第14話 日常への帰還

「やっぱモグリンのせいじゃん」


 モグリンにチラりと目を向け、きっぱりと言い放つ。


「なんでだよ!」


 王女様に締め上げられて白目を剥いていたモグリンが一瞬で復活して、プンスカと怒り出す。


「一途で純真な乙女をだまくらかして惚れさせたんなら、きっちり片をつけてからいなくなれ!」


「ぐっ……」


 ずびしと指を突き付けながら指摘すると、モグリンは言葉を詰まらせた。


「面倒だからって逃げるから、こういうことになってるんでしょうーがっ」


「……それに関してはごめんなさい」


 更に畳みかけたところ、モグリンは意外にも素直に土下座してあやまった。


「巻き込んじゃってごめんなさい」


 一方の王女様も、しゅんとして頭を下げている。


「で、でもっ、本当に危険はなかったんです。次元の堺にひしめいている電子生命体、あれ全部魔法で作ったフェイクなのでっ」


 モグリンを腕から話、指をもじもじと動かしながら、語り出す。


「だろうと思ったよ」


 てっきり怒り出すかと思いきや。

 モグリンはため息まじりにそう言った。


「え? モグリン知ってたの?」


「最初はぜんっぜん気づかなかったんだけどなー」


 言って、やれやれと肩をすくめてみせる。


「途中からなんかおかしいって気づいて、詳しく調べてみたんだよ」


 もはや抱っこから逃れることをあきらめたのか、つまらなそうな顔で王女様のスカートをつみつつ、語り続ける。


「そしたら、成分は変わらないものの、増殖機能もなく、ゲートに至っては、あと数日で自壊するよう仕組まれてたってわかってなー」


「放っておいても害はなかったってこと?」


 まぁ、旦那の話でも、そもそも電子生命体を集めるためのトラップだって言ってたし、ゲートとしての機能を残すつもりはもともとなかったんだろうけど。


「まぁ、そうなるな」


「じゃあ、私のしてたことって……」


「無駄骨だったな」


 ぽんっと、背中を叩かれ、思わず膝から崩れ落ちた。


 と、そのタイミングで泣きながら目覚める我が子。


 うるさくしてごめん。

 などと思う間に、旦那が素早く気づいて、抱き上げつつあやしていた。

 ホント、娘大好きだよな。

 浮気、疑ってマジすまん。


「ま、迷惑かけたし、ギャラは多めに支払っとくよ。それで勘弁してくれ」


 このくらいで、と電卓をはじいて見せる。

 ふむ。国民年金3年分ってところか。


 世界を救うには安すぎるけど、実質やったことと言えば、地電のスタンプラリーだし、作業に対しての対価としては充分すぎる額だった。


「税込み?」


 ふと気になって尋ねると


「消費税抜き、消費税別途記載で請求書出してくれ、源泉引いて振り込むから、ああ支払調書は年明けに送っとく」


 真顔で答えるモグリン。


「了解」


 世界を救うお仕事、とはいえギャラが発生している以上は所得になるわけで……確定申告時に支払調書があるのはありがたい。

 にしても支払調書か……社名とか所在地めっちゃ気になる。


「それと、あとはこっちで何とかするつーか、こいつに後始末させるから」


 言いながら、モグリンが王女様を親指でくいっと指さした。


「えへへ、一緒に頑張りますっ」


 満面の笑みで応える王女様。

 ホント、こんな迷惑生物のどこがいいんだか……。


「つーか、ちったぁ、反省しろっ!」


 王女様の頭を肉球でぽこんとはたくモグリン。

 「あいたっ」とか言いつつも嬉しそうな王女様。


 そんな痴話喧嘩を繰り広げながら、美女と珍獣は虚空へと消えていった。


「はぁ、疲れた」


 授乳ケープを被って乳をあげつつ、息を吐く。


 とはいえ、世界の危機は去った。

 というか、最初からそんなものはなかった。


(もう2度とこんなトラブルが起きませんように……)


 そう願いつつ、私はごくごく普通の日常へと帰っていくのだった。


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多次元ゲート クラッシュベイビー @moquar

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