Evol.094 面構えが違う

「うぉおおおおおおおおっ!!」

「急げぇえええええええっ!!」

「ぴぃいいいいいいいいっ!!」


 俺たちは今必死に走っていた。


 なぜなら、クランウォーの会場に遅れそうになっていたから。


 レベル上げをしていたら、うっかり期日を過ぎそうになっていた。というかこのまま走っていたんじゃ、正直間に合いそうにない。


 今は30階層に辿り着いた所。40階層まではまだまだかかる。


 間に合わなかったり、その場に現れなかった場合、敗北とみなされる。


 このままじゃヤバい……。


 しかし、俺たちにできるのは走ることだけ。後は運を天に任せるのみ。


「あっ……」


 その時、俺たちは罠を踏んだ。


「これって……」


 足元に魔法陣が描かれ、白く発光し始める。この反応は知っている。以前俺たちが踏んだ罠だからだ。


 それは転移の罠。ダンジョン内のどこかに転移させられてしまう。時と場合によっては非常に厄介な罠だが、今の俺たちの幸運はあの時の比じゃない。


「可能性はあるぞ!! 祈っておけ!!」

「お願いします!! 40階に連れてってください!!」

「40階、40階、40階、40階、40階……」

「ぴぃいいいいいいっ!!」


 俺たちは会場である40階に飛ぶことを祈って真っ白な光に包まれた。


『いったいどうしたことでしょう。いまだに対戦相手である不屈の踏破者が現れておりません。後数分で規定時間となり、女神の導きの不戦勝ということになります。そうなりますと、女神の導きが望みが叶えられる形となります。もしかして、怖気づいてしまったのでしょうか――こ、これは!?』


 視界が変わると共に誰かの声が大きくなって聞こえてきて、途中で何かに驚いたような声を漏らした。


 これはつまり……


「間に合った!!」

「良かったですね!!」

「ぴぃいいいいっ!!」


 叫んだと同時に視界が開け、辺りの風景が見えるようになった。


 周りは全て森に囲まれていて、目の前には手に棒のような物を持ったヒラヒラした派手なドレスを着ている女性と、その背後に何人かの人間と大きな鳥型モンスター。


 モンスターに敵意は感じないので、ビャクと同じく誰かの従魔なのだろう。


 先ほどクランウォーのことを話していた声の主はこの女性だ。俺たちは一番行きたい場所に辿り着いたということだろう。


 俺たちの祈りは届いた。


 派手なドレスの女性も後ろの人間たちも、俺たちを見てポカーンとした顔をしている。


 これはおそらく、クランウォーの会場に時間ギリギリのタイミングで転移でやってきた存在を見た者たちだ。


 面構えが違う。


「あ、あなたがたは?」


 ハッとした様子で派手なドレスを着た女性が俺たちに問う。


「俺たちは今日女神の導きとクラン・ウォーで戦う不屈の踏破者だ」

「えっと……どちらからいらっしゃったんですか?」


 やっぱりそこは気になるよな。


「転移罠でここに跳んできた」

「……よくピンポイントでここに来れましたね」


 女性は唖然とした表情で返事をする。


 俺たちも運のパラメータが高くなかったら、絶対にこんなことやろうと思わなかったので、その気持ちはよく分かる。


「俺たちはかなり運が良いほうだからな」

「そ、そうですか……」


 返事をしたら、少し呆れるような顔をされてしまった。 


「ギルドカードをご提示いただけますか? ……結構です」


 指示に従ってギルドカードを提示すると、その女性は頷いてカードを仕舞わせた。


「私はクラン暁所属、アイリーンと申します。今回のクランウォーは、私たち十三クラン序列十位、暁が司会進行及び審判を行いますのでよろしくお願いいたします」

「よろしく」

「よろしくお願いします」

「ぴぃいいいいいっ」


 俺たちはアイリーンと挨拶を交わし、説明を受ける。


 女神の導きは既に陣地に移動していて、後は俺たちが陣地に到着次第、いよいよクランウォーが始まるというところだったようだ。


「遅れて悪いな」

「いえ、ギリギリ間に合ってるのでお気になさらず。準備はよろしいですか?」

「ああ」

「それでは陣地までお送りしますので、こちらに来てください」

「分かった」


 俺たちが連れていかれたのは大きな鳥型モンスターの近く。その近くに人が住人以上乗れるような籠が置いてあった。どうやらその鳥が運んでくれるらしい。


「彼の名前はランバード。以後お見知りおきを」

「ピー、ピョロロロロッ!!」


 アイリーンが鳥の胸元を撫でながら俺たちに紹介すると、ランバードは甲高い声で鳴いた。


「ぴぃいいいいいいいっ!!」


 対抗するようにビャクも鳴いて挨拶を交わす。


 通じ合っている様子だ。


「うふふっ。それじゃあ、行きましょうか」


 2人の様子を微笑ましそうに見ていたアイリーンの指示に従い、俺たちは籠に乗り込んだ。


「おお、空を飛べるなんて夢みたいだな」

「本当ですね。いい景色」

「ぴぃいいいいいっ」


 今までずっと底辺で這いつくばって生きてきたから、空を飛ぶなんて考えたこともなかった。スフォルとビャクも楽しそうに下の景色を見てはしゃいでいる。


「これからクランウォーだというのに呑気ですわね……」

「やれることはやったし、後はこいつを守るために必死に戦う。それだけだからな」


 呆れるアイリーンにビャクの頭を撫でながら答えた。


「そうですか……肝が据わっているんですのね」

「最底辺から這い上がってきてるからな。このくらいで動じても仕方ないさ」


 アイリーンと軽い雑談をしている内に、俺たちの陣地に到着した。

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