキト @yukimiyarindou

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