エピローグ
火の国 港町ベルート
風が海の匂いを運び、街の中まで広がる。
この町を襲った、ある事件によって亡くなった住民もいたが、ちょうど買い入れや、農作物の運搬によって、この難を逃れた者が多かった。
亡くなる者もいたが、皆が新しい出発に希望を持ち、作業していた。
街の一番奥に位置する、ハートル家もその一つだった。
屋敷の土台が作られ、今は大工が柱となる木材を組んでいる際中だ。
それを1人の女性が見ていた。
白いワンピースを着た、黒髪でロングヘアの女性。
アメリア・ハートル。
暑い日差しを受けているが、これはアメリアにとって日課のようなもの。
作業してくれている人たちを労い、食事まで用意していた。
そこに、門を潜って歩いてくる1人の男性がいた。
その気配に気づいてアメリアが振り向くと、そこには自分の息子が立っていた。
全て銀色の髪で、黒のレザーパンツ。
白いワイシャツにネクタイ、ジャケットと着込まれていた。
「あら、アル!ラザンにいなくても大丈夫なの?」
「え?ああ、いいんだ」
そう言うとアルフィスはアメリアの横に並び、2人は修復されていく屋敷を見る。
「でも、不思議ね。誰が、この屋敷の修復費を送ってきたのか……」
「……」
「だけど、そのおかげで私とリンは、また2人で、ここに住める。感謝しないとね」
「2人じゃないさ」
「え?」
「これからは、僕が母上を守るよ」
「アルフィス……」
その言葉に驚くアメリア、少し残念そうな表情をしたが、すぐに満面の笑みに変わる。
アルフィスの肩を抱き寄せると頭を撫でた。
アルフィスは久しぶりの母の香りに、涙するのだった。
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日本
「あいつらまた来やがった」
昨日、喧嘩した不良が慎吾の高校付近で待ち構えていた。
慎吾は物陰に隠れて数人の不良を見つめる慎吾。
「あいつら来るなって警告したのに……しかしさすがに遅刻するのはマズイから今日はスルーだ……な……」
その時、慎吾はハッとした。
周りを見ると、見覚えのある建物が多くある。
ここは間違いなく元の世界である日本だった。
「俺は……戻ったんだ……」
慎吾はふと両腕を見た。
そこには、苦労して手に入れた最強の力はない。
「複合魔法……」
そう呟いてみる。
だが、何も起こらない。
この世界には"魔力"はないので、魔法なんて使えるはずもなかった。
慎吾は深呼吸すると、学校へは登校せず、自分のアパートへ急いで戻った。
なにせ、この日の昼頃に母親が死ぬのだから。
アパートの階段を駆け上がり、部屋へ向かう。
慎吾はドアを勢いよく開けた。
「母さん!」
「ん?慎吾……あんた学校は?」
そこには慎吾の母が、椅子に腰掛け、テーブルの上に新聞を置いて読んでいた。
安堵感からか涙が自然と頬を伝う。
その様子を見た母親は驚いた。
「どうしたの?」
「なんでもないんだ……それより母さん、今日、誕生日だろ?なんか飯でも食いに行こう」
「え?でも、あんた学校は……」
そう言いかけた時、母親は何かを察した。
慎吾は小学校から高校まで全て"無遅刻"、"無欠席"。
一度も学校に遅刻したこともなければ、病気などの欠席、サボりもない。
ただ、なぜか、この日だけは学校へ行かずに急いで帰ってきた。
そのことに母親は何かを感じたのだ。
「そうね……たまにはいいかも」
「だろ?今日くらい気楽にいこう」
「ええ。いいもの食べさせてね」
「もちろんさ」
慎吾と母親は笑い合い、町に出た。
そして、この日を境に慎吾は喧嘩をやめた。
アルフィス・ハートルになってから数年。
北条慎吾の長い旅路は、ここに終わった。
最終章 完
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終章 完
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章 完
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完
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数千年後
そこは、崖の上にある古城だった。
雲が厚く、雷鳴が響き渡る。
城の2階の一室。
暖炉の前で椅子に腰掛けて本を読む1人の女性がいた。
肩にかかるほどの三つ編みに、黒縁の眼鏡。
服は男性が着るような白の貴族服だった。
なによりも、その女性の髪の色は、この世界でも珍しいとされる"紫色"だった。
そこに、部屋に急いで入ってくる者がいた。
「ヴァレッタ様、お忙しい中、失礼します」
貴族服の女性。
ヴァレッタに付き従う女騎士だった。
「どうかしました?」
「やはり、南西のガーランド家が北西のエルブラッド家の領地に侵攻を始めました」
「やはり……」
「エルブラッド家の長男が行方不明だという情報です」
「この世界で最強と言われる魔導六聖天・
「はい……そこで、ガーランド家から、是非、魔導六聖天・
「はぁ……その申し出は断って下さい。この家は中立ですので。それに私は争いは好まない」
「はい。かしこまりました」
「それより、あの場所は見つかりましたか?」
「そ、それが、南のアル・ハート国の国境壁跡を探してますが、ヴァレッタ様が言われるような"丘"は見つかりません」
「そうですか……下がっていいです」
その言葉を聞くと、女騎士は頭を下げて部屋を出ていった。
椅子に腰掛けるヴァレッタは雷が鳴り止まない窓の外を見る。
「私にくれたもの……必ずそこにありますよね?アルフィスさん」
そう言って少し笑みを溢すヴァレッタ。
遥か遠い昔の出来事を思い出していた。
そしてヴァレッタは"読みかけの本"を、ゆっくりと閉じたのだった。
地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件
完
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地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件 フランジュ @Flange
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