#016 新しい家族との生活
今日のゲーム配信は終わり、その後のトークタイムになった。
「いやー、なんとかクリアできてよかったよ」
「これ難しすぎよ!」
【ルーミアが下手すぎw】
【アリスがこれだけミスしたの始めて見た】
まあそんなコメントが流れているがそれが事実だった。
「でもこうしてルーミアとコラボできて楽しかったよ」
「ええ、そうね」
【ところでこの前のルーミアの配信切断何だったの?】
まあ聞かれるよな⋯⋯。
「実は母がドライヤーと電子レンジを同時に使って、ブレーカーが落ちたのよ!」
どうやらルーミアは火事の事を公表するつもりはないらしい。
【ちょwそんな家まだあるのかw】
「ええ、だから引っ越す事にしたのよ。 だからしばらくは配信が出来ないわ」
どうやらルーミアの引っ越しには時間がかかりそうだった。
⋯⋯でもこれでよかった。
これからもルーミアが配信を続けられるのだから。
それから1時間近く僕らはコメントを拾いつつ、トークを楽しんだのだった。
「じゃあ今夜はこのへんで!」
「みんな! ばいにゃん!」
こうして今夜の配信は無事に終了したのだった。
── ※ ── ※ ──
そして僕は配信機材を切る。
ランプも確認して無事切れてる事を確認して、ルーミア⋯⋯いや芹沢さんの方を見た。
すると芹沢さんも僕の方をじっと見て⋯⋯盛大に噴き出した。
「あははははっ! おかしすぎる! アリスケ君が大真面目にあんな声で、女の子喋りで⋯⋯」
「そんなに酸欠になるほど笑っててもいいの芹沢さん? ⋯⋯あれだけ痛い『にゃん』とか言ってたくせに⋯⋯」
「私はセーフよ、可愛いから! でもアリスケ君のは完全にアウトよ!」
「ほう⋯⋯ボクと芹沢さんにそんな差があるのですか?」
真顔で『アリス』で返したら芹沢さんが笑い転げる。
「もうやめて⋯⋯」
「だったら『降参にゃん』って言ってよ」
「⋯⋯降参にゃん」
そんな僕らをドアを開けて冷ややかに見ていたのは姉だった。
「⋯⋯あんたら、配信終わってるのに何やってんのよ?」
とりあえず僕と芹沢さんは一時休戦になった。
「でもこれで納得はしたわ。 アリスケ君は絶対に私の事はバラさないって!」
「そりゃこっちもバラされたら、ダメージが芹沢さんより大きいからね」
むしろこっちはダメージどころか社会的に死ぬ。
「話は終わった? 留美、一緒に風呂入るわよ」
「一人で入れば姉さん?」
「駄目よ! 時間もかかるし」
そう言って姉さんは意味ありげに芹沢さんを見た。
「ええ⋯⋯わかったわ」
「芹沢さん嫌なら断っても⋯⋯」
「別に平気よ⋯⋯女同士だし」
なんか僕だけがのけ者みたいだが⋯⋯まあ当たり前である。
こうして姉さんと芹沢さんがお風呂に入った。
一人になった部屋で僕は⋯⋯。
「ここにさっきまで芹沢さんが座っていたんだ⋯⋯」
そしてそこに座って芹沢さんが使っていたヘッドホンを被ってみた。
「アリスケ──っ! バスタオル忘れた!」
「はいっ!?」
突然の姉の大声で僕はビックリした!
⋯⋯僕は一体何をしていたんだ? 変態じゃないかまるで。
僕はバスタオルを持ってお風呂場へと向かった。
「ここに置いとくよ姉さん」
お風呂場の磨りガラス越しにボンヤリと肌色が2つ見える⋯⋯。
すると突然ドアが開いた!?
「アリスケ、シャンプーも取って」
「きゃっ!? 開けないでよ栗林さん!」
「あっ、ごめんごめん留美」
「ほらよ!」
僕は見ないように後ろ向きでシャンプーを投げつけた。
「おっサンキュー、アリスケ!」
どこまでも姉さんはガサツで無神経だった。
そして急いで僕は更衣室から出ていくのだった。
「ふう⋯⋯こんなの身が持たないよ⋯⋯。 やっぱり芹沢さんがここで暮らすのは無理があったか?」
だが今さら駄目ですとも言いづらい。
しばらくすると二人がお風呂から出てきた。
いつもの姉さんの入浴時間の2倍くらいはかかっている⋯⋯。
一緒に入る意味あったんだろうか?
「アリスケ、ジュース頂戴」
「ほい姉さん」
「あんがと」
「はい⋯⋯芹沢さんも」
「うん⋯⋯ありがと」
お風呂上がりの芹沢さんからはいい匂いがした。
姉さんと同じシャンプーを使っているハズなのに⋯⋯。
「じゃあ僕もお風呂入って来るよ」
「あ、待ってアリスケ!」
「なに?」
「今お湯入れ替えてるから、ちょっと待って」
「⋯⋯」
いつもそんな事を気にしないのに姉は⋯⋯。
そうか芹沢さんが居るからか。
「ごめんなさいアリスケ君⋯⋯」
「気にしないで、やっぱり気になるよね女の子なんだし」
「そうよ! 女の子は繊細なの!」
姉さんは黙ってろよ、いつもお湯入れ替えたりなんかしなかったじゃないか!
こうしてお湯を張り替えたお風呂に僕は浸かる⋯⋯。
「いろいろ大変だな⋯⋯年頃の女の子と同居は⋯⋯」
そんな事を考えながらその日は僕も長湯になってしまったのだった。
その日は芹沢さんは姉さんと一緒に寝たのだった。
まだ芹沢さんのためのベッドが無いからね。
翌日も芹沢さんは学校を休んだ、火事の事後処理があるからだ。
「じゃあ行ってきます」
「居てらっさいアリスケ」
「行ってらっしゃいアリスケ君」
⋯⋯こうしてクラスメートに見送りされるのはなんか不思議な気分だな。
それからの話をしよう。
結局芹沢さんは元のアパートには住めないため僕らのマンションに一時的に来る事になった。
元アパートにあった家財の大半は事務所が手配してくれた倉庫に保管されて、今は必要最小限だけ芹沢さんは僕らのマンションの、最後の空き部屋に持ち込み新生活を始めたようだ。
芹沢さんが元々使っていたパソコンは壊れてしまったため、今は事務所が買ってくれたニューマシンになっている。
購入時期の関係か僕のマシンとお揃いで、なんだか嬉し恥ずかしい気分だ。
こうして僕らのマンションから芹沢さんも無事に配信ができる事になった。
「みんなーこんばんにゃー! ルーミアだよ! 無事に引っ越し終わったにゃん!」
そしてルーミアは無事に復活した。
こうして僕と姉と芹沢さんとの奇妙な共同生活が始まったのだった。
と言っても学校での僕らの関係が変化した訳ではない。
学校での僕と芹沢さんは今まで通り会話もない。
表面的には何一つ変わらない関係だ。
でも時々目が合ったりする事もある。
僕は不自然にならないように会釈する程度に止めていた。
あとお昼ご飯は一緒にはならないようにしていた。
だって同じお弁当だし⋯⋯。
見つかったらヤバい事になるからね。
その日は買い物を済ませて僕が帰宅すると芹沢さんは既に帰宅済みだった。
「お帰りなさいアリスケ君」
「ただいま芹沢さん」
こういうのもすっかり慣れてきたな最近は。
芹沢さんは居候として家の掃除なんかを手伝ってくれる。
こうして家主の姉はますますズボラになっていった。
それから僕らは一緒に宿題をしたり、夕飯を作ったりしている。
「ねえ留美、今夜の配信にゲストで来てよ!」
「ええ、いいですよ真樹奈さん」
いつの間にか芹沢さんは姉と名前で呼び合う関係になっていた。
それと同じくらいに二人のコラボも最近多い、まあ同居しているからやりやすいのだしね。
「アリスケも一緒にする?」
「うーんそうしようかな? 芹沢さんもそれでいい?」
僕も参加する事が増えたな。
芹沢さんもそれでいいらしい。
「アリスケ君が入ってくれるとゲーム配信は楽よね」
「まあ芹沢さんや姉さんがゲーム下手すぎるだけだし⋯⋯」
「やかましいわね。 ところでアリスケいつまでその他人行儀な呼び方なわけ?」
「他人行儀?」
「留美の事よ、いつまでも芹沢さん芹沢さんって他人みたいに⋯⋯」
「いやだって他人だし」
「違うわ家族よ。 ⋯⋯ここで一緒に暮している間はね」
僕と芹沢さんはお互い見つめ合う。
「その私も、いつの間にかアリスケ君って呼んでたし⋯⋯留美でいいわよ、アリスケ君も⋯⋯」
なんか顔を赤くして照れてるな⋯⋯。
「じゃあ⋯⋯留美⋯⋯さん? って呼んでも?」
「うん⋯⋯いいよ」
「かー、そこは呼び捨てでいいでしょ! ヘタレねアンタは」
「うるさいな、姉さんは⋯⋯」
結局姉さんはこのぎこちなかった空気が嫌なだけだったんだろう。
この事がきっかけでこの家の中の僕と留美さんの関係も少しだけ変わった⋯⋯のかもしれない。
こうして僕ら三人の新生活はようやく始まったのだった。
── ※ ── ※ ──
「みなさんこんばんはー! マロン冒険団の時間ですよー! さて今夜のゲストはいつもの二人の⋯⋯」
「アリスです!」
「ルーミアよ」
「この三人でお送りします!」
これが新しい日常、これがこれからの生活なのだと僕はこの時まで思っていた。
── ※ ── ※ ──
『この三人でお送りします!』
私はそれを画面越しで見ながら⋯⋯。
「ずるいよマロン⋯⋯私をのけ者にするなんて⋯⋯」
プシュッ!
パソコンからの音しかないこの薄暗い部屋に缶チューハイを開ける音が響いたのだった。
◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆
こんばんはアリスです。
今夜は何とあのルーミアちゃんがゲストに来てくれました!
みんなもちろん☆☆☆押してくれるよね? (圧)
え? 押してくれないの? なんで?
君たちさ~、なにかルーミアちゃんに不満でもあるの?
無いでしょ? あの猫耳ツインテールの紫髪でちょーぜつカワイイ、ルーちゃんなんだよ!
ルーミア「⋯⋯アリスその辺で、ちょっと恥ずかしいから///」
照れてるルーミアちゃん頂きました──!
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