平原少女鬼〇

シバ・タツキ

第1話 【鬼丸国綱】

生命いのちなき平原を歩く少女がいた。


 体は小さく、長い黒髪の総髪ポニテ

 顔色は少々悪く、目の下には薄い隈ができていて、頬がこけている。

 もう少し経てば、骨と皮になるかもしれない。


 何か口に入れたいところではあるが、周りには人間と鬼であった肉塊ばかりで食物は無い。

 水もなく、あちこちから血が吹き出しているという状態であったが、少女は歩く。

 左手で右脇腹を抑え、負傷した左足に負担がいかないよう右手の刀を杖のようにして歩く。


 目的は目の前の木の小屋。


 もう、辿り着く。


「あの、失礼します」


 体を使って扉を開けて、少女は発声した。

 力強さと落ち着きが宿った美声だった。


「娘よ」

「……!」


 少女は右手の刀を持ち上げて、左手の抑える対象を右脇腹から刀へと変えた。

 構えた姿勢は剣豪にすら届くほど綺麗である。


「驚かずともよい、私は襲ったりはしない」

「……鬼を、信じるとでも?」

「信用できんか。しかし、私には襲うことはできんのだ。安心せよ」


 目の前の鬼は着ていた服を緩め、腹を出した。

 正確には腹があるべき場所、かもだが。


「もう、逝くんですか」

「ああ、もう体が土に還り始めている」


 腹の骨を見せた鬼はさらに、手の袖をめくって骨を見せた。

 手には肉が残っているのに、その先の腕が骨という状態で少し気味が悪い。


「安心しました」


 少女は鬼に戦うほどの力はないと判断した。

 左手を右脇腹に戻し、正確に弱点を狙っていた刀も降ろす。

 しかし、力は込めたままだった。


「そうか、よかった。私には頼みがあるのだ」

「……なんです」

「私を殺せ」


 込めたままだった右手の力が緩んだ。


「報酬は刀だ」


 そう言って、鬼は鞘から刀を抜いた。

 危険なのかもしれない状況だが、少女の力は依然として緩んだままだった。


「かなりの業物ですね」

「これは鬼刀キトウだ、知っているだろう? 」

「ええ、鬼が自らのために一本だけ刀を創ると聞いたことがあります」

「そうだ、鬼の命とも呼ぶべき代物だ」


 鬼魂が宿っていて、所有者には呪いがかかることがあると言われている鬼刀。

 俗世間では妖刀と呼ばれることもあるらしい。


「先払いでやる、受け取れ」


 持っていた刀を一度、地に刺し、両手で鬼刀を受け取る。

 ずっしりとした重みを感じたが、少女の手に良く馴染みそうであった。


「ありがとう、ございます」


 礼を言うと、すでに先程まで肉が付いていた鬼の手が骨になっていた。

 一分一秒なのだろう。

 流れで報酬は受け取ってしまった。

 私にはこの鬼を殺す義務がある。

 少女は受け取った刀を腰に刺し、地に刺した自らの刀を両手で持ち、完璧な姿勢で構えた。

 鬼も気が付いて、受け止める姿勢になる。


「いきますよ」

「ああ、頼む」


『スパッ』


 迷いはない。

 少女は軽々鬼の首をはねた。

 鬼の頭は地面に着くよりも前に灰になった。

 体も同様に。


「……」


 彼の死後、小屋を漁ってみたが、食物や武器などは全く無かった。

 どうやら私が受け取った刀【鬼丸国綱】のみが彼の唯一無二の遺品のようだ。

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平原少女鬼〇 シバ・タツキ @tatuki-24

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