【一巻発売記念SS】ドロップ&カニ祭り

 Web版の方のストーリーで書いております。


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 時は、仲間に嵌められ、転移の罠でダンジョンの下層へと飛ばされたスフォルを助けて街に戻ってきた後に遡る。


 激闘を経て、1週間以上ゆっくり休養を取った俺とスフォルは、体を慣らすためダンジョンへとやって来た。


 奥に行き過ぎると野営する必要があるので、行くのは20階までだ。


「ブクブクブクッ!!」


 軽い準備運動がてらサワークラブと戦う。


「やぁっ!!」

「ブクゥッ……」


 進化を果たしたスフォルの敵ではなく、サワークラブは一撃で消滅した。


「あっ、脚がドロップしました!! ドロップアイテムが出るなんて初めてです」


 彼女はサワークラブの脚を持ち上げて、嬉しそうにする。


 普通の探索者たちは運は初期値からあまり上がらない。でも、俺とスフォルは運の数値がレベルアップするたびに増えていく。


 現時点で俺たちの運の数値は、他の人たちとは比較ならないくらい高い。


 検証の結果、運がアイテムドロップの確率に影響を与えているのは間違いない。


 今の俺たちのステータスなら、ドロップしやすいと言われているサワークラブの脚くらいドロップするのが当たり前だ。


 でも、スフォルは少し前まで運がマイナスだったため、すんなり戦いに勝つことさえ難しかった。アイテムドロップなんて尚更だ。


 だから、あれほどはしゃいでいるわけだ。


 彼女が喜ぶ気持ちはよく分かる。俺も進化した当初は同じ気持ちだったから。


「スフォルの予期せぬ出来事は予期せぬ幸運に変わったし、運のステータスも高いからな。当然の結果だ。それじゃあ、俺もやるか」

「はい」


 武器がボロボロになってしまったため、素手で戦う。


 俺は一瞬で間合いを詰め、サワークラブをぶん殴った。


「はっ!!」

「ブクゥッ……」


 一撃でサワークラブは絶命。そして、すんなりと脚がドロップした。


「な?」

「本当ですね……」


 簡単に脚がドロップするのを見て、スフォルは言葉を失う。


「それじゃあ、本格的に体を動かしますか」

「はい!!」


 俺たちは11階から20階に向かってモンスターを倒しながら進んでいく。


「え?」

「はぁ?」

「またぁ!?」


 敵を倒すたびにアイテムがドロップし、その都度スフォルが驚愕していた。


 小動物のような彼女が慌てる姿は、なんだかほっこりした気持ちにしてくれる。


「やぁああああああっ!!」

「ブクゥッ……」


 そして、20階に到達した俺たちは、今日の締めとしてボスモンスターであるビッグサワークラブと戦い、あっさりとスフォルが止めを刺した。


 やはりすでに60階以上のダンジョンを経験し、進化も果たした俺たちにとってこの辺りのモンスターは相手にもならない。


 まぁ、深く潜る前の慣らしにはちょうど良かったから良しとしよう。


 死んだビッグサワークラブが一度姿を消すと、再びひっくり返り、縄で縛られてた状態で姿を現した。それは体まるごとがドロップアイテムだった。これはビッグサワークラブのドロップアイテムの中でもひと際レアなものだ。


「まさかボスモンスターまでレアドロップするなんて……」


 スフォルがぽかーんとしてしまうのも無理はない。


 だって、ここに到達するまでに倒したモンスター全てがアイテムをドロップしたから。


 マジックバッグの中は、サワークラブの脚とアイアンタートルの甲羅の他、魔石や多数のドロップアイテムで埋め尽くされていた。


 俺も流石にここまでとは思わなかったな。それほどまでに俺たちの運が高いということか。


「そういえば、ビッグサワークラブの完全ドロップは凄く美味いと聞いたことがある」

「え、本当ですか!!」


 ふと思い出して食い物の話をしたら、スフォルが食いついてきた。


 その顔は期待に満ちている。もともと売るのは勿体ないと思っていたし、ちょうどいい。


「女将さんに頼んで料理してもらおう」

「やったぁ!!」


 俺の言葉を聞いたスフォルは、嬉しそうに飛び跳ねるのであった。


 宿に戻り、女将さんに話をすると、あれよあれよと話が進んで、近くの広場で巨大カニ鍋会が開かれることになった。


 何メートルもあるビッグサワークラブが入る巨大な鍋が用意され、女将さんと旦那さん主導の下、調理が進む。


 折角なので山ほどあるサワークラブの脚も提供すると、次々に鍋とは別の料理へと変貌を遂げていった。


「久しぶりのビッグサワークラブだ!! あんたたち、しっかり働きな!! そうしたら腹いっぱい食わせてやるからね!!」

『はいっ!!』


 女将さんはスラム街の子供たちに仕事をさせ、料理を食べる機会を与える。


 子供たちはおなかいっぱい食べられるとあって真剣だ。


「それじゃあ、ラスト、あんたが音頭取りな」

「分かった」


 全ての準備が整ったところで、女将さんに背中をバンッと叩かれた。俺は一歩前に出て皆の注目を浴びる。


「今日はビッグサワークラブの身が手に入った祝いだ。皆存分に堪能していってくれ!! 乾杯!!」

『カンパーイ!!』


 俺が杯を掲げると、皆が待ちきれないとばかりの勢いで叫んだ。


 それから集まった人たちにカニ鍋やかにしゃぶ、かに玉、カニクリームコロッケなどが振舞われ、ダンジョン都市の下町は大いに賑わうことになった。


 そこには笑顔が溢れていた。



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「最低ランクの雑魚モンスターしかテイムできないせいで退学させられた最弱テイマー、『ブリーダー』能力に目覚め、やがて規格外の神獣や幻獣を従える英雄になる」

https://kakuyomu.jp/works/16817330668950536263

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【WEB版】雑魚は裏ボスを夢に見る~最弱を宿命づけられたダンジョン探索者《シーカー》、二十五年の時を経て覚醒す~ ミポリオン @miporion

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